ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第12章 機械の館のあるじ

特記事項


この章以降、いわゆる、オーラ・マシンが登場します。しかし、本編においては、各マシンの、形状や性能についての描写をほとんどまったく書かない方向で、筆を進めることにしました。ダンバイン、ドラムロ、ブル・ベガー等に、それぞれ説明を書こうとしますと、かなりの項数を要しますし、前書きの通り、本編は、オーラ・バトラー戦に重きを置く小説ではありません。従いまして、マシンの名称は、なんの説明もなく登場し、機能に関する描写をしたとしても、極めていいかげんになっております。なにしろ、筆者の興味が、そっち方面には、ないのです。読者の皆様の方が、オーラ・マシンには造詣が深いと思いますので、この点に関しましては、お見苦しい描写がありましても、なにとぞお見逃し下さい。

 

*****

 ガラリア・ニャムヒーが、初めての恋人と、永の別れをした日から、3年が経った。彼女は21歳になっていた。18歳から21歳までの、女性の生涯における<花>の年頃にあって、彼女の柔らかい<花>に触れた者は、彼女自身の手指だけであった。
 女戦士ガラリアは、ドレイク軍騎士団の、副団長になっていた。また、かつて、下士官として所属していた守備隊の、隊長を兼任していた。ドレイク軍は、警備隊と守備隊の2大隊から編成されているので、彼女は今や、軍のナンバーツーの地位にまで出世していたのだった。

 一方、警備隊長バーン・バニングスは、軍の最高位である、騎士団長に任じられた。同時に、前任者ミズル・ズロムは、軍参謀の位に辞していた。ガラリアより2つ年上のバーンは、今、23歳の若さで軍の代表を務める地位にのぼりつめた。

バーンは、3年前のケミ城戦での戦功が高く評価され、その後も着々と、否、黙々と職務に励んできた。その真摯な姿勢が、彼を今日の地位にまで特進させたのであるし、城に住むほとんどの者が、バニングス卿の子息は、父君を越える騎士になってきた、と彼への賛辞を惜しまなかった。

 特に、バーンへ辞令を出している領主ドレイクは、

「バーン・バニングスならば、娘婿に任じても、差し支えないかもしれぬな」

と妻ルーザにつぶやいていた。

ルーザは、故国クの国の、愛人ビショットが王位についた事に、ご満悦であったし、バーンが、あの憎きアトラスを、亡き者にする功績を果した点は評価していた。ほうびに、娘をくれてやってもいいかもしれない。それに加え、昨今のルーザの心配事には、娘が、自分の思惑に反する相手と、密通しているらしい事があった。

「そうですわね、お前様。リムルは、17にもなったというに、例のミ・フェラリオと度々密会し、まだ浮ついた心持でいるようです。婚約させれば、余計な遊びに、気が行く事もなくなるかもしれません」

夫はふむ、と禿げた頭をなでながら、

「まだ、公表はできぬがな。これからは、機械を使いこなせる者が評価される時代になるが、今は過渡期だ。しかし、働き次第でわしの後継になれるとあれば、漢であればより一層、奮起するであろう。では、父君バニングス卿に、内々に打電しておくとしよう。」

父親の頭には、娘が、隣国の嫡男ニーと情を交わしている事実よりも、自分の後継にふさわしい男は誰であるかという選定、娘は当然それに従う者、という発想しなかった。母親もまた、娘が思い通りに嫁ぐ事にしか、思案が及ばない。ただ、ルーザは、

「娘婿などは、都合でいつでも、首をすげ替えればよいのだ。わたしにとって、より都合のいい男に」

という基本理念から、はずれることはない人であった。

 


 今朝も、軍の毎日の仕事始め、朝礼が行われた。ラース・ワウの中央広場の、木製の台に立つバーン・バニングスは、整列する全兵士に向かい、朗々とした声を<マイク>に響かせた。

「本日の業務予定を言い渡す。警備隊は、ドロ10機を国境北辺から西部へ、10機は南東方向を巡視。守備隊は、騎兵部隊及び歩兵部隊で、城の近郊を監視し、」

すると、マイクを通さなくとも、甲高く響く女の声が、壇上にいるバーンの、右下から発された。

「守備隊にもドロを配分されたし!なぜに、新兵器は警備隊にばかり、渡されるか。騎士団長殿は、ご自分の配下にのみ、便宜をはかっておると見える!」

居並ぶ兵たちは、またガラリア様が、始まったよと、青い髪の男女、軍の双璧の顔を見比べた。騎士団長バーン・バニングスは、紺色の服地に、濃いピンク色の甲冑、副団長ガラリア・ニャムヒーは、オレンジ色の服地に、濃い茶色の甲冑。ドレイク軍の2大指揮官は、他の兵とは違う色の軍服を着用している。

バーンは、マイクから口元を離し、自分の右側の、地面に立っているガラリアを振り返り、低く言った。

「ガラリア、今は、兵士に連絡事項を伝えておるのだ。兵器の配分についてなら、会議の席で言えよ」

「ふん、会議になると、お前はショット・ウェポンやお館様を、いいように言いくるめて、私の進言はいつも却下してしまうではないか!だからこうして、守備隊員、警備隊員全員の前で、不公平を是正してやるのだ」

バーンは、眉をひそめ、さきほどより小さな声で、

「お前、ショット様を呼び捨ては、よさんか」

「なんだというのだ。バーンは、あの地上人に取り入って、新型オーラ・マシンを自分だけ手に入れようとしておるのであろう。おべっか、讒言(ざんげん)、バーン・バニングスお得意の分野だ!」

バーンは、前髪を振り乱し、自分を罵るガラリアから、顔をそむけ、また兵列とマイクに向かい、話した。

「警備隊、守備隊、通常業務。その他特別予定なし、以上、解散!」

 兵士たちは、号令一下、散り散りに持ち場へ向かった。バーンは、マイクを片手に持って壇上から降り、彼女のそばから、立ち去ろうとしたが、ガラリアは、青い髪を、肩甲骨の下まで伸ばした、彼の背中に問い詰めた。

ただ、皆の前でなくなり、2人きりになると、彼女の口調は、少し、静かになるのだった…

「バーン。ドロの操縦くらい、私も、私の部下たちも、充分こなせられる。守備隊の管轄である城下は、広いのだ。空からの見張りをしなくてはならぬ。ドロの火器も必要だ。お前達警備隊は、遠く国境まで行ってしまっていて、いざという時に城に戻っていては、間に合わぬのに。今動かせられる機械を、全て警備隊に投入するのは、おかしいではないか」

ふり返った23歳のバーンは、顔立ちも体格も、精悍な、大人の男性に成長している。澄んだ赤茶色の、大きな瞳は、長い睫毛に縁取られ、男らしい美しさに、光り輝いている。鼻筋は高く、口元は引きしまり、もみあげは、先端の毛足が長くサラサラと、その美しい頬にかかる。城下の誰もが、彼はアの国一番の美男子であると、口をそろえて言う。その、彼の涼やかな唇が動く時、彼の、朗々とした声を聞く者は皆、バーン・バニングスは、誇りと自信にみなぎっている男だと感じた。

 だが、彼が話す時に、彼の胸板の古傷を、震わせる相手が、1人だけいた。その1人は、バーンが自分と話す時にだけ見せる、怯えた表情に、全く気がつかないでいた。

 ガラリアは、眉間にしわをよせ、バーンを上目遣いで見て、返答を待った。

 バーンは、彼女に話す時、毎日、何度も何度も、彼女とは話さなければならなかったのだが、その都度、彼女のどこを見たらいいのかわからない。視線が泳ぎ、落ち着いて話せない。礼節としては、対話する相手の眼を見て話すべきである。彼女の方は、ちゃんと、上官であるバーンの眼を見て話すのに、

(わたしには、できない。彼女の瞳は、薄緑色にきらきら光り、その宝石が上目遣いをすると、白目は三白眼になり、下睫毛の縁取りが、より一層際立つのだ。彼女の目元の、なんと比類なき、かわいらしさだろう。垂れ目は、少女の頃のあどけなさを残しながら、色っぽさが、年々加味されて、わたしは…ますます惹きつけられるのだ。眉をよせないでくれ。そんな真面目な、一生懸命な視線を、わたしによこさないでくれ。)

かといって、眼の、他を見れば。頬は、おしろいを塗らなくても、真綿のように白く、触ったら、ふわふわなのだとわかる。形のいい耳たぶには、いつもの金色の耳飾りがゆれていて、彼女がしなを作るたびに金属が乱反射して、光線がわたしを撃つ。


アトラスにもらった耳飾りを、お前は、あの日以後、ずっとつけているのだな…この3年間、お前は、わたしと口をきくとしたら、業務についてだけ。話し方は、去年までぐらいは、冷徹極まりなかった。氷のように凍てついていた。

それが、最近、このように、食ってかかる口調になってきた。まだ、ずっとましだ。無視されるより、敵視される方が、どれほど楽か。

だがそれでも、ガラリアはわたしに、私的な話題は、これっぽっちも、話さない。学生時代には、肩寄せ合い微笑み、語り合ったわたしの少女は、わたしの好きなひとは…わたしに笑顔をくれた事など、あの日から、一度もないのだ。

きっと永遠に、ないのだろう!

わたしには、ガラリア、お前とこうして話し合う事が、連綿と続く苦行であるのに、それをお前に、訴える事は、許されないのだよ。一番、わかってほしい人に、わかってもらえないとは、このように辛いものだとはな!

ガラリアは、最近、ようやく少し、元気になったようだ。わたしは黙ってずっと見守っているから、彼女の頬に、明るい光りが射す様子を、たびたび発見した。

 新しい、友達が、何人か、できたからであろうか?ガラリアは、彼らと話す時には、笑みを見せるようになった。

 よかった、元気になってくれて…

…その笑顔が、決して、わたしにだけは、向けられなくとも。

ガラリア、きみが、幸せになってくれたなら…それでよいから…

わたしは内省する時、時々、ガラリアを「君」と、呼んでいる。初めて会った時、そう呼んだからだ。

そして今朝もまた、君は、わたしに、話し掛けるのだな。そのように、憎々しげにわたしを見るのだな。君の唇が、動く。

「バーン、どうなのだ。なんとか言え。敵は、国境から侵入するとは、限らぬであろう?チャム・ファウが、度々ラース・ワウに現れるではないか。ギブン家におる地上人は、女だという情報しかなく、誰も顔を知らぬ。そやつが城下に潜入したなら、撃退する任は、私の隊の管轄であるし、」

(唇は…ああ、だめだ、よしてくれ、君が喋ると、ソプラノの声と共に、その赤い濡れた唇が、パクパク動いて、白い歯と桃色の舌がのぞく。吐息は薔薇の香りがする。ガラリアの唾液は、きっと糖蜜のように甘いのであろう。吸い寄せられそうだ!顔は、だめだ、どこも見られない。)

バーンは、必死で、彼女の、顔の他に目をやろうとするが、視界に入ってくるのは、今朝のオレンジ色の軍服であれ、ピンク色の制服の時であれ、

(どうして、お前の体は、歳ふる毎に、そんなに…背は、わたしより少し低いから、向かい合い、顔から目をそらして下方を見れば、そこにあるのは、見事な…アァッ!)

 バーン・バニングス君23歳の所属は、オッパイ星人である。少年時代には、巨乳フェチ&年上フェチだった彼は、相手の年齢については、現在は、上でも下でも可になったのだが、オッパイ好き、デカパイ好きは治らない、不治の病であった。

あぁ、おっぱい。わたしは吸いたい。わたしは舐めまわしたい。わたしはオッパイ星の出である!悪いかくそー!おっぱいが嫌いな男は、男ではないわ。ええいくそー、わたしは23歳、毎日、たまってたまってしょうがないお年頃なのだっ。

(ましてや、絶望的片想いの、大好きな女の子が、目の前で、体にぴっちり沿った軍服を着ており、胸当ての、キマイ・ラグの殻製の甲冑は、伸縮性があるが、けっこう硬いのに、彼女のムネは、その甲冑を内側から突き上げ、持ち上げ、おっぱいラインが、ぐいーんとこの、プクーとこの…ガラリアめっ、いったい何カップあるのだ、どんなぶらじゃーをつけておるのだ、どんなビーチクなのだ、グァーだめだ、朝っぱらからオッパイオッパイ、エーンドおっぱいシンキングが止まらなくなってきたわ!)

「バーン、どうなのだ。我が領土全体の軍備として考えたら、オーラ・マシンは均等に配備すべきだし、ドロはもっと増産しなければならぬであろう。私は、守備隊と警備隊の、不公平だけを言いたいのではない。全軍における両方の」

両方のオッパイが均等に配備されているし、わたしは両方のオッパイを両手で包み込んでモミモ~ミ、グァー!

「もう、よい、わたしは急いでおるから行くからな」

「なにがもうよいのだッ!重要な議題だぞ、これは」

人が丁寧に話してやっているのに、バーンのこの態度はなんだ、と怒ったガラリアは、右手をブンブン振り回して激昂した。腕を激しく動かすから、彼女の上半身も、激しく上下運動し、甲冑に包まれたオッパイが、ゆっさゆさ、もう見てらんない、バーンはガラリアに、背中でこう言って立ち去った。

「ドロの増産の事なら、機械の館のあるじに言えばよかろう」

だってガラリア、お前は、わたしには笑ってくれないのに、彼にならば笑いかけるじゃないか。

 


 機械の館は、山城、ラース・ワウ城の尾根にある、屋根の高い、大きな建物である。この建物自体は、現在ここに住んでいる地上人が、やってくる前からあった。かつては、剣や弓矢、もしくは銃器を製造・保管するための建築物であり、「機械の館」という呼称は、ここルフト領だけでなく、バイストン・ウェル全土で、兵器工場を指す言葉である。

 ガラリアは、馬に乗り、機械の館に向かった。ガラリアとバーンの愛馬であった、赤毛と栗毛夫妻は、既に引退し、郊外の牧場で、優秀な軍馬を次々と輩出する親馬となっており、今ガラリアが乗っている馬は、違う馬であった。

 ガラリアにとっては、馬の代が代わった事よりも、軍用の乗り物が、生き物ではなく<機械>になった事の方が、重大な変化であった。

「しかし、なんだな。馬術ならば得意中の得意だ。軍馬は、騎手と一対になって育ち、騎手の気持ちを思いはかって行動する。けだものであっても、乗っていた馬が死せば、ひどく悲しい気持ちになったものだ。それに比べて、グライ・ウイングや、ピグシーや、ドロや、機械の乗り物が壊れたところで、勿体ないとは思うが、かわいそうとは思わないのだ。修理してくれと、新しいのを作ってくれと、ここに住み込んでいる、あの地上人に発注すればいいだけだ。」

これは勿論、ガラリア1人の気持ちの変化だけに留まらず、戦争の意義をも激変させていた。

「そして、剣にて、敵兵の体を刺せば、血肉があふれ、人殺しをしたのだという、罪悪感や、死への恐怖感が実感として起こるものだろうが、機械対機械である闘いにあっては、発砲一つで、敵機が落ち、ああ、落とした、勝ったと思うだけだ。私は、実のところ、肉弾戦で敵兵を殺した経験は、まだない…そうしている内に」

馬上のガラリアは、ラース・ワウ城を振り返った。そびえる幾つもの棟の、向かって左端。西の棟にある、最高級の客間。そう、アトラスが宿泊し、私を初めて抱いたあの部屋には、今は、

「地上人、ショット・ウェポンが居住しているのだ。私と彼の、大事な思い出のある部屋を、自分の部屋にしてしまって。ふん、あいつはいけ好かない。すまして威張って。地上人であり、珍しい機械を作れる存在だからと、敬い奉られ、図にのっておるのではないか?やせっぽちで背がヒョロリと高いだけで。ふん、嫌いさ、あいつは」

ショットは、3年前のある日、ふらりと、城内にやってきた。ドレイク様が、この方は地上から来られた技術者である、と我らに紹介したのだ。私も、バーンも、ミズル殿も、驚いて、地上人がどうしてバイストン・ウェルに来たのか、いつ、どうやってオーラ・ロードが開いたのかと、お尋ねしても、ドレイク様は、偶然だとしか、仰らない。ショットも、知らぬ間にここへ来ていた、としか言わないのだ。こんな不可思議な事があるか…

「その後、私とバーンは、お館様の命令で、イヌチャン・マウンテンに侵攻し、エ・フェラリオの、シルキー・マウの捕獲に成功した。我が軍が、ギブン領内に侵攻した事により、ルフト領対ギブン領の対立が、明確になったのだが、先に侵略した罪を負っても、得るものの方が大きいと、お館様は考えられたのだ。」

 軍の要職者が列席する会議で、黄土色に近い金髪を、肩まで伸ばしたショットは、こう言った。

「あいしーの専門家がほしいのです。コモンが操縦できる、オーラ・バトラーを作るためには、オーラ増幅器の開発が必須です。それには、あいしー関連に長けた地上人が、もう1人、要り用なのです。呼び込めませんか」

あいしーとは、なんなのかは、私にはわからなかったが、要するに、ショットでは補えない分野の、違う畑の職人がいないと、戦闘機、オーラ・バトラーはできないらしい。と、いう事は、

「アトラスの客間に住み、豪奢な甲冑飾りの服を着込み、お館様と政治談義ばかりしているショットよりも、ここ、機械の館に住み、毎日、すすだらけになって働いている彼の方が、優れたひとだという意味ではないか?」

水牢に監禁しているシルキーを脅迫し、ドレイク様が意図して、初めて開かせたオーラ・ロード、そして、ラース・ワウの中庭に、地上人が落ちてきた瞬間を、私は、初めて見た。それが2年ほど前だ。その地上人が、今ではここ、機械の館のあるじとなっている。

 オレンジ色の軍服姿で、馬に乗ってやって来るガラリアを、機械の館のあるじは、遠来の彼女が豆粒大だった時点から、見ないフリをして、見つめていた。凝視していた。右手には、鉄製のドライバー。暗褐色の短髪が寝癖ではねあがっている。肩幅の広い、大柄な後ろ姿は、新型オーラ・マシン、バラウの機関部にかがみこんでいる。

馬から降り、機械の館の、扉が開放された、間口の広い入り口に、立ったガラリアは、ソプラノの声で、彼の後ろ姿に呼びかけた。

「ゼット殿ぅー」
特別付録『ゼット・ライト日誌』ゼット・ライト著

凡例

一、『ゼット・ライト氏によるバイストン・ウェル滞在中の日誌』の本文、「1995年フランス語版序文」、「1997年ドイツ語版第1版序文」は、マサチューセッツ工科大学に1984年に設立されたバイストン・ウェル工学研究委員会付属ガラリアたん好き好き主義研究所編集の『ゼット・ライト全集、第19巻』を底本とした。

原文の英語筆記体部分は、フォント指定なしにて印字した。

原文の英語殴り書き部分は、<STRONG>タグにて印字した。

原著者の注は(*)印で示し、テキスト編集者の突っ込みは、(←)印で示し、それぞれ各行に付記した。

一、原著者による落書き絵は、これを顔文字にて印字した。

1995年フランス語版序文(ジャン・リュック・ガラマン筆)

1997年ドイツ語版第1版序文(フリードリッヒ・ガラマニッヒ筆)

1999年イタリア語版序文(アーノルド・ガラマーニ筆)

「1997年ドイツ語版第1版序文」より抜粋

 この本は、1985年夏、原著者の母校、マサチューセッツ工科大学の後輩有志により、はじめに英語圏諸国において原文のまま発刊された。だが内容の性描写と、反・白豪主義に問題が指摘されたため、特に豪州では発禁措置となった。わたしはそれを友人のジャン・リュック・ガラマンのためにフランス語訳用に編集し、さらに若干の説明をこれにつけ加えた。

 ガラマンの翻訳がフランス語使用国、ことに当のフランスでめざましい成功をおさめたので、わたしは我がドイツにおいても同じように、夜のおかずの役にたつのではあるまいか、と考えざるをえなくなった。

 この著作はもともとけっして大衆宣伝用に書かれたものではなかった。直接には純粋に、原著者のオナニーでしかない著作が、どうすれば汎用性を持つだろうか?形式と内容にどんな変更が必要だっただろうか?

 形式にかんしては、ただ落書き絵の多いことだけが心配だった。しかし、すでに2ちゃんねるがその掲示板や宣伝文書でまったく遠慮なしに顔文字を使っていたし、わたしの知る限りでは、それについて誰も苦情を言ったものはない。その当時以来我が国の労働者ははるかに多くはるかに規則的に2ちゃんねるを読むようになっていたし、またそのことによって同じように顔文字にもずっとよく慣れてきた。それでわたしは、すべての不必要な落書きを除くにとどめた。さけられない顔文字の場合に、いわゆる説明的訳語をつけ加えることはしなかった。さけられない顔文字とは、その大部分が一般に使われているモナー君であって、もしそれが翻訳できるものだったら、けっしてさけられなくはなかったであろう。だから、それを翻訳することは意味をゆがめる。説明するのではなくて混乱させる。そういう場合には口で説明するほうがずっと役に立つのである。


『ゼット・ライト日誌』より抜粋

BW(*バイストン・ウェルの略)降下735日目(*最初の日から数えている)

今日も仕事。

!今日のよかったこと!

今朝、俺の仕事場に、いとしのガラリアたんが

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

ここ機械の館が、俺のすみか。ショットは城の方にばっかいて、

とっくの昔に彼女作って、ドレイクさんとか、えらいさんと政治工作ばっかりさ。

俺は、BWに落ちてきてから、彼女なんてできてないし、

「ゼットさま」って呼ばれるみたいな、ハイソな身分もらってるらしいが、

毎日やってることは、スプリングフィールドにいた頃と変わりゃしねえ。

機械油にまみれて、設計、製作、整備。つまりお仕事エブリデーだ。

この執務室で、BW文字で、設計図だら、指示書だら、書くかたわら、

この日誌を、英語で書いている。

BWの文字は、英語のアルファベットとほぼ同じ配列、

文法は、ややドイツ語に似ているが、

不思議なことは、俺もショットも、喋っているのは英語で、

BWの連中も、英語を喋っている。

だのに、紙に書く文は、BW言語でなきゃ、通じない。

俺ァ、BWの原材料や道具で、マシン作らされるのと並行して、

BW文字を習うハメになった。

独学で、3ヶ月程度で読み書きはできるようになったけど、

英語で喋っている、あの連中が、この文字列でホントは喋っているらしい。

そんなこと、言語学的にゃー、ありえないはずなんだがなァ。

BWにいるってのは、妖精さんが空飛んでるから、異世界異世界なんだけど、

むしろタイムスリップした感じかなァ。どいつもこいつも、古めかしい英語、喋ってくれるから。

そんな連中に溶け込んでる、ショットやなやつ、キングス・イングリッシュ喋るやつ。

あと、あいつ。バーン・バニングス。

こいつの口調は、ほとんど円卓の騎士時代の英語だし。

ちょっと男前だからって、ロン毛で気取ってんじゃねーぞ(#゜Д゜)ゴルア!

なにより、俺のガラリアたんは、バーンのことをいつも、切ない目で追いかけて…鬱だ死のう

か…顔がイイのが、そんなにイイのか…顔…激鬱だ死のう

助かるのは、こうして、英語で書きなぐっている日誌だけは、

ひろげて、そのへんに置いてあったって、誰も内容を読めないことだな。

見られて困るのは、ショットだけだけど、あいつは俺の執務室になんか、

来やしねえから、安心して、本音を書くことができる。

あぁ、ガラリアたん。俺は、BWに落ちたその日から、彼女にひとめ惚れ。

ゾッコンメロメロ(←死語)。あんなカワユイ女の子、地上のどこにも、ここBWにも、

どこにもいないンだ!あぁガラリアたん。

なんてきれいで、可愛くて、色っぽいんだぁぁぁぁぁあああああああ

いろじろで。垂れ目たんで。ショートヘアがキュート!

ボデーが、これまた、たまんない。オッパイどーん。ウエストきゅっ。

お尻が小さめでクッとこう、小股が切れ上がってるの。

スラッとしてるのにぃ、オッパイどーんどーん。

初めて会った時、彼女は19さい ハァハァ

いま 21さい ハァハァ

ちょうどヨイ年齢…なんて言うの、少女と、オトナのオンナの、ちょーど真ん中、

オサナイ感じーと、せくすぃな感じーが、ミックス混交してて、

その、アンバランスさが、絶妙に ハァハァ

ああ!今にも、HしたくてHしたくて、気が狂いそうにさせる女の子なンだぁあああ

ちなみに俺28さい。BWで迎えた誕生日×2回は、1人で残業してた…鬱だ死のう

だって俺ってさ。自分で認めるけどさ。

はっきりゆって、モテる系の男前じゃないし。でぶだし。女の子には、不器用だし。

「ぶきようですからー」って台詞ゆってむしろカッコよくなるタイプでもないし。

「器用なのはメカ系だけですね」って言われちゃうし(つД`)

好きな子に、コクる なんて、絶対ぜったい、できないんだよ…

せんずりコク なら毎日できるけどナァー

今朝のガラリアたんは、おれんじいろの軍服で、おんまさんでトコトコやって来て、

俺に、話しかけてくれたんだ!

「ゼットどのぅー」って!

「どのぅー」の「ぅー」がたまんないッ

彼女は彼女はかぁーのーじょーはああああ、

声が絶倫に(←?)キャワイイイイんだよぉ

あんな ハァハァ アドケナイ声なのに ハァハァ 喋り方はおさむらいさん(←?)ハァハァ

俺は、「ゼット様、はよして下さい。」って、前、ゆったんだ。そしたら、彼女は、

「しかしぃ、ゼットさまはご身分が。ではどうしたら、よいか?」って、首かしげて、

そりゃーもぉ、かわゆぅぅうく小首をかしげて、言うから、

瞬間、半勃起状態。

両足もじもじ、すぼめながら、「ゼット・ライトでいいです。」ってゆったら、彼女は、

「では、ゼットどの。で、よいか?ゼットどのぅ?うぅーん、よいかなっぁん?」

これで、完勃起。

ここの軍隊の制服を、俺も着てるんだけど、上着の丈が、尻が隠れるくらい長いのに、

前の部分だけ、四角く開いてるんだよなァ。


するってぇと、ぱっつんぱっつんのズボンの股間がさ、

勃起したら、丸わかり なんだよ!カタチまではっきり見られちゃうじゃんかよぅー

ああ、彼女の「ぅー」がうつっちゃった、もっともっと、全部ウツりたい、

なめたい入れたいだっこしたい、ブチューしたい、

彼女のおクチの中に、ベロをぐりぐり入れてハァハァ


ああ、ガラリアたん。俺のガラリアたん。

ガラリアたんがゆってたように、ここじゃー俺は、

ご身分がおたこう御座いますーてなことで、

城で雇ってる売春婦を、ご指名ダーツすりゃー、タダでヤろうと思えば、

いくらでも、毎晩でも、できるんだけどさ、

れも、そんなコトはしないンだ。だってだって、俺は、

ガラリアたん好き好き病患者の、第一人者なンだぁーーーーーあああああ

重症なんだ。不治の病なんだ。治らないのが、シヤワセなンだぁ

ガラリアたんしか、だめなの、イヤなの、それにそれに、万一、ひょっとして、

ガラリアたんが、俺に、俺なんかに、ちょっとでも、

好意…持っててくれたり、なんかしたら、

他の女と、関係があったこと知られたら、嫌われちゃうよーーーーーーーん

こうして英語で、大好きなガラリアたんのことを、書いて、

オナっていたいンだぁ。それでイイんだぁ。

…現実に、彼女を抱けることなんか、あるはずないから…

~今日のポエム~

きょうのおかずは ガラリアたん

あしたのおかずも ガラリアたん

まいにちまいにち ガラリアたん

いつか イキたい 彼女の中で

ぬるぬるぴゅっぴゅー ぬるぴゅっぴゅー

「ゼット殿、だから、ドロの増産をお願いしたいのだ。我が守備隊には、警備隊に勝るとも劣らぬ操縦者が、何人もおる。10機、いや、20機は、ほしい」

青い制服を着たゼット・ライトは、何日も洗濯していない袖口の汚れを、激愛の女性に見られないように、もぞもぞと両手を腰の後ろに回しながら、

「20機ですか。それだけの製造をするには、かなりのコストがかかります。予算と時間が許すなら、俺は、これが仕事ですから、構いません。しかし、費用が出ますか。装甲にする強獣の殻を、相当量購入しなくてはなりませんよ、ガラリアさん。」

日誌で激エロ妄想を書きなぐっている男は、当の本人を前にすると、己が欲望を悟られぬように、ビジネスライクに話すのだった。

ゼットの話し口調は、穏やかで、そして、バイストン・ウェル人には、一聞では理解できない地上語でも、分かりやすく解説しながら話してくれる。今、「こすと」と言いながら、それが「製作費用と、製作日数に投じる事が可能な条件」という意味を指す地上語であると、短い文中に収めて、彼は話してくれた。

「あいしー関連の」と、聞く側にわからぬ専門用語を連発する者は、真に利口な者ではない。聞く人に理解しやすく説明できて初めて、自分も理解していると言えるのである。ショットに比べて、ゼット・ライトの話し方一つとって見ても、ガラリアは、この人の方が優れた知識人だとわかっていた。

ガラリアは、軍の技術主任的地位にあり、且つ地上人であるのに、奢らず、召使いにすら、おつかれさん、と毎日の挨拶を欠かさず、ひたすら機械の館で働くゼット・ライトを、気取らない人だ、頼みごとをしやすい人だと思い、気安くお喋りできるのだった。

強獣の殻と聞き、ガラリアは即座に、こう答えた。

「それならば、ユリアの実家から、いくらでも取り寄せられるとも。」

「そりゃあ、オストークの店に注文すれば、納品はすぐでしょうが、予算は出してもらえるでしょうかね?申請は、バーン殿を通してから、ドレイク閣下のサインが要るのではないですか」

「うむ、そうだが…バーンが上申に応ずるであろうか。よい、とにかくゼット殿には承知いただけたのだ。次は予算を通すのみ。バーンは私の言う事を、いつも話し半分にしか聞かぬからな、ふん、なんなのだ、あの態度は」

と、ガラリアはゼットを前にし、ブツブツ愚痴った。

そんな彼女を、常に、愛情深く観察している者には、ガラリアの、バーン・バニングスへの、深く、複雑な、愛憎のありかが、感じとれるのだった。それに、気がつかない者は、ガラリア本人とバーンの2人だけなのだ。

 ガラリアにベタ惚れのゼット・ライトは、彼女の愚痴を聞きながら、機械油で汚れた手を、何日も洗濯してないタオルで拭き、工作室の隣室へ向かう、短い廊下を歩いた。ガラリアは、彼についてトコトコ歩き、話し続けた。

「我が守備隊の下士官、ユリア・オストークは、今年入隊したてだが、士官学校卒で、なかなか腕がたつのだ。意志が強いし、操縦も上手いのだ。平民ゆえに、皆に侮られぬために、懸命に働いておる。私の部下の方が、バーンのより、ずっと有能なのだ。そう思うであろう、ゼット殿」

ガラリアの、ユリアへの賛辞を聞いて、ゼット・ライトは、心の中で言った。

(それは、貴女への言葉でしょう。俺は知らないが、貴女には、過去になにかの理由があって、それで、常に今のご自分に満足する事なく、向上に燃えている。そんな貴女だから、俺も、ユリアも、貴女を好きなのですよ)

 ゼットは、住み慣れた、執務室の扉を開け、入った。ガラリアも続いて入ったが、彼女はこの部屋に入る度に、

(いつ来ても、汚い個室だなあ。たった15畳ほどの一部屋に、仕事机と、大きな本棚には、バイストン・ウェルの本がぎっしり。机には電灯が一つ置いてあり、机上には、本や書類が散乱している。そして、隅に小さなベッドが置いてある。あのベッドのシーツがまた。いつ洗濯したのだ。掃除や洗濯くらい、召使いにやらせたらいいのに。ああ、くっさい。この部屋に入ると、ヘンな匂いがするのだ。いったい、なんの匂いなのだこれは。)

と、鼻をゆがめていた。

 ガラリアがクサイと思う匂いとは、全世界の【1人暮らしの独身男の部屋】共通の匂いである。それは、湿気とカビと、部屋のヌシの体臭が混ざった、独特の異臭である。湿気だけならば、こんなすえた匂いはしない。異臭の大元は、言うまでもなく、ヌシが毎日放出している、白いのである。

 この執務室兼、寝室に、いとしの彼女が来てくれる事を、最大の喜びと感じているゼット・ライトは、足先で、ゴミ箱を押し、彼女の視界に入らないようにした。円筒形のゴミ箱には、書き損じた書類を丸めたものも入っているが、それを上回る、大量のちり紙が、押し込んであるのだ。

 ガラリアは、特に用もなく、ゼットの部屋に入る事に、慣れていた。1階にあるこの部屋は、庭に面した大きな窓が、開放されており、窓から誰でも中が見える。ガラリアは、窓からこの部屋に入る事もあった。他の誰でも、この窓の前を通るたびに、仕事机に向かっている、機械の館のあるじを見て、こんにちは、ゼット様、と気軽に声をかけた。この窓と、出入り口の扉が閉ざされている時に、この部屋のヌシは、ちり紙を消費しているのだった。

 ゼットは、自分からは、彼女に喋りかける事ができない。本心では、お喋り、したい。好きな男性のタイプは、とか、俺みたいなタイプはだめですか、とか、俺と出会ってからずっと、男っ気がないようだけれど、恋人がいたことはあったんですか、とか、バージンではないですよね、それがまたヨイんです、全く男知らないより、貴女ぐらいの感じがヨイんです、そんな貴女にバキュームフェラしてほしいんです、とか…思考がそうなってしまうから、俺からはなにも話し掛けられないんだよぉ。ゼットは黙って仕事机に向かい、椅子に腰掛けた。

 ガラリアは、座っているゼットの左側(窓側)に立ち、書類が散乱している机上を眺めた。半紙に描かれた、オーラ・マシンのデザイン画がある。黒インクのペン書きの、二足歩行型のマシンの絵が数体、付記して、バイストン・ウェル文字で、説明文が書かれている。

「これをお作りになる予定なのか、わあ、すごい、これがオーラ・バトラーなのか」

「はい、ああ、これはまだアイデア段階で…」

「ふむ、今製作中のバラウと、この新型の、ドラムロが合体すると。空中で分離・合体が可能と。これはすごい新兵器だな。ふむふむ、ドラムロは剣を携えて、背中の翼に、さやがあるわけか、なるほど。空中で、剣を使える乗り物というわけか。」

机上に両手をついて、彼女がかがみこむと、ゼットの左肩に、甲冑に包まれた、たわわな乳房が、触れそうに近づく。白い横顔は、オーラ・バトラーの絵に見とれて、無邪気にはしゃぎ、俺の、顔の至近距離で、赤い唇が開く。彼女の白魚の手指が、半紙に置かれて、俺の筆跡をなでる。

今、ゼットは、至福の只中にありながら、半勃起した股間を、隠す事に必死であった。腰掛けているので、左足を右足に組んで、なんとか隠した。鼻息が荒れないように、ヨダレが出ないように、お下劣な欲望を、彼女に悟られないように!だめだ、興奮する、そうだ、別の事を考えてみよう、アインシュタイン特殊相対性理論は…だめだぁ、簡単すぎる、特殊なのはアインシュタインなんかじゃないんだ、ガラリアたんの魅力なんだ、ああ、そばに寄るといい匂いがする。

 ガラリアは、なおも、ゼットの机上を眺めた。ドラムロの企画書の他にも、たくさんの書類や本がある。それらの、重なった下に、広げられた筆記帳があった。

おや?なんだこれは。奇妙な文字がびっしり書いてある。これだけが、私の全く知らない文字だが、筆跡は、これはゼット殿のお手ではないか?

ガラリアは、青い革表紙の筆記帳を手にとって、まじまじと見た。ゼット・ライトは、勃起沈静化のため、彼女を直視しないようにしていたので、気づくのが遅れた。

「わあーッ!!見ちゃだめです!!」

温厚なゼットが突然、自分の手にしていた筆記帳をひったくったので、ガラリアはきょとんとし、

「なんだ?それは、私には全然読めないのだが?」

そうか、バイストン・ウェル人は、英語喋ってるのに英語文は読めないんだった。ゼットは、ホッと安心し、日誌を抱きしめながら、

「いえ、これはあの、なんでもないです…」

ガラリアは、他のバイストン・ウェル人と同様に、知らない地上の話しに、興味しんしんである。

「それは、ゼット殿のお国の、文字なのか?ゼット殿は、ショット・ウェポンと同じお国と聞いたが」

「ええ、俺もあいつも、アメリカ国籍で、英語圏です。これは、英語で書いた記録で…ええ、あの、ショットは生まれ育ちがオーストラリアという他の国なんですよ。だから、同じ英語でも、話し方が違う点があります」

「フゥーン。アの国と、他の国とでは、方言があるから、地上も同じように、共通語はあっても、なまりがあるというわけか?」

ゼットは、日誌を机の引き出しに入れ、彼女とのお喋りが、はずんできた事を、内心喜んでいた。彼女の「フゥーン」がこれまた、たまんない、と思いながら。

「いや、地上には、俺とショットが喋っている英語の他にも、多数の言語があって、習わないと喋れないし、文字も読めないんです。方言というレベルではない、明らかな言語の相違があります。それがね、おかしなことに、ガラリアさん、貴女も英語を喋っているんですよ!」

「私がえいごを喋っているだと?」

これが、地上とバイストン・ウェルとの、不可思議な関係の一端である。解説は、スプリングフィールド出身のアメリカ人、ヒスパニック系とアフリカ系の混血で、肌が黒く、大柄な28歳、分かりやすくお話ししてくれる、ゼット・ライト氏にお任せするとしよう。

「そうです、俺の耳には、ガラリアさんの言葉も、ミ・フェラリオの言葉も、俺の母国語、英語で聞こえてるんです。興味があるのは、地上の、英語圏以外の人が、バイストン・ウェルに来たとしたら、どうなるのかって点で。」

「えいご以外の、国の言葉は、ゼット殿にも理解できぬのか?」

「そりゃあ、できないですよ。俺が喋れる外国語、地上の言葉は、せいぜい5種類ぐらいです。だから、俺とは共通の言葉を持たないはずの、地上人と、ここで出会った時、俺とその地上人との会話は、どうなるのか。それと、例えば貴女が、地上に行ったとしたら、貴女の言葉は通じるのか。英語のままなら、英語をわかる人にしか、ガラリアさんの言葉は通じないはずです。はてさて、バイストン・ウェルっていうのは、奇妙な世界です!言語学の対象としても、実に興味深い所なんですよ。」

「フゥーン…」

ガラリアは、熱心に、ゼット・ライトの話しを聞きながら、ふと、こんなふうに思った。

(この男の話し方…知識が豊かで。おっとりしていて。彼を、思い出させない、こともない)

ゼットの意中の女性は、唐突に、こう言った。

「ゼット殿は、おいくつであるか?」

「えっ」

「お歳は、いくつか。何歳なのだ、あなたは」

色黒の地上人は、かわいいガラリアが!俺のことを!俺の個人情報に、興味を持ってくれたのかと、天にものぼる心地になり、茶褐色の瞳を泳がせた。

「あぁ、あの、俺は、二十…八です…」

「なに?!にじゅうはちぃ?!」

大声を発し、大口をパカーンと開け、彼女は、激しく驚いたようだ。ゼットは、28だったらマズイことでもあるのか、と動揺し、

「ええと、あの、一応、バイストン・ウェルに落ちてからの日数をですね、数えて、誕生日があって、そ、それぐらいになってますが…いけませんか…」

「別に。わかった。では」

と、ガラリアはスタスタと歩き、庭に開かれた窓に向かい、さんに片手をついて、ヒョイっとジャンプし、外へ出て行ってしまった。機械の館の、屋外で、彼女が、乗ってきた馬で去って行く物音が聞こえた。

 残されたゼットは、熱いため息をつき、彼女が俺に年齢を尋ねた、これはどういう意味だ、ひょっとして俺に好意を、いやまさか、あぁっ、とうなり、おもむろに、彼女が出て行った窓の、開き戸を閉めた。カーテンも、ぴったり閉めた。

 機械の館のあるじは、今から剣磨きタイムである。

 


「ユリア!ユリア・オストークはいないか。」

ラース・ワウ城内の、守備隊兵舎にやって来て、隊長ガラリアは、1つ年下の女性の名を呼んだ。ハンカチの青年が、ユリアならさっき馬で出て行って、と言いかけると、ガラリアの後方から、黄色い声がした。

「ガラリアさまーっ」

声は黄色く、髪は黄緑色の女性が、走って来た。

ユリア・オストークは、ガラリアより数センチ背が低く、スラリとしなやかな姿態の、20歳の女性だ。その黄緑色のサラサラの直毛を、肩にかかるほどに伸ばし、漆黒の瞳は大きく、愛敬のある顔立ちであるが、ガラリアのような目立つほどの美人ではない。笑顔は愛くるしく、見る者を安堵させる土臭さがあった。だが、その口元は、硬い決意によってきりりと結ばれ、黒目の視線は常に天空を、希望を仰ぎ見ている。

ガラリアはこの女性を見るたびに、自分が失ってはいけない、なにかを感じた。

化粧をまったくほどこさない顔は、ドレイク軍の薄茶色の軍服に溶け込む、黄色がかった浅黒い肌だった。その肌色が、彼女が騎士階級ではない、平民であることを、表していた。

「ガラリア様、機械の館に行っておられたのですね、わたくし、後を追っていましたの。行き違いになったのですわ。」

ユリアの言葉遣いは、意識した<騎士口調>である。平民は、<わたくし>とは、普通言わないのである。

「ユリア、外で話そう。朝礼で私が発言した、ドロの配備についてなのだが。」

と言って、守備隊の女2人は、連れ立って中庭に出た。青い短髪のガラリアと、黄緑色の髪のユリアが、並び歩くのは、ここ数ヶ月、ラース・ワウではありふれた光景となっていた。

ガラリアは、ユリアが好きだった。本編のヒロインにとって、ユリア・オストークという、女性との出会いは、人生の、重大な転機であった。

 ガラリア・ニャムヒーという女性の、今までの人生において、無かったものとは、なんだろうか。彼女が歩んできた人生、彼女と関わった人々を想起してみよう。

 父親は、ガラリアの記憶にはない。ただ、罪名としてしか、ガラリアの父は存在しない。しかし、彼女と、彼女の母とを、庇護し、学資金を援助してくれた、ミズル・ズロムという、保護者としての「父親」的存在があった。恩師として、指導者として、ミズルはガラリアにとって、優しくあたたかい、おじさんであった。

 ガラリアの母は、12歳の時、死別した。それは彼女の絶望であったが、母の死を、ガラリアは「自分が、ニャムヒー家の再興を担うべき者である」という気概でもって受け止め、耐えて生きてきた。

 異性に、恋をした。初恋はバーン・バニングスであり、彼と、13歳の時から、8年間過ごしてきている。バーンをはじめ、士官学校でも、正規軍でも、ガラリアの周囲は、男性ばかりだった。ガラリアに愛情深く接するハンカチの青年もいる。

そして恋人は、あった。褥を供にした、かの人は、遠い処へと、旅立った。

 つまり、ガラリア・ニャムヒーが、母親以外に、親しく交流した者は、全て男性だったのである。

リムル姫とは、家臣として接しているだけであるし、リムルはガラリアを嫌っているので、親しくなれるはずもなく、音楽教師ミュージィ・ポウとも、さして親交はない。しかも近年、ミュージィは、ショット・ウェポンの恋人の地位におさまってしまい、ショットを嫌うガラリアとは、以前よりも、折り合いがよくなくなっていた。

 ユリア・オストークは、士官学校を優秀な成績で卒業し、今年度、正規軍に入隊した。ガラリアは、初めての、女戦士の部下を持つと同時に、生まれて初めて、女友達を、同性の親友を持ったのである!

 同性の親友。それは、女性の生涯において、母の名と等しき光明である。そんな友達を、得る事ができた者は、歓喜に満ちた生涯を送る事が、できるのである。

筆者は、原作のガラリアに、最も足らなかったもの、<親友>を、<友情>を、彼女に贈りたい者である。

 


「なあ、ユリア。さっきゼット・ライトと話していて驚いたのだ。」

「どうされたのです?」

ガラリアに憧れ、兵士になったユリアは、守備隊長に忠実な部下である。ガラリアと話す時、ユリアの黒い瞳は、黒曜石が如く、歓びに光り輝く。ユリアこそ、本編の登場人物女性における、ガラリアさま好き好き病患者の、第一人者である。

「あれが、28歳だと。見えるか?あの風采で20代だとは。私はてっきり40近いかと思っていた。びっくりだ」

「老けてますわよねー。鼻はアグラをかいてますし、お世辞にも、かっこいいとは言えない男性ですわ。でも、いい方ですわ。真面目だし、地上人なのに奢らないし。ゼット様のお話しに拠ると、地上の国には、階級格差がないそうなのです。だから、あの方は、わたくしが平民だからと、他の者のように、さげすんだりなさいませんし、召使いにすら、同じ働く者としての礼節を欠かさないのですね。それにしても羨ましいですわ、階級のない世界なんて…」

「ユリア、私は、騎士階級だが、幼い頃は平民の街で育った。お前を下位の者と思ったことは、ないぞ」

「勿論です!わかっておりますわ、ガラリア様。それに、地上の同じ国の出身だというのに、ショット様とゼット様では、まるで態度が違いますでしょう。」

「そうだ、そうだ。ユリアもそう思うか!ショットの、あの威張り方はなんだろうな。」

「これもゼット様に聞いたお話しですけど、地上には、階級こそないけれど、肌の色の違いで、差別があるとか。」

肌の色の差別、と聞き、ガラリアは、友達が、その浅黒い肌と、自分の白い肌とを比べ、いやな気持ちになるのではないかと心配した。しかしユリアは、屈託無い笑顔でお喋りを続けた。

「色白で金髪のショット様は、白人と言うのだそうです。ゼット様は、白人や黒人や、色々混ざった人で、黒人というのは、黒いというだけで、白人から、いわれなき差別を受けてきた歴史があるのだそうです。しかし、ゼット様の国では、長きに渡る差別撤廃運動によって、オレのような褐色の肌でも、実力次第で正当に評価される国になったのだと、言っておられましたわ。」

「実力次第でか…それは、…うん、そうか…」

ユリアは、それ以上は語らないガラリアが、父親の罪について、考え込んだらしい事を、思いやり、明るい話題に変えようと思った。

「ねえ、ガラリア様は、ゼット様のご年齢が、気になりましたのね?」

「うん。ちょっと…何歳なのかなあと思って、尋ねたのだ」

「ちょっといい感じですの?うふふ」

ガラリアが、同性の友を持ち、非常に驚愕するのは、これである。なんで、彼女は、私の心の、奥底にしまいこんでいる感情が、わかってしまうのだろう?さっきゼットの話し口調を聞き、ふと、知性的で落ち着いた物腰の、元彼を思い出しただけなのに、それをもう、ユリアは見抜いてしまっているのだから。

ガラリアは、焦って言い訳した。

「いや、別に、いい感じではない!あんな不細工は、好みではないのだ。気安いというだけだ。そういう対象ではないな。うん、全く、ない。ありえない。ゼット・ライトは、なし。理由は、不細工だ。」

「まあ、ガラリア様は、面食いですのね」

「めんくいとは、どういう意味か?」

「美男子でなければ恋人にしない、褥をしたくないという意味ですわよ」

「…ウーン…では、面食いかもしれぬな…」

さてここで、ガラリアの、今までの、恋愛遍歴を想起してみよう。

初恋の男性:バーン・バニングス(アの国一番の美男子)

初めての恋人:アトラス(クの国一番の美男子)

そう、ガラリアという女性は、実にえげつない、面食いであった。国宝級の美男子でなければ、恋しないのである。

従って、28歳なのに40近くに見える不細工でデブな、機械の館のあるじは、そういう対象としては、アウトオブ眼中であった。

 ガラリアにとってゼット・ライトは、「不思議な異世界からやって来て、不思議な機械を作ってくれる存在」であり、また、ガラリアのオネガイならば、「しぶしぶでも、結局は言いなりになる、太った生き物」であり、即ち、ガラリアはゼットを、のび太ドラえもんを見る目で見ていた。

 


ガラリアは、中庭を歩きながら、ドロの増産について、さっきゼットと話した件を説明した。つまりはバーンが承知すればよいのだ、と守備隊長が語っていた時、遠方に、青い長髪をたなびかせ歩くバーンが見えた。丁度よい、今言ってやろうと、ガラリアはユリアを連れて騎士団長に駆け寄った。

 バーン・バニングスにとっては、本日2度目の拷問であった。オレンジ色の軍服に、ピアスをきらめかせた、愛しい女性が、友軍ユリアを率いての、折衝にやって来たのであるから。

「バーン!ドロの増産について、ゼット殿には許諾をもらった。お前がお館様に上申書を通せば、増産はなるのだ」

バーンは、女2人を、横顔で見ながら、早く、話しを済ませたいと思った。

「…機械の館が、承知したのか…では、守備隊は、何機ほしいのだ?」

背後に、友達がいてくれるので、朝礼時より強気になっているガラリアは、警備隊と同じ数だ、と言ったが、バーンは、額に片手をあて、あたかも空からの光が、まぶしいかのような仕草をしながら、彼の一番まぶしい存在に向けて、話した。

「同数も要らぬであろうが…20機ともなれば、銭がいくらかかると思っているのだ、ガラリア。」

「要らぬなどと、勝手に決めるな!ぜにならば、今年度予算案に、必要な金額を投入すれば、済む事であろう」

「ドロ20機分も、予算に今から余裕があると思うか。」

ユリアは、そんな2人の様子を、黙って見つめていた。数ヶ月間、青い髪の男女を、数歩引いた位置から、じっと観察してきたユリアは、バーンが、ガラリアに、見とれたり、それを悟られまいとして、イライラして視線を泳がすそぶりを、既に、発見していた。

(バーン様とガラリア様は、幼馴染みと聞いたわ。ずっと、このお2人は、御一緒の暮らしをされてきたのね。そして、お2人は…想い合っておられるのだわ。ガラリア様ったら、ご自分でご自分の想いに、気がついておられないようだけれど!はっきり自覚する事を、ためらっておられるようだわ。

 わたくしは、ガラリア様を好きだから、熱心に、お2人を見ているから、わかるの。特にバーン様は、必死で、ガラリア様へのお気持ちを、抑えようとなさっているわ。

なぜかしら?好き合っているお2人が、こうも仲たがいをするのは?

ガラリア様は、バーン様に敵意剥き出しだし、バーン様は、本心を偽っておられる。わたくしには、バレバレですけど。バーン様がこのように、冷たくあしらおうとすればするほど、ガラリア様は、相手にしてもらえないという、やきもきが募るばかりだし。見ていて、面映いのよね、このお2人は!

平民のわたくし。城下町にある、実家の窓から、赤毛の馬を疾走させる、青い髪の女戦士、ガラリア様を見ていた。凛々しいガラリア様に憧れ、兵士になる事を志願した。

 士官学校では、平民のくせにと、どれほど罵られたか。わたくしの成績が良いほど、騎士の落ちこぼれたちの、妬みからの、いじめは激しくなった。そんな折り、兵法学のミズル先生から、ガラリア様の生い立ちを聞いたの。わたくしは驚き、そして尚更、彼女を敬愛するようになったのだわ。

 勇猛果敢なだけの、ガラリア様では、なかったのだと。わたくしのように、いじめられ、傷ついた少女時代があったのだと。

どのように辛かったことでしょう!ミズル先生は仰ったわ。ガラリアを慕うのならば、彼女の心根を、見習えと。

そして正規軍に入り、バーン様とガラリア様の関係を、見たの。こんなお似合いな男女は、いないわ!バニングス家といえば、ルフト領きっての名家、そしてバーン様は、このように、美しい御方だし、このように…ガラリア様を好いていらっしゃるのだし…

なにかがあったのね、お2人の過去に。バーン様は素直に口に出せない、ガラリア様はご自分の感情に素直になれない、なにかよほど大きな事が…いつかガラリア様は、わたくしにお話しして下さるかしら?

ガラリア様、わたくしは、貴女のお気持ちを分かち合う友に、なりたい者です!)

 


ユリアの前で、青い髪の男女は、交渉決裂の様相を呈していた。バーンのイライラは、怒鳴るまでに達していた。

「ガラリア!書類を通せと簡単に言うが、上申書の書き方を知っておるのか、書いた事もないくせに。それに、書面を出したとて、数字が絵空事では、能率が上がるという裏付けがなければ、お館様は、御首を縦にはふらぬのだぞ。まるでわかっておらんのだ、お前は。思い上がるな!」

「なにをぅっ、上申書ぐらい、私は、いくらでも書いてみせる!」

「では裏付けは!警備隊と同じ数をよこせと書くのか。そのようなもの通らんぞ、ふん、浅はかな。」

「浅はかだと、なんだと、もう一度言ってみろ!」

するとガラリアの背後で黙っていたユリアが、気をつけ、の姿勢で、バーンに言った。姿勢は気をつけだが、声は涼しく、表情はかわいらしく、にっこり微笑んで。

「本日の午後のうちに、何機を要するか、理由はなんであるか、守備隊内で充分な検討をいたします。その上でガラリア隊長に書面をまとめていただき、夕食の…時刻には、バーン様に提出できましょう。ですわよね、ガラリア様。」

黄緑色の髪のユリアが、こう言うと、ガラリア・ニャムヒーは、誇らしげに、友人を振り向き、またバーンを見て、それはもう、どうだ!と言わんばかりに誇らしげに、モス・グリーンの瞳を輝かせて見せた。

バーンは、苦虫を噛み潰した顔を、うつむかせ、

(この女友達を得て、ガラリアは元気になったから、恋するわたしは安心ではあるがな。しかし、この、女2人の攻撃には、職務を遂行するわたしには…キツイ事、この上ない…ガラリア1人でも、わたしは精一杯だというのに。)

と思いながら、女2人に背中を向けて、立ち去りながら、

「では書いて、騎士団長室に、持って来い。」

と申し伝えたが、一層、強気になったガラリアは、後ろ髪のたなびく騎士団長に、なおも喧嘩を売った。

「バーンが取りに来い!夕食後に、私の食堂へだ。」

女2人相手の折衝が、もう面倒くさくなったバーンは、振り返らずに、

「…せいぜい読める書面を作っておけ」

とだけ言って、足早に遠ざかった。塀に隠れて、誰にも見られない場所に至ると、バーン・バニングスは、

「ハァーッ…」

と、深いため息をつき、ガックリと、うなだれるのだった。彼の腕当ての甲冑が、膝当ての甲冑に触れるほどに、うつむき、己が孤独を嘆くのだった。

 


 さて、ユリアが、書類の提出は夕食の時刻にと、バーンに言ったのには、ある思惑からだったのだが、黄緑色の髪を、サラサラとなびかせて歩く、ガラリアの腹心の部下は、それを口には出さなかった。

ガラリアは、守備隊兵舎に戻り、下士官に集合の号令をかけた。隊長ガラリアと、ユリアと、ハンカチの青年ら、隊の幹部たちは、午後いっぱいをかけて、オーラ・ボム(飛行艇)、ドロを、20機製作し、我らに配分されたしという主旨の上申書の、草稿を作った。

 大きな会議用の机を、皆で囲み、話し合う。守備隊のガラリアの先輩で、今はガラリアの部下となったハンカチの青年兵は、彼女が正規軍に入隊して以来ずっと、心密かに、彼女を恋慕ってきた。彼は、

「各部隊の希望数を言え!私がバーンに話しをつけてきてやるからな。」

と、高揚した顔色で会議に臨む、好きな女性の、白い首筋を見つめながら、ふと思った。

(以前のガラリアは、他人と対等な目線で、談義するなんて、絶対できない子だった。子供時分からいじめられてきて、彼氏ができたけれど、亡くなってしまって。かわいそうに、ガラリアは、友達を信頼するっていう気持ちを知らなかったんだ。仕事ぶりは熱心だけれど、スタンドプレーで、自分だけが評価されればいいという態度だった。

それは、ガラリアが、友達がいなくて、寂しくて孤独だったからだ。
仲間と協力し、成功を分かち合う歓びを知らなかったからだ。

俺は、彼女に心くばりをしてきたけど、いかんせん、男だから、彼女は警戒心を持ってしまうんだろうな。俺を恋愛対象として見てくれないのは、悲しいけど、仕方がないって、諦めているけど…

でも、ユリアが守備隊に入ってから、ガラリアは、随分、明るくなった。こうして、部下の意見を尋ね、みんなの総意をまとめるのが隊長の仕事だと、わかるように、できるようになってきた。

よかったね、俺のガラリア!ありがとう、ユリア!)

夕刻になり、上申書は、ガラリアが清書し、バーンに渡すのみとなった。今日一日、オレンジ色の軍服を着たままのガラリアは、薄茶色の軍服姿のユリアと、並び歩き、手にした上申書の草稿を指し、夕食前に清書してしまうから、と話した。するとユリアは、

「ガラリア様、わたくしは汗をかいたので、お風呂に入って着替えてから、夕食をとろうと思うのですが、よろしいでしょうか」

「構わぬ。本日の業務は、現時点で終わりだ。ユリアも、私も退勤してよい時刻だからな。これよりは自由時間だ。バーンもだが、あいつは夕食後に来るように言っておいたから、私はそれまでにこの書面作りをしておく。」

「どこで書き物をされますの?個室で?」

「いいや、食堂で、済まそうと思う。」

 ガラリアの個室(寝室)は、彼女が4年前に入隊して以来、同じ部屋なのだが、副団長であり守備隊長となった現在、ガラリアは、専用の食堂と執務室を城内に持っていた。ドレイク軍では、上位の役づきになると、自分専用の食堂が与えられ、給仕に好きなものを注文できて、給与に食費込みである。

さっき、バーンが「騎士団長室」と言ったのは、バーン専用の執務室を指す。ガラリアが「私の食堂に来い」と言ったのは、食堂や執務室は、他の者が出入りできるおおやけの場所である事を示している。

 また、ドレイク軍は、軍隊なので、全兵士が同じ日に休日になったりしない。当たり前だが、敵から急襲された時、ラース・ワウ城の門前に

 『本日は定休日ですので、明日の午前9時以降にまたご来店下さい』

などと貼り紙をしておいて、敵が「今日は休みかぁ~」と帰ってくれたり、なんかしないので、軍人の休日は、交代制である。高官ほど、同じ日に休日が重ならないように配分してあり、従って、軍の要職にあるバーンとガラリアとは、違う日が休日だった。以前、ガラリアがアトラスの別荘にお泊りに行っていた日は、彼女の休日であり、バーンの勤務日だったわけである。

いざ戦闘が勃発すれば、休みもへったくれもなくなってしまうが、退勤後や正規の休日の、自由時間には、買い物に行くなり、実家に帰るなり、また、私服を着る事が許されていた。

 自分より背の高いガラリアを、にこにこして見上げるユリアは、黒い目をいたずらっぽく輝かせながら、

「ガラリア様、もし、宜しかったら…わたくしも、お食事を御一緒していいでしょうか。」

「いいとも!着替えてから、私の食堂に来たらよい。」

「ありがとう御座います。嬉しいですわ。ガラリア様の食堂で出る、腸詰めの蒸し物が、とても好きですのよ。あれをまた食べてみたくって。それと、ね、ガラリア様、先週、一緒にお買い物に行った時に、お揃いの服を買いましたでしょう、あの服、まだ袖を通してないので…あれを着てみませんか?」

「私もか?今日か?うん、そうだな、どうしようかな…」

ユリアは、大きな目を、より一層見開き、漆黒の虹彩を、キラキラと光らせた。

「着て見せて下さいまし!ね、見たいですわ、あの服、サイズだけ見て買ってしまって、試着しなかったでしょう、ね、ね、お揃いの服で、お食事したいですわ、ねっ!ガラリア様」

ユリアが、そうしたいと言うから、ガラリアは友達の申し出を承知した。今、ガラリア・ニャムヒー21歳の心は、友達と、新しい服を着て、空腹を満たす事でいっぱいになった。おしゃれして、食事か。そんな楽しみが、あってもいいのだな。ユリアに出会わなければ、知らないままだった。私は、楽しみを持ってもよいのだということを。

(だが、ユリアに言われた、「いい感じ」な気持ちで、誰かを、男を見ることは、もうないのだ。恋する私の人生は、あの日に、終ったのだから)

ユリア・オストーク20歳は、心中で、

(うまくいくといいな、うふ)

と、ほくそえんだ。

 

2004年2月23日