ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第59章 ドレイク・ルフト参陣

レッド・バーの砦を占領したドレイク軍は、その日のうちに、さらに北方へ進軍し、キロン城に、より近い位置へと、布陣を移動していた。その夜遅く、いままでラース・ワウにいた、領主のドレイク・ルフトと、地上人のショット・ウェポンが、この前線基地に、参陣した。

ミの国の騎士から略奪した邸宅、その居間に、食卓をひろげているドレイクは、悲しみにうちひしがれる副団長ガラリアを、横目でながめやり、参謀のミズル・ズロムまで、ぬけがらのようになっているさまを、問いつめる仕事に、とりかからねばならなかった。

時刻は、夜ふけであった。空を、漆黒の闇がおおっていた。

広いテーブルには、ラース・ワウで見慣れた服装のドレイク・ルフト、黒いドレス服の肩に、骨の装飾品をのせたショット・ウェポン、夜食の礼装のため、軍服をぬぎ、平服に着替えたバーン・バニングスとガラリア・ニャムヒー、そして聖戦士トッド・ギネスも、平服に着替えていた。機械の館のあるじ、ゼット・ライトは仕事に追われていたので、夜会には不参加だった。

ガラリアとミズルは、食事など、とれる状態ではなかった。白いテーブルクロスの上には、戦場とは思えないほどの、豪華な食事が並べられていたが、ガラリア・ニャムヒーは、じゃがいもスープのお皿に、落涙したので、スープの味に、塩分を増しただけであった。

ドレイクにとっても、目をかけていた、平民出のユリア・オストークを失うなど、考えただけで、ミの国王のやり口に、憤懣(ふんまん)、やるかたなかった。親友をさらわれて、悲嘆にくれるガラリアを、励まし、そして叱咤した。

「ガラリア・ニャムヒー。おまえがそのように、自分を責めておっては、物事は、なにも先にすすまぬぞ。捕虜にとられた2人は、早急に釈放するよう、ピネガンに、書状を送った。我が軍の貴重な人材を、誘拐しよって、ピネガンめ!この屋敷に籠城しておったミの騎士は、女は逃がしたが、男子はすべて斬首した。このぐらいの報復では、手ぬるいかもしれん。」

その、首切り役を、ドレイクに命じられたのが、ガラリアであった。縛り上げられ、彼自身の邸宅前で処刑された、騎士一家の中には、12歳ほどの少年もいた。ガラリアは、父親から順に、次は長男、次男と、首を切り落とす任務に耐えたが、最後の1人、少年の真白きうなじを前にして、剣を握る腕がふるえた。ドレイクはガラリアに、苦しませぬように、一気に首をおとせと命じた。少年は、ころがっている父と兄の生首を見て、じぶんの死を、覚悟していた。子供を殺せないと、戸惑うガラリアに、ドレイクは、残酷な現実を、言ってきかせた。

「今ごろユリアが、ミの国の男どもに、なにをされていると思うか、ガラリア!女戦士がそれを、許せるか!ためらうな、そやつは敵国の男だ!」

青い前髪に、少しだけ、返り血をあびて、ガラリアは、少年の首を切り落とした。そして、彼らの財産である屋敷を奪い、彼らの備蓄食料で、豪勢な夜食をとっているドレイクたちである。食卓の領主は、副団長ガラリアに、言ってきかせた。

「めくらましや、落とし穴などという、姑息な作戦ばかりの、ミのやつばらを、ガラリア、そのほうが斬ってすてい。キロン城への斬り込み隊長は、おまえに任せる。よいな!」

ガラリアは、はい、と、泣きはらした目を見開き、うなずいた。ドレイクは、明日にひかえたキロン城総攻撃の、総指揮官は、ふたたびバーン・バニングスに命じた。こんどは、参謀ミズル・ズロムのほうが、指揮をとれる状態になかったからだ。

つづいて、ドレイクは、自分と同年配で、もっとも信頼厚い男、ミズルを、隣席にすわらせ、問いかけた。ミズルは、さすがにガラリアのように、人前で泣いたりはしていなかったものの、5歳も10歳も、老けたようにみえた。

「ミズル、そなた…。わしは、知らなんだぞ。そなたの総領息子が、いつの間に、守備隊に入隊しておったのだ?」

息子、と、耳にしただけで、本当はミズルは、泣き崩れそうだったが、耐えて答えた。

士官学校を、中退させまして…いえ、病気だったのです…。家内の実家で、養生させておりましたことは、お館様にも、ご報告済みでありましたな。かような愚息も、18になり、病気は治りまして…。本人が志願したので、入隊を許しました。ただ、勘当しておりましたので、お館様にも、ご紹介せずにおりました。」

ドレイクは、心底、不思議だった。

「なぜ、勘当などしたのだ?そのほうのせがれと、同じ部隊の下級兵たちが、わしのところへ、嘆願にきたぞ。連中は、男泣きに泣きよって、セザル・ズロムを見捨てないでほしいと、訴えるのだ。我が軍に欠いてはいかん器(うつわ)の男だと、言いよったわ。のう、聖戦士トッド・ギネス。」

金髪が、ろうそくのともしびにはえて、きらきらまぶしい青年。トッドは、フォークでサラダをかき回して、好物の蟹をひろいあげて、食べていたが、すぐに、ドレイクの期待する言葉を返した。

「はっ、ドレイク閣下。セザル・ズロム君は、俺の親友であります。ミズル参謀のご子息は、家名に恥じない、才気あふれる男です。ミズルどの、あいつのことです、きっと無事ですよ。」

トッド・ギネスの言いかたには、自分をミズルに売り込もうという、ごますりが混ざっていたが、彼はこうした言明が、上手だった。言った言葉は、ぜんぶ本心で、うそではなかったからだ。

なおさら、ドレイク・ルフトは、首をかしげた。このように、みなに評判のよい男子を、なぜミズルは、勘当など、したのだろう?娘しか持てなかったドレイクには、男子がいるだけで、ミズルがうらやましい。なにか、いいにくい理由だからだろうか。ドレイクは、ミズルに、いいにくいことなら、言わずともよいと、耳打ちした。ミズルは、うつむいたまま、小声で、真相を教えた。

さて、このとき、ミズル・ズロムが、ドレイクに打ち明けた、セザル勘当の理由とは、セザル本人からさずけられた、うその理由であった。

ドレイクさまや、ほかのみんなに、僕が、本当は、よいこなのが知れわたるのは、時間の問題さ。だって本当に、よいこだからさ。僕が外国旅行から帰還して、入隊した時期。僕のラース・ワウ奥部への、間諜活動が終わるまでは、みんなにズロム家の息子だとは、知られたくなかった。だからパパ、僕を勘当したことにしておいてほしいさ。僕が勝手に学校を中退して、勝手に家出した、親不孝ものだから、勘当したと、言っておけばいいさ。でも、それはナイ、こんなよいこが、勘当されるのはおかしいと、みんなが気がつきはじめたら、こっちのネタで言っておいてほしいさ、パパ。

「ドレイクさま、まことにお恥ずかしいかぎりですが、あれは昔、女のことで問題をおこしまして…。」

ひそひそと、ミズルはドレイクに、相手の女の、名前を教えたらしい。食卓のみんなは、聞くともなしに、聞いていた。いずれ、みなが知るところとなろう。いつも冷静なドレイクが、らしくもなく、ひじょうに驚いて、声が大きくなってしまった。

「なにッ、祝賀会にきていた、黒衣のご婦人か?」

そう、ドレイク本人が、オッパイの谷間を、2度見してしまった、美しい未亡人、イザベラ・ロゼルノ夫人と、セザル・ズロムは、深い仲なのである。

バーン・バニングスは、ステーキ肉のスジを、ナイフとフォークでおさえこみ、これでもか、これでもかと、ごりごり、切り離そうとしていた。誰かに復讐したい気持ちを、肉のスジにぶつけていた。そうとも、あのクソガキは、わたしと穴兄弟だったのだ!そうか、ミズル殿が、あのクソガキを勘当した理由は、そっちか。納得の理由だ!わたしなんか、イザベラ・ロゼルノ夫人との密通が、父上にバレて、別れるハメになったのだぞ。勘当されなくて、わたしは、まだマシだったのだな。

それっきり、ドレイクは、ミズルが気の毒で、セザル勘当の理由については、くちに出さなかった。あの迫力ある美人を口説くとは、その小僧、たしかに大器だと、感心はしていたが。

閑話休題

バイストン・ウェルの、騎士階級における男女関係について、本編では何度か、注釈を書いてきたが、ここで、要点を整理しておきたい。

【密通とは】

男女が肉体関係をもつこと。婚約や婚姻とはちがい、未婚、既婚を問わず、男女どちらからでも、相手を誘うことができる。本人同士が、自発的におこなう行為。

特に、女性から男性を密通に誘う場合、生花を手渡して、「わたしのお花をうけとってください。」と言えば、「私を抱いてください。」という意味になる。男性は、これを断ってはならない。

(この風習は、昭和40~50年代の日本国における、初期バレンタインデーのありかたに酷似している。昭和の当時、2月14日に、女性から男性へ、ただチョコレートを贈り、署名をしておくだけで、愛の告白の役割をはたすという、たいへん便利な風習が、じっさいに存在したのだ。後年、義理チョコという、本末転倒な風習へと変貌してゆき、21世紀現在では、お中元やお歳暮などと同様の、義理のある人に、食品などを贈答するだけの季節行事に、なりはてている。)

ただし、社会的風聞が重要視される身分にあるものは、密通の事実や、相手が誰であるのかが、家族にバレた場合、家庭内で罰をうけることは、珍しくない。

たとえば、未婚の騎士の娘が、既婚の中年騎士に、貞操をうばわれたとしたら、娘の父親は、もちろん怒っていい。父親は、娘に手を出した男に、決闘を申し込む権利がある。

いっぽう、騎士の娘が、年格好の釣り合う男性に、お花を渡したのに、男性が拒絶したとなると、これもまた、騎士女性にたいする、このうえない侮辱として、糾弾にあたいする。ガラリアのお花をうけとらなかったゼット・ライトが、糾弾される事件となったことは、記憶に新しい。

セザル・ズロムの密通は、彼自身、14歳という若い時期に、17歳も年上の、イザベラ・ロゼルノ夫人の趣味、童貞狩りに、よろこんで応じたという事実が、父親であるミズルと、ましてや、母親には、耐え難いショックだった。また、家名をおとしめる行為であったから、怒ったミズルは、総領息子を勘当した。と、言っておけば、周囲は納得するだろうという、セザルの作戦だ。

密通について、もうひとつ。ガラリア・ニャムヒーとゼット・ライトは、密通の仲になったが、2人の仲は、密通以上には、けして発展しない。

ゼット・ライトが、結婚しているからだ。地上の結婚制度と、バイストン・ウェルの結婚制度は、法的にも倫理的にも異なっているとはいえ、ゼット・ライトは、既婚であることを理由に、1度はガラリアのお花を拒絶し、これはおおやけに知られる事態となった。

だから、ガラリアとゼットが、どれほど好きあっても、彼の正妻になるどころか、公認の愛人になることさえ、できないのだ。2人の仲は、徹頭徹尾、秘め事であるべきで、もしも周囲にバレだとしても、密通以上の意味は、けして持つことはない。

閑話休題終わり】

「ドレイクさまに、ご報告いたします!」

食堂に、兵士が1人、息せききって駆けつけ、入り口にひざまずいた。赤ワインのグラスから顔をあげた領主は、兵士の表情が、よろこびに満ちていることを、すぐ見ぬいた。

「どうしたか。はようもうせ。」

兵士は、テーブルを囲む全員に聞こえるよう、大声で報告した。

「ただいま、ユリア・オストーク下士官と、セザル・ズロム下級兵が、無事、帰還いたしました!ミの国の騎士が同道しており、ガラリア・ニャムヒーさまにお会いしたいと申しております!」

ガラリアが、椅子からとびあがり、もう、食堂からとび出ようとしていた。ドレイク・ルフトは、退席を認める時間をかけず、ガラリアと同じ歩調で歩き出しており、

「よし、わしも行く。ミズル、よろこべ。バーン、トッドも、ついてまいれ。」

ミの国からやってきた、7人の騎士は、夜陰にあらわれた、青い短髪の女戦士、ガラリア・ニャムヒーの姿を見てとるや、いまは敵味方にわかれたとはいえ、懐かしさに胸がふるえた。彼女の顔を見たら、アトラスを思い出さずには、いられなかった。彼女のほうは、7人の騎士の顔を見る余裕などまったくなかった。

ガラリアは、笑顔のユリアを見るやいなや、歓喜に満ちあふれたが、声は発せず、馬から下り立ったユリアを抱きしめ、大事ないかと、小声でささやいた。捕虜になった女性が、帰還した場合に付随する、微妙な問題が、わからないガラリアでは、なかったからだ。するとユリアは、黒い瞳をまっすぐにガラリアにむけ、周囲のみなにも聞こえるように発言した。

「ご心配におよびません、ガラリアさま。わたくしの貞操は、誰にも、触れさせておりませぬ。セザル・ズロムが証人ですわ。」

続いて、栗色の長髪をうねらせ、馬からとびおりたセザルが、ユリアのそばに来て、彼女の右手をとり、うやうやしく、足もとにひざまづいた。ふだんの彼らしくはないが、その姿は、騎士然としていた。集まってきた、バーン・バニングス、トッド・ギネス、息子を今すぐにでも抱きしめたいが、がまんしているミズル・ズロム、そして、後方で見守っている領主ドレイク・ルフトに、セザルは、報告した。

「僕の上官、ユリア・オストークさまは、ミの国王と対峙され、毅然とおふるまいになられました。ピネガン・ハンム陛下は、僕たち2人に、家臣にならないかと勧誘しましたが、」

ドレイクが、ふふん!と息をならしたのが聞こえた。セザルは続けた。

「ユリアさまは、とうぜんこれをお断りになり、すぐに僕たちは、釈放されました。同道されたのは、もと、クの国の王室親衛隊のかたがたであり、現在は、ミの王女、エレ・ハンム姫の親衛隊をおつとめになっている、7人の騎士です。」

帰還報告が終わると、守備隊の仲間たちが、セザルとユリアに駆けより、セザルは胴上げされ、みんな、歓声をあげた。トッド・ギネスも、胴上げに参加し、友人の帰還を祝した。ユリアは、数名の下士官男性に、いとおしげに付き添われ、疲れただろう、と声をかけられて、休憩所に案内されていった。乙女ユリアは、心から安堵し、無事に帰還できた幸を、享受していた。

ただ、このよろこばしい瞬間に、凍りついている者が、2人だけいた。バーン・バニングスと、ガラリア・ニャムヒーである。2人の男女は、馬から下りて整列し、じっとこちらを見つめている、藍色のマントの7人に、挨拶をしなければならなかったが、声が出なかった。あまりにも、生々しい思い出が、バーンとガラリアの脳裏によみがえり、特にバーン・バニングスは、心臓を、わしづかみにされる苦しみにもがいていた。ガラリアは、その髪の毛よりも顔色を青くして、ようやっと発言した。

「おひさしゅう…ござる。あなたがたのこと、私は、私は、よく、おぼえております。しかし、まさかっ、ミの国におちのびたとは、存じませなんだ。」

バーンが、ガラリアの声音に勇気づけられて、静かに挨拶した。

「ケミ城戦、以来ですな。ひさかたぶりです。このたびは、おつとめ、ご苦労でありました。」

かつてケミ城で、彼らの隊長アトラスと一騎打ちをした騎士、バーン・バニングス。いま目の前に立つ7人の、仲間を、何十人も、その手で斬り殺したバーン・バニングス。だがそれは、騎士の世のならい。7人の騎士のほうは、過去の戦を、恨んでなど、いなかった。ただ、言いたいことがあった。藍色のマントをはおった1人が歩み出て、こう告げた。

「お懐かしゅうござる、ガラリア・ニャムヒーどの。ご立派になられましたな!あのころは、まだ少女であったのに、今や、ドレイク軍騎士団の副団長とは、見ちがえましたぞ。そして、バーン・バニングスどの。くしくも、このたびもまた、敵として、貴公と戦うことになりましたな。お手並み拝見いたす!」

バーンは、青い長髪をかたむけて、彼に礼をした。そして、かたい意志をみなぎらせて、7人の騎士に挨拶をすることが、できた。

「ご丁寧なご挨拶、いたみいります、ミの国の、親衛隊のかたがた。明日の城攻めで、お会いしましょう!」

7人の騎士は、バーン・バニングスに、会ってひとこと、交わしたかったのだった。そして、彼女に。懐かしい、アトラス隊長が愛した女性、ガラリア・ニャムヒーに、生きてひとめ、会いたかったのだ!満足した7人の騎士は、馬上の人となり、立ち去った。

 

2013年8月26日