ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第13章 ガラリアを愛する者たち

 ラース・ワウ城は、石塀に囲まれた、山城である。山頂部分は、平らなラース・ワウの敷地が全部であり、なだらかな尾根づたいに、城門への馬車道が続く。門をくぐると、広い中庭があり、朝礼はこの中庭で行われている。中庭から正面を見て、中央にある棟が、領主の家族が居住する宮殿。その左右に回廊がのび、西の棟には、アトラスが宿泊した客間(現在はショット・ウェポンの部屋)や、騎士団長バーン・バニングスの個室がある。中央宮殿をはさんで、反対側の東の棟、奥の1階に、小庭に面した副団長ガラリアの食堂があった。

 東の棟の、1階の回廊を歩くと、廊下をはさんで左側に厨房、右側に扉があり、それを開くと、こじんまりとした副団長専用食堂に入る。板貼りの部屋に、さして大きくはないテーブルと、赤紫のビロードの椅子が、2つ。中庭に面して腰窓がひとつあり、その窓を背に、2人掛け用の、緑色のソファーが置いてある。ソファーの右側に、小さな文机を置き、ガラリアは、そこで、ちょっとした書き物をする事が多かった。ソファーに座り、右利きのガラリアは、右わきに置いたその机に、上半身を傾け、羽ペンに、青いインクで、例の、ど下手くそな文字を書くのだった。この部屋にある、家具は、これだけである。

 ガラリアとユリアは、同じ形の、袖なしのブラウスを着て、テーブルに向かい合って座り、銀製のフォークで料理を口に運んでいた。ガラリアのブラウスは白、ユリアのはスカイブルーである。2人の女性は、肩から二の腕を露わに、肌色のひじを、白いテーブルクロスの上に躍らせ、食事とお喋りに余念がなかった。

「ユリアの髪に、その青色はよく似合うな!下の、黒のスカートにも合っている。」

「そうですか?うふふ、これを買ってみてよかったですわ。スカートは色も同じ、黒でお揃いですわね。あら、わたくし、裾の丈が、少し長いかしら?ガラリア様との身長差が、考えになかったですわ」

食卓をはさんで、椅子に腰掛けている女2人は、机の下を見下ろして、素足に履いた、金色のパンプスのかかとをぷらぷらさせて、自分たちの足を眺めた。ガラリアの黒いタイトスカートは、着席すると膝が見える長さ、ユリアのは膝が隠れている。そして2人は、机上で向き合い、くす、と笑った。

「ガラリア様には、白が本当にお似合いになって。肌の色が、より映えますこと。あら、口紅はいつもと違う、薔薇色ですのね。素敵ですわ、わたくしも口紅をしてみようかしら。この服は…着心地がいいですわね。首がきゅうくつでなくって。」

「うん…こういう襟の形は、大人っぽいと思って今まで着たことがなかったのだ。ユリアに勧められなかったら、買おうとは思わなかったかもしれぬ。胸元がこう、逆三画形に開いていて、乳房の下まで出すスタイルというのは。」

この襟は、地上ではVネックというが、Vの字自体が無いバイストン・ウェルには、ぶいねっくという表現は無い。Vネックの、ガラリアの胸元は、乳房の曲線を、みぞおちまで見せている服である。ガラリアの乳房は白く、素肌がつややかに光り、21歳の今、93センチのDカップ大に膨らんでいた。

「これだとブラジャーがつけられませんわねー。ノーブラで勝負するには、わたくしはもっとムネがほしいです。子供の頃、牛乳を飲めば大きくなると聞いて飲んでましたのよ。でも、いつの間にやら、成人してしまいましたわ。どうやら、この大きさで打ち止めのようで!」

<ノーブラ>という言い方は、アリらしい。ちなみに、本編は、ゼット・ライト全集『言語学編』に準拠した翻訳を採用している。

ユリアは、Bカップのスレンダーな上半身が、スカイブルーのブラウスに沿っていて、グラマーな短髪の美女ガラリアと、好対照となる。華奢な身体に黄緑色のセミロングが、可憐な乙女といった印象だな、とガラリアは友達を見つめた。仲の良い女同士は、お互いの容貌をも、愛でるものである。

「打ち止め。あはは、打ち止めか、面白い事を言うなあ。いいや、ユリア、もめば、まだ大きくなるらしいぞ。」

「もむって、自分でもむのですか?もんでもらうのでしょうか?あら、わたくしったらお食事中に、はしたない」

「あはは。食事中でなければ、はしたなくてもよいのか!」

「よいのではありません?うふふふ」

「あっはっはっは」

 不思議だな。ガラリアは、自然に微笑んでいる自分に問い掛けた。

 女同士とは、このように打ち解けられるものだったのか。私が、子供の時から、自分1人で悩み、考え込んできた疑問が、ユリアにはなんでも話せてしまうし、男に話す時みたいに、クドクド説明しなくても、ユリアには、すぐわかってしまうのだ。男には決して、アトラスにさえ話せなかったことでも、彼女には話せるのだ。

月経痛には、赤詰草の頓服が良く効くと教えてくれたし、椅子はどの製品がいいのか<※>、綿百%のものが、ムレない、かぶれないと、ユリアに教えてもらい、月のもののわずらわしさが、随分軽減したのだ。こんなことを、話し合える存在が、私の生活に出現したことが、とても不思議な気持ちなのだ。自分が、笑えるようになった事も…

<※赤詰草:あかつめくさ。バイストン・ウェル特有の植物で、燻して粉状にしたものが鎮痛剤になる。

※椅子:いす。バイストン・ウェルの隠語で、生理用品のこと。
地上でいうナプキンだが、バイストン・ウェルでナプキンと言っても、食卓のお手拭き用のものしか指さない。バイストン・ウェルで、椅子と言えば、家具を指す場合と、生理用品を指す場合がある。>

 女召使いが、開け放たれた扉から、お盆を持って入って来る。ガラリアは、運ばせたボンレスの腸詰めをユリアにすすめ、フォークを動かし、口を動かしながら、少し表情を曇らせた。薄緑色の瞳に、睫毛が影を落とした。

(腸詰めか。アトラスが、よく私にすすめてくれた。こんなふうに、彼とテーブルで向かい合い座り…あの別荘で…もう3年経つのか…あの頃、こんな服を買う余裕がなく、私は、ピンク色の制服のまま、彼の別荘へと、赴いていた。安い月給から、捻出して、彼に見せるためにと買えたのは、下着だけだったな。そう、彼に見せるためにと。こうして、女の友達と服を買い、食事をしたりして、気持ちが安らぐとは、想像できなかったな…)

 ユリアは、腸詰めの蒸し物を、おいしいですわーと食べていたが、急にびっくりした顔になり、口に肉をいっぱい詰めたまま、

「ファファリアファマー!」

ガラリアさまーと、言ったようである。

「おい、ユリア、のみ込んでから喋らないと、喉につまるぞ。そら、水を飲め。」

ユリアはなにやら慌てているようだ。ごくんごくん、コップの水を飲み干して、

「はぁ、うん、あの、ガラリア様。上申書の清書は、できてましたっけ?」

「あっ…いかん、忘れていた。いや、まだだったのだ」

軍服を脱ぎ、シャワーを浴びて、きれいな服を着てみたら、いつもと違う口紅も、つけてみたくなって…食堂に行ってから書こうと思っていたら、先にユリアがいて、服の話しになり、召使いが前菜を運んできて…ガラリアは、まんまと、ユリアの策に、はまっていた。ユリアは、作戦の、ターゲットの名を口にした。

「ええーっ。もうすぐここへ、バーン様が取りに来られるのでしょう。できてなかったら、あの方、また怒鳴りますわよぉ。ああ、いやですわー!」

ユリアは、いかにも、バーン様コワーイという、しかめっつらを、ガラリアにして見せた。守備隊長は、部下であり友人であるユリアに、悪いところは見せられない、これはいかんと焦り、窓際の文机に置いてあった用紙を取ろうと、席を立った。慌てた<そぶり>のユリアは、

「こちらの食卓で、お書きになられては?わたくし、草稿で書き足りないと思っていた点がありましたの、思い出しました。ガラリア様に、書いていただきたいのです、お願いします」

ユリアの言う通りに、ガラリアはテーブルに、羽ペンとインク壷と、用紙を持って来て、腸詰めの皿をよけ、皿とコップの間で、ペンを走らせた。急いでいるので、通常の3倍の、ど下手くそ文字になっているが、本人は<多忙な職業人らしい流麗な文字>だと思っている。ペン先をカリカリ鳴らし、ガラリアは、青いブラウスの肩に、黄緑色の髪がかかる友人へ、三白眼を向けて尋ねた。

「書き足りないとは、なんなのだ、ユリア。」

「署名欄がなかったでしょう。」

「署名欄?私のならば、文頭にあるぞ、ちゃんと。ここ。

『 副団長 兼 守備隊長 ガラリア・ニャムヒー 』 

と書いた。ほら。」

バイストン・ウェルにはハンコがないので、書類の署名は、筆記によるサインである。

「いいえ、末尾に、バーン様がサインする欄を、予め作っておいた方が、いいと思いますの。」

ユリアは、先ほどまで、ふざけて笑っていた顔を、突然、真剣な面持ちに変えた。ガラリアも、頼もしい友人に、なにかアイデアがあるらしい、なんだろうと、眉間にしわをよせた。ユリアは、コップを持っていた右手をこぶしにして、テーブルに置いた。こぶしにギュッと、力をこめ、テーブルクロスにしわをよせた。そしてユリアは、ガラリアの物まねをするように、眉間にも、しわをよせ、

「ね、ガラリア様。朝礼で、ドロの配備について、ガラリア様が、発言して下さって、わたくしは溜飲が下がりましたの。本当に、そうですもの。そもそも当初予算案からして、バーン様は、ご自分の隊にだけ、機械を導入されたのですわ。それで軍全体の統括ができるとお考えなのならば、おかしな事です。なぜ、その時点で、守備隊への配分が全く無かったのか。ガラリア様の進言を取り入れなかったのかと。」

「まったくだ!バーンに軽んじられて、黙っておる私ではない。うむ、それでッ?ユリア、お前の意見を聞こう!」

食堂の守備隊長は、軍務に燃える戦士の魂が、赤々と、燃え上がってきた。

「上申書を、ただ提出するだけでは、バーン様が、ご自分1人で読み、騎士団長裁量で、却下で終わりになってしまう可能性が、大では御座いませんか!」

愛敬のあるはずのユリアの顔は、今、般若のような怒りに満ち、右のこぶしは、ゴン!とテーブルに叩きつけられた。ガラリアは、そうだその通りだとうなり、友人の勇ましさ、目端の利く事に感歎し、興奮した羽ペンの文字は、一層、ぐちゃぐちゃになっていった。

「ですから、ガラリア様。ここにバーン様がおいでになったら、この部屋でサインまでさせるのですよ!」

とユリアは、身を乗り出し、ガラリアの手元の、書面の末尾に指を置き、

「ここを空欄にしておいて、続きに、

『 騎士団長           了承済 』

と、書いておいて、バーン様に、羽ペンを手渡してしまえば、いいのですわ。」

「なるほど!バーンがサインをすれば、騎士団長が承知した事実となる。サインしてしまえば、お館様にお見せしないわけにはいかぬ。そうか、その手があったか…」

ガラリアを愛するユリアは、自分だけ利発でありたいとは、思っていないし、また、彼女の目的は、ドロを獲得したいだけではない。ガラリアの友は、黒い目を、また優しげに細め、

「昼間、ガラリア様が、食堂に取りに来い、と仰ったのが、効を奏したのですわ。」

そしてまた、下士官ユリアの、勇ましい口調になり、我らがガラリア様を、鼓舞した。

「ここは、守備隊長殿のお部屋ですからね、いくらバーン様が上官でも、サインするまでこの部屋を出るなと、せまれば、いえ、問い詰めればいいのです。そうしてほしいのですわ。わたくしども、守備隊員は、ガラリア隊長の手腕を、頼りにしておりますの。ねっ!お願いいたします、ガラリア様。オーラ・ボム、ドロを守備隊に!わたくしどもに、機械で手柄をとるチャンスを、お願い、いたします。」

「ガラリアたいちょうのしゅわんを!」の部分で、彼女は興奮したかのように、右のこぶしを、ぶるんぶるんと振り回し、語尾の「オネガイ、いたします。」の部分で、黒い瞳を、殊更、潤ませた。

あぁ、ユリア。私と同じ気持ちの部下よ。軍務への情熱が、ガラリアを撃った。

この友人の、信頼に応えなくては。私は隊長だ、我が守備隊が、手柄をとらなければ。私は、バーンより手柄をとらなければ。ううぬ、やるぞ!来い、バーン、ここで、必ずサインさせてやるぞ!

…ガラリアは、自分が今、<おっぱいの谷間丸出しの服を着ている事>を、すっかり、忘れてしまっていた。

 


 ガラリアが上申書を書き上げた時、開放されたドアの方、食堂の廊下の、西の彼方から、1人の、軍靴の音が聞こえてきた。カツカツカツ、歩幅の大きな、ブーツの足音。その足音を、8年間、聞いてきたガラリアは、それが誰なのか、足音だけでわかるようになっていた。

 スカイブルーのブラウスと、ガラリアとお揃いのスカートのユリアは、すっくと椅子から起立し、ガラリアに

(では、頑張って下さいまし!)

と目配せをして、足音のヌシが食堂に入るより先に、廊下の反対方向へと立ち去った、ように見えた。ユリア・オストークは、小さなテーブル上に、自分の食べ終えた皿やコップを、いっぱい散らかしたまま退室しており、廊下の向かい側の厨房に立ち寄っていた。ユリアは、厨房にいる女召使いに、ひとこと、こう告げていた。

「テーブルの皿は、まだ片付けないで。」

そして、食器でいっぱいのテーブルに向かい、着席しているガラリア1人が、待つ食堂に、ドレイク軍の、平時の制服姿で、バーン・バニングスが、入って来た。

 歩きながらバーンは、座っているガラリアをちら、と見、いつもの制服のピンク色ではないので、

(ああ、私服か)

とだけ、思った。バーンは、ガラリアの、制服と軍服以外の私服姿を見るのは、初めてだったが、そもそも女物の物品に明るくないため、この時点では、事態の重大さに気がついていない。

早く用事を済ませたいバーンは、室内をさっと見渡し、まず、ガラリアと対面している、ユリアがいた席に、座ろうとした。ところが、机上を見ると、食い散らかした食器が散乱しており、しかも策士ユリアは、座席のビロードに、水をこぼしておいたので、バーンは、ここには座れなかった。

 バーンの制服は、朱色のセーターに、同色のズボンに、橙色の上着上着は、ガラリアやゼットと同じ型である。襟ぐりは四角く、長袖で、裾は腰を覆う長さ、そして、腰の前部分は、襟と同じに四角く切り抜かれていて、太ももにぴったり沿った朱色のズボンの股間が、男女とも見えているデザインである。

この、いつもの制服を着用しているバーンは、テーブル椅子以外に、唯一残された、座る場所、窓際のソファーに、

「書面はできているのか。」

と、仏頂面で言い、腰掛け、腕組みした。

テーブル席にいたガラリアは、ユリアに吹き込まれた<バーン様に負けないで折衝お願いします>思想で、頭がいっぱいだ。勇んで、ガラリアは、椅子から立ち上がり、ソファーに歩み寄った。

「当たり前だ。できているに決まっているだろう。これだ。見ろ!」

 見ろ!と言われたバーンが見たものは。

(…な…なん…なんだ、その、服は!!)

数歩先の、食卓から、自分へと向かって来る、彼女は、引き締まったウエストからお尻のラインをくっきり際立たせた黒いスカート。素足で、白いすねが、剥き出しの足が、くねくね動いている。彼女の美しい顔の、耳元にはいつもの耳飾り。金色のピアスと、靴とは同じ色で揃えてある。そして、バーンの、

幼馴染みの、14歳の少年時代に出会った恋の、アトラスの一件以来、激しく強く、密かに想い続けている、見るだけ話すだけでも拷問である美しさの、仲良しだった少女期を思い出しては切なく、大人になっていく姿を見るほどに狂おしい、バーン・バニングスの珠玉の女性、

その名は高き、ガラリア・ニャムヒーたん21さいは、白いブラウスの胸元が、全開でーす。谷間丸見えでーす。歩くと、ノーブラのDカップが、左右に揺れます。ポムポム。袖なしの両腕をふりながら、こっちに向かって来ます。ムネが、ポムポム。

(…そ…その…ムネの開いたふくは、なんだ!!

 ムネが。おっ…オッパイがウワァァァアアアアア
 
 おっぱいがあぁーーーーーーーーーーーーッ)

「バーン、見ろ!ほら!」

ポムポムのガラリアが、片手に持った紙を差し出すと、二の腕の素肌が、バーンへとのびる。着席の男の前に、彼女が立つと、座っている者の眼前には、デカパイの谷間が、どーん。

 ガラリアはといえば、バーン・バニングスには、自分の「色香」など、効果0%であると、未だに思い込んでいた。バーンにだけは、通じないと、信じて疑わないでいるという、相変わらずの鈍感ぶりであった。しかも、今は、ドロの上申書に、サインさせる意識でいっぱいである。それでイッパイなので、自分のオッパイには、全く気がいってないのである。

 咄嗟に、自分から目をそむけたバーンを見下ろし、ガラリアはこう思っていた。

 守備隊を軽んずるバーンめは、私が書いた書面を、おや、ひったくったぞ。
ふん!とにかく、この男は、私を、無視してばかりなのだ。

3年前の、アトラスとの戦は、お館様の命令だったのだから…私は、お前を、今では、恨んだり、してはおらぬのに…なのにバーンの方は、私が、仕事上で話そうとしたって、このように、ぞんざいな扱いばかりする。

どうしてだ、私にだけは、どうしてそんなにそっけないのだ、私にだけ!

やはりバーンは、私へのライバル意識から、私に機械を使わせないように、しているのか?

…私のことが、嫌いなのだな。そうなのだな。…だから、もういいのだ!

私は戦士なのだ、軍人の仕事に生きるのだ。だから、バーンをこそ、バーンだから…彼を、私は、追い越して見せる。名誉なことに、私は副団長にまでなったが、まだこれから、もっと戦功を上げるのだ。機械だって、バーンの警備隊にだけ、使わせないぞ。私の隊の評価を、これで上げて見せる。

 さて、バーンは書面で顔を覆って、熱心に読んでいるようだな?

「バーン。よいか、どうだ!」

バーン・バニングスの、脳内では、激戦が繰り広げられていた。目の前には、ガラリアのオッパイ。

み…見たい…いかんいかん!見てはいかんのだ。こんなスバラシイものを、直視しては、

 制服のデザイン上、多大な不都合が生じるのだ。

 だからわたしは、上申書で顔を覆ってみた。内容を読むことで、脳内から、巨大な敵・オッパイを、退却させるため。ところが、ガラリアの書いた文字は、いつにも増してぐちゃぐちゃで、判読不能個所だらけだ。

バーンは、紙から視線をはずさないまま、蚊の無くような声で、発声した。

「ここの…請求個数は、12機か?」

「20機だ!どこを読めば20が12になるのだッ」

ガラリアは、バーンが意地悪をして、わざと数字を少なく計上しようとしていると勘違いし、憤慨した。ゆれるムネの彼女は、バーンのソファーの隣りに、どん、と座ってしまった。2人掛けソファーの右隣に、みぞおちまで全開服のガラリアが腰掛けたのである。バーン脳内戦闘は、この攻撃により、劣勢に追い込まれた。守備隊長は、並び座る警備隊長の手元、書類を覗き込んで、

「ここであろう?20機。書いてあるだろうが、ちゃんと。ほら、見ろ!ちゃんと、見ろ!」

隣りから、自分の手元にかがみこまれたバーンは。

(見るな。見てはいかん。我が右腕に、敵・オッパイが触れそうだ…見てはならぬ!

…見ては…ならぁ…ぬ…

あぅ、だめだ。目が。目がぁ!ガラリアの胸元にいってしまう!
なんていい形だ。なんて白い肌だ。
これが、ガラリアの素肌か。ガラリアのオッパイなのか。
大きい…ちょうどよく、大きいオッパイ…
ああ、すかぁとをはいている。ひざこぞうまで、丸出しではないか、つるつるの素足がにょきにょきとこの…

なんで、そんな扇情的な服を着るのだ。ええいっ、けしからん!
しかし夕食は自由時間だ、私服を着るなとは、言えぬし…
…ああ、初めてガラリアのムネの谷間を見た…
しかも、ぷにぷにの二の腕と、袖なしのわきの下と、その横に、
生地からはみ出るワキパイパイまで、見えるではないか。
オッパイ好きは、ワキパイパイも好きなのだ、今まさにわたしの右横には、

ワキパイパイ(左)+おっぱい(左)+谷間+おっぱい(右)+ワキパイパイ(右)
スペシャルフルコース

   (△γ△) ←こんな感じ

谷間がそこまで見えるいうことは、ぶ、ぶらじゃーは、してないのだな、では、その薄物の、すぐ下は、モロ乳首か。

…いかん…勃起しそうだ。 いやもう既に半ボ!!

いかーん!この制服、勃起したら、丸わかり になるのだ。ガ、ガラリアに、わたしが勃起しているのを見られたりしたら!
わたしがこれまで、築き上げてきた全ての努力が、水のアワになるのだ!立つな、我が剣よ。見るな、我がまなこよ!ああ、そうか、見なければいいのだ)

暗い表情(と、ガラリアには見えた)のバーンは、ソファーから立ち上がり、

「わかった、では持っていく」

と言い放ち、そそくさと部屋から出て行こうとしたのに、バーン・バニングスの正面に、ガラリアは立ちふさがった。出入り口の手前に、さっと飛び出て、仁王立ち。ノーブラでそんなに激しく動くと余計、オッパイはポムポム。

「待て!そのまま持っては、いかせぬ。バーン、このペンを持て。」

と、羽ペンを差し出されたバーンは、もうかなり、おかしくなっているので、やわらかな鳥の羽を見て、

(羽部分で…ガラリアのビーチクを、クリクリ、いじりたい)

と思ったりなんかして、またその思考を、脳内から追い出そうと、必死で闘った。彼の闘う様子は、ハタから見ると、そわそわ、落ち着きなかったり、またはボーッとしたりの繰り返しである。

ガラリアは、今日のバーンは、妙に消極的だな?なんだかわからぬが、サインさせてしまえば、こちらのものだ。

棒立ちのバーンに(棒立ちなのはバーンの全身である)ガラリアは、

「ここで、書け!名前を、それに書いてからいけ!」

(ここで、コけ?ナメナメを、ソレにコイてからイけ?)

だめだ。気が狂いそうだ。どうして男というものは、欲情している状態が、着衣でも判明になってしまうのだろう。その点、女はいいよな。花が濡れたところで、着衣では、他人に悟られることはないからな…花…スカートからのびる、あの足の付け根に、ガラリアの花が…だめだ。昨夜、寝てしまって、抜かなかったから、特にたまっているのだ。半ボだ。いや7割に近くなっている。我が理性とは、かくも脆弱なものなのだ。わかってはいたが、ガラリア、お前のその服は、なんとも卑怯だ!

 バーンは、テーブル椅子の背に、紙を持ってない方の手をついて、全身がくの字になるまでうつむき、なおかつ上半身をねじって顔面をガラリアからそむけ、片膝をへそのあたりまで上げるという、たいへん不自然な姿勢で、低く嘆息した。それは、ズボンの前を見られないように、剣を静めようと、努力しているのだが、おバカなガラリアには、

(腹でも痛いのだろうか)

という認識だった。

 騎士団長は、彼女の手から、羽ペンをひったくり、食卓の上でサインだけ済まそうとした。立ったままテーブルで書こうとして、皿とコップが散乱しているのを、ええい、邪魔だ!と、ひじで乱暴にかきわけてしまい、小汚い筆記体

『 騎士団長 バーン・バニングス 了承済 』

と書いていたら、また、バーンの、今一番見たくて、見てはいけないものが、近寄って来た。ガラリアは、ユリアが考えた署名欄に、バーンがちゃんとサインしたかどうかを、見届ける義務がある。ガラリアは、バーンの左わきにすり寄り、両手を自分の両膝に置いて、かがみ込んで彼の手元に視線を向けるという、所謂<だっちゅーの>のポーズになった。

(腕と腕に、はさまれ、ぐいっと持ち上がっている、おっぱいが。オッパイの谷間が。そしてあそことあそこが、オッパイの頭頂部、即ち乳首である。ノーブラである。その白いきれを、ちょいとめくれば、ナマ乳房なのである!わたしはオッパイ星の出である!

 悪いかくそー!

 逃げよう。早く、早く、彼女のそばから、離れなければならぬ。)

「サインした。では持っていくぞ、よいな!」

バーンは、通常の3倍速の早足で、ガラリアの食堂から立ち去った。廊下を急ぐ彼の背後から、ガラリアの声が、した。

「バーン、ちゃんと出すのだぞ!」

 


 ガラリアから受け取った上申書は、明朝提出するので、片手にそれを持ったまま、バーン・バニングスは、自室へ直行した。廊下を、赤ら顔で、早足で行く騎士団長の姿は、すれ違う下級兵たちには、怒っているように見えた。ラース・ワウの西棟の、2階にあるバーンの個室は、彼が6年、住み慣れた部屋である。かつてバーンは、この部屋で、アトラスへの手紙をしたためていた。文机に、ガラリアの上申書を投げ、この部屋のヌシは、ベッドに倒れ込んだ。

 バーンの部屋にある家具は、窓際にベッド、別の壁面の窓辺に文机、酒や雑品を収納するサイドボード、それと、壁に作りつけの本棚である。せっかく広い本棚があるのに、部屋のヌシは、士官学校時代に使っていた、教科書や参考書から、セレクトした20冊ほどを、無造作に並べてあるだけだった。ひとめで、この部屋のヌシは、読書家ではないことが、よくわかる本棚であった。

 ヌシは、着衣のまま、ベッドに横たわり、ああ、と、大きな声で、ため息をついた。自分の部屋に帰れば、もう 誰にも、なにも隠す必要はない。バーンは、目を閉じ、シーツの上で、寝そべったままモゾモゾ動き、窮屈な軍靴を脱いだ。

 バーン・バニングスは、今から、睡眠するのだろうか?

 寝転んだバーンは、仰向けの姿勢になり、天井を見ながら、非常に器用に、片手を後ろ手にし、ベッドの下をまさぐり、本を一冊取り出した。つまり、ベッド下にあるその本は、本棚には並べられないたぐいの書籍であり、仰向けのまま手探りで取り出すことが出来るほど、置き位置を、彼が熟知している証拠である。赤い革表紙のその本には、たくさんのしおりがはさんであり、バーンは、慣れた手つきで、しおりの1ページを開いた。

 バーン・バニングスは、今から、読書をするのだろうか?

 たくさんのしおりは、なんのためなのだろうか?

 なぜ、その赤い表紙の本だけは、本棚に置かないのだろうか?

彼は舌打ちした。

「このおかず本は、使いすぎだな。読まなくても、抜きページの内容は暗記してしまっている。この、モロ春画入りエロ小説本を、10代の頃、森で拾った時には、嬉しさのあまり感涙にむせんだものであるが。かといって、新しいエロ本を購入しようにも、城下の本屋にわざわざ出向いて、そんなコーナーで、騎士団長がウロウロするわけには、いかぬ。先日は、良き案が浮んだと思い、ラース・ワウ図書室へ行ってみた。案外、文学系で、抜ける本のコーナーが、あったのだ。誰もおらぬと思い、その系統の本を、物色していたら、背後の本棚の影に、ミュージィ・ポウがいたのだ!彼女は、楽譜コーナーにいたのだが、わたしがあさっていたコーナーの系統を、知っていたらしく、鼻で笑われてしまったのだ!…うぅ…なんたる失態であろう。硬派で通しているわたしが、かような姿をミュージィに見られてしまうとは…あれ以来、おかずとして、書籍を求めるのは、あきらめ、他の分野で考えてみたが…」

 読者婦女子には、バーンには愛人がいるのだから、そんなにHしたいならば、ロゼルノ夫人に会いに行けばいーじゃんと、お思いかも、しれないが、本番と、彼が今からしたい事とは、似て異なるものであり、別種の行為なのである。

また、バーンは、アトラスの死後、ロゼルノ夫人に会いに行く気持ちになれず、文通も途絶えていた。ましてや、新しい愛人を作る気にも、なれなかった。で、あるから、本編の主人公、ガラリアとバーンは、2人とも、アトラスと永の別れをして以来3年間、褥はしていないのである。

 ただし、バーン・バニングスという男は、ロゼルノ夫人と、切れたとは、思っていなかった。あのお方は、優しいから、音沙汰なくとも、いつまででも、わたしを待っているさ、会いたくなれば、いつでも行けば抱けると、思い込んでいた。だからどうしたと、突っ込む気力も体力も、筆者にはない。

 バーンは、うつぶせになり、枕を抱きしめて、ああ、と、また、ため息をついた。

「だめだ…ガラリアのオッパイが、脳裏から、離れぬ!なぜだ、なぜ、あんなおっぱい丸出しの服なんか着るのだ、わたしの気持ちなど、知らぬくせに、なぜあんな色気をふりまくのだ、どこまでわたしを苦しめるのだ、ガラリア、わたしのガラリア!だめだ、ガラリアを…おかずにしては…だめなのだ。」

 読者婦女子には、そんなにガラリアが好きなら、思う存分、彼女のオッパイを思い描いて、したらいーじゃんと、お思いかも、しれないが、男には、煩悶する理由が、なにかあるらしい。

「ああ、すっかり剣が硬くなってしまった。完勃起だ。透明なのも、もう漏れている!磨きたい。だが、だが…ガラリアのことは、ああ!」

バーンは、枕に顔をうずめていたが、空をあおぎ、ア゛ーと叫び、両手で長髪をかきむしり、

「ウワァァア、アーッ!本命のガラリアを、告白できない彼女を、メインおかずで剣を磨くと…事後のむなしさが…ただでさえ、放出後はなぜだかむなしくなるというに、ガラリアだと、事後の落ち込みが、半端でないのだ、激鬱になるのだ、泣き寝入りして、ガラリアのえっちな夢を見て早朝覚醒してしまい、朝立ちでまた磨いて、激鬱入ったまま出勤…だから…うぅ…」

 読者婦女子には、じゃあ、剣磨きはしないでお風呂でも入って、寝たらいーじゃんと、お思いかもしれないが、やめようと思って、やめられるものならば、彼は長年こんなに苦しみはしないし、また、だめだと言いつつ、実はシタイのである。磨きたいけど、磨きたくないのである。磨きたくないけど、磨きたい…を、えんえんと繰り返す、エンドレス・リフレイン・リピート地獄なのである。

白いのは、日々蓄積され、出さないでいると、夢精してしまったり、我慢しすぎると、先ほどのように人前で半ボしてしまう。否、出しても出しても、日々此れ、勃起エーンド放出が、健康な若き男子の有り様なのである。この宿命からは、アの国一番の美男子であっても、逃れられないのである。

 ところで、剣磨きには、様々な流派がある。磨く場所と姿勢については、ベッドで寝転んで派、椅子に座って派、トイレの個室で立ってする派、ケースバイケースでなんでもアリ派などである。

 アトラスは、下だけ全部脱ぎ、上は着たままで、ソファーに仰向けでしていた。

 ゼット・ライトは、仕事場と私室が隣接しており、多忙なため、おそらくはベッドでしたり、トイレでしたりの、ケースバイケース派であると思われる。

 さて、バーン・バニングスの剣磨き流派は、ベッドで横になり、いちいち全裸にならないと気が済まない派であった。

「あぁ、激鬱覚悟の、ガラリアおかず日は、定休木曜日と、第3日曜日だけと、決めていたのに。本日、予定外ガラリアデーである!」

という理由で、今、ガラリアのオッパイを想わないようにしたいバーンは、服は脱がず、どうしたものかと、充血した目で、部屋の中を見渡した。彼は、この無駄な抵抗を、ほぼ毎夜行っていた。毎日、恋する彼女と会うのに、月に5回だけガラリアがおかずだなどと、決めたところで、若人の剣は、持ち主の言う事など、聞かないものであるから。

うう、なにか、いい手はないか、はぁ、はぁ。

「そうだ、酒を飲んで、酔った勢いで、寝てしまおう!」

賢明なる、男性読者諸兄には、これは、逆効果であるとおわかりになるであろう。酒瓶のある、サイドボードへと、靴下で歩いていき、濃い酒をグラスに注いで、ぐいっと飲み干したら、

「アァーー!ますます、いきり立ってきたわ!ああ、だめだ、どうしよう…そうだ、とりあえず、剣が萎えればいいのだから、難しい本を、読んでみよう、そうだそうしよう。」

貧相な本棚に向かったバーンは、昔の教科書の間から、薄い冊子を取り出した。バーン・バニングスが難しい本、と呼んでいる書籍は、

『簡易版 ことわざ小事典』 アの国春秋社刊

であった。適当に開いたページの、最初の行には、こうあった。

『 人生、あきらめが肝心 』

「やかましい!!」

と本に怒鳴り、それを床に投げ捨て、バーンはベッドに、また倒れた。

「はぁ、はぁ、萎えること、萎えること。仕事関係者は。お館様の顔、ミズル殿の顔。おっさんの顔だから、萎えるか…ああ、だめだ、萎えるより辛いことを、想起してしまう、この面子は。ケミ城戦の日を、思い出してしまうから。ガラリアとアトラスに、あまり関係のない人物を考えてみよう。ルーザ様はどうだ…ロゼルノ夫人よりは年上で…

…いかん、微妙に守備範囲だ。…リムルも、年頃になってきてだんだん…

ああ!なにをしたいのだろう、わたしは!なにをしたくないのだろう、わたしは。」

シーツ上で、もがき、転がり、バーンの視界に、床に投げた、ことわざ小事典が、入った。苦悶にゆがんだ彼の顔が、少しだけ、和らいだ。気休めだとわかっていても。

「あきらめろ、と言うのか。わたしは、ガラリアを、心から…好きなのだ。彼女を、ほしいのだ。この3年間、何度も、彼女への恋情は忘れよう、恋心を、冷まそうと、考えてきた。だが、できなかった。毎日、彼女の姿を見、アトラスの死に様が浮び。悔しさに、罪悪感に打ちひしがれるほど、

わたしは彼女を愛する者なのだと、わかったのだ。

でも、決して手に入らぬのだ!こんなに熱くたぎっているのに。愛しているのに。そうだ、彼女が好きだ。今日また、彼女の素肌の断片を、見せつけられて、なお一層、我が気持ちは、強固になってしまった。」

バーン・バニングスは、ついに、服を脱ぎ始めた。寝そべったまま、はぁはぁ言いながら制服を次々脱ぎ、床に投げた。
『 人生、あきらめが肝心 』の上に、橙色と、朱色の服が、覆い被さった。

剣磨き全裸派の、この部屋のヌシは、流派のあるべき姿になり、枕をガラリアに見立て抱きしめ、もうすっかり、あきらめて、本格的に磨き始めた。

「ああ、ガラリアァーッ、したいしたいしたい、今にも気が狂いそうに、お前を抱きたいのだ、アーアー!さっき彼女が、わたしにゆった、ちゃんと出すのだぞーと。ああそうとも、出したいのだ、お前のおっぱいの谷間に、剣をはさんで、ふにふに前後させながらー、先端をくわえてもらいながらー、ガラリア、お前のその、生意気なくちびるの中で白いのをぉおお」

こんな生活を、もう3年以上、過ごしてきたバーン・バニングスであった。彼に福音が訪れる日は、来るのだろうか。

 


ガラリアと、バーンの、運命の足音が、天空から聞こえてくるのを、察知している者が、ここバイストン・ウェルに、1人だけいた。

ガラリアたちが住む、アの国より、国境を三つ隔てた、ラウの国。人里離れた山の中に、貧しい小屋があった。そこには、醜い女が住んでいた。ぼろをまとい、灰色の髪の毛が、地面まで達し、髪先を引きずり汚しながら歩く。その姿は、女であることはわかるが、年寄りなのか、若いのか、コモンなのか、ガロウ・ランなのかすら、判明しない。落ちくぼんだ眼に、曲がった鼻、汚物のような色の肌。彼女を目撃した者は、誰もが、おこも!と罵り、石を投げた。

 ニクス・ティタンは、自分のその名は覚えていたが、自分が、どこから来たのか、何者なのか、記憶がない。人は、この稀代の醜女を見つけると、いじめるので、彼女は誰にも会わないように、このボンヤー山麓という場所に、ひっそり住むことにした。

 ニクスが、小屋で、うずくまり眠ると、いつも同じ夢を見るのだった。

 とても素敵な、男の人が、わたしのところにやって来るの。彼はね、いつも空から、落ちてくる。

 落ちてきて、地面に倒れている彼を、わたしが抱き起こすと、むっくり起き上がる。

そうして、ニクス、って、名前を呼んでくれる。声は清々しくて、髪は、けぶるような白金色で、垂れ目の瞳が、青く澄んでいる男性。人懐っこい笑顔と、明るい話し口調が、心を安らげてくれるひと。

夢の中に、いつも現れるあの人は、誰だろう?空から落ちてくるってことは、彼は、

 地上人なのだろうか?

ニクスの覚醒した時間は、湖面に映る、己が顔を見ること、即ち、彼女の現実生活は、刻苦でしかなかった。

ニクスは、眠っている間、夢の中で、そのプラチナ・ブロンドの青年に会う事だけが、自分の生き甲斐だと、思っていた。現実に、地上人と自分が出会って、名前を呼んでもらえることなんて、あるはずがないと、あきらめつつ、今夜もニクスは、小屋で、藁にくるまり、眠りにつくのだった。

 

2004年2月23日