ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第44章 トッド・ギネスのラブソング

ジョークのひとつもいわなきゃ やりきれないんだ
はしゃいでいるけど 楽しそうに見えるかい
心はブルーさ

だから 俺をみつめてくれ
俺の笑顔を みつめてくれ
きみはわかってくれるかな 傷ついてることを
きみだけさ ほしいひとは

(原題:TRACKS OF MY TEARS/SMOKEY ROBINSON
トラックス・オブ・マイ・ティアーズ/スモーキー・ロビンソンとミラクルズ)

訳詞:筆者 (原曲にあわせて、なんとか歌えます。)

原文

People say I'm the life of the party
'Cause I tell a joke or two
Although I might be laughin'
Loud and hearty
Deep inside I'm blue

So take a good look at my face
You'll see my smile looks out of place
If you look closer it's easy to trace
The tracks of my tears
I need you,need you

トッド・ギネスが口ずさんでいたのは、ベトナム戦争時代に、アメリカで流行した曲だった。彼の父親は、ベトナムで戦死したため、この歌を、トッドに歌ってきかせてくれたのは、ラジオと、ママだった。トッド・ギネスは、この歌が好きで、しょっちゅう、口ずさんでいた。

バーン・バニングスは、今朝はやく、大隊を率いて、一路、ミの国へと、行ってしまった。機械の館の工員たちも、ゼット・ライトさえも連れて、行ってしまった。人垣の消えたラース・ワウは、閑散とし、晴れた空は、退屈さを助長していた。

日よけの傘のかげ、白いテーブルクロス、テラス席にしつらえられた昼食も手につかず、イライラしているガラリア・ニャムヒーを、なぐさめようと、同席するトッドは、地上の歌を、歌ってきかせていたのだ。

お城にいるのは、ご領主様の奥方、ルーザ・ルフト様、幽閉の姫君、リムル・ルフト様。そして、後続軍として出立する予定の、ドレイク・ルフト様と、ショット・ウェポンである。この防備役をまかされたのが、守備隊長のガラリアと、青いドラムロのトッド・ギネスだった。ていのいい、休暇命令に近かった。ドレイク軍初の、大々的な他国との戦争、しかもオーラ・マシンを多用しての物量戦で、よりによって、お留守番を言い渡されたのだ!

ゼット・ライトがいない機械の館に、バラウの整備をまかせてきたガラリアは、ぜんぜんおいしくない昼食の皿を、フォークでこすりながら、ひとりごちた。

「お館様とショット・ウェポンが参戦するときには、私たちも出陣となるはずだ。間もなくだ。きっと、明日には。いいや、今夜かもしれぬ。」

「そんなに、あせることたァないぜ、ガラリアさん。バーンは、あれだけの大隊で出たんだ。俺たちの戦力が必要になるときが、そんなに早く来たら、そりゃ、戦局大ピンチってことだぜ。今すぐ、そんなことになったら、ドレイク閣下は、お困りになるだろう?」

トッドは、そしてまた、さっきの歌を歌った。ジョークのひとつもいわなきゃ、やりきれないんだ…。ガラリアは、トッドの喉に、けっこう聞き入っていた。地上の流行歌が珍しかったし、彼女も、いい歌だと感じた。

「それは、さびしげな歌であるなあ。その歌をうたう男は、歌詞に登場するご婦人に、片恋をしておるのかな。」

アメリカ人男性は、口元だけで笑い、うーんと考えて、

「いや…付き合ってはいたんだろうぜ。だけど…男の真剣さを、彼女が、わかってくれないから、さびしいんだ。」

「だから、その男は、泣くのか。」

「そう、心の奥底ではね。でも、顔じゃあ、笑ってるんだ。」

ガラリアに、トラックス・オブ・マイ・ティアーズ(涙のつたった跡)の、歌詞の意味を、語ってきかせていたそのとき、トッド・ギネス自身が、まだ、ぜんぜん、そのほんとうの痛みを、理解していなかったと、後になって気がつくのだった。

軍服を着込み、いつでも出陣する気まんまんのガラリアは、昼食の席から立ちあがり、早足でどこかに、行こうとする。トッド・ギネスは後を追った。

「おいおい、俺を置いていかないでくれよ、ガラリアさん。さあ、どこに行こうか?機械の館?それとも、ミの国境を見渡せる、物見やぐらかい?」

「むう。機械の館は、もういい。バラウも、青いドラムロも、いつでも飛び立てるよう、準備させてある。物見やぐらへ行く。」

ただでさえ、ガラリアは、怒り心頭だった。まず、つい3日前に、恋の告白が、お釈迦になって、城内みんなの、物笑いの種になったのだ。次いで、そのさいの自分のふるまいが、昆布ライセンスがどうとかで、秘密厳守の軍律に、抵触するおそれのある行動は、厳につつしむよう反省すべしと、

そんな理由で、前線から、はずされたのだ!死ねっ、昆布ライセンス!

(昆布ライセンス=コンプライアンス、と言いたいらしい。)

ご機嫌ななめのガラリアを、それでもトッドは、なぐさめ、ジョークを言い、付き合ってやっていた。それは、彼が、誰にでもしめす、心配りであった。だが、今のガラリアには、トッドのサービスは過剰に感じられた。イライラをつのらせた彼女は、

「べつに、聖戦士どのに、お付き合いいただかなくても、けっこうだ。私1人で行くから。」

言い残して、去ろうとしたら、トッド・ギネスが立ちふさがって、真剣なおももちで言った。

「いいや、それはいけないぜ、ガラリアさん。俺たちは組んで、ラース・ワウの警備に、あたらなきゃいけないんだ。電話があるわけでもないし、広い城内で、離れちゃ、いけない。それじゃ、伝令を使うかい?下級兵を、連れて行きなよ。」

しつこい…。ガラリアの、非常に悪い癖が出た。トッドの言ってることのほうが、正論なのはわかっているのに、自分の感情が通らないと、反射的に、怒鳴ってしまうのだ。

「うるさい!私は1人になりたいのだ!ほうっておいてくれ!」

すると、大人の男の、良識ある人間の、しかりつける声が。

「遊んでるんじゃないんだぞッ!ガラリアさん、あんた1人が、そうやって、ふてくされて済む問題じゃあ、ないぜッ。」

青い眉をくしゃくしゃにし、唇をとがらし、ようするに、ふてくされた顔で、ガラリアは、彼のほうが2歳年上だし、聖戦士だし、トッド殿のご意見を拝聴してやる、ぐらいの気持ちで聞いていた。

「俺たちは、2人そろって、ドレイク閣下の評価を落とした身だ。協力してかからなきゃ、いけない時期だろう?実際、こぉんな広い城内で、たった2人で見張り番だ。ユリアも、セザルも、前線に持って行かれちまって、オーラ・マシンが扱える部下はいない。いざって時、俺たちの連絡がとれなかったら、どうするんだい。」

最初は、きつめの口調だったが、後半は、優しくさとす言い方に変わった。ガラリアは、まだイライラはおさまらなかったが、トッドの正論は、認めた。

トッド・ギネスという、いま23歳になる男性は、セザル・ズロムが、ひとめでその才覚を見抜いただけの、人物であった。教養はあり、機転はきき、そして、基本的に、他者にたいして、優しいのだ。まことに知性的なひととは、思いやりのあるひとであるから。

そんな彼は、友人を、批判するときには、徹底的に批判する。先日、ゼット・ライトを批判したのは、彼の悪いおこないを是正するため、つまり友情の発露であった。バーン・バニングスが、愛のない婚約の犠牲者だと、言い放ったのも、彼一流の、思いやりのあらわれである。

いま、トッドは、目の前にいるガラリアが、まちがった方向に行きかけていたのを、けんめいに防いだ。それは、嘘偽りのない、他者への思いやりからであった。

こうした感情を、クリスチャンである彼自身は、「愛」と、呼んでいた。いつでも、誰にたいしても、「愛」をもって接するように。トッド・ギネスが信じている宗教は、そう教えてきたからだ。

ガラリアは、地上人トッドにばかり、主導権を握られてたまるものかと、奮起した。そうだな、今ここで、前線へ出たい出たいと、あせっても、しかたがない。それより、自分にあたえられた任務をはたすことが先決だ。お館様も、あの窓から、私たちの働きを、見ておられることだしな。

2人は、そろって、長い螺旋階段をのぼり、ラース・ワウでもっとも高い塔、物見やぐらに到達した。風がさわやかで、空気は澄み渡り、視界が遠く、遠くまでゆきわたり、気持ちがよい。おや、あれは。北方の国境を見るや、ミの国に、藍色の湖が横たわっているのが、見てとれた。そこへ向かって、バーン・バニングスの軍が、着々と侵攻している。上空には、オーラ・マシンが多数、滑空していく。ガラリアが説明した。

「あの湖に、レッド・バーの砦があるのだ。ミの国を、我がほうから守る要塞だ。あの砦を落とさなければ、ミの国の中枢、キロン城には、到達できないのだ。」

フームと、トッドは景色を眺め、

「周辺の地図はないかい、ガラリアさん。見せてくれ。」

ガラリアは、物見やぐら常駐兵の1人に、地図を持ってくるよう命じた。羊皮紙の地図がとどくと、トッドといっしょに、やぐらの上で、広げて見た。

まず、大国アの国のなかで、ルフト領は、北部に位置する。エルフ城を擁する天領は、アの国の南部の大半を占めている。元家老、ギブン家の領地は、ルフト領の、西方に位置する。ルフト領から見て北側に国境を接している他国が、このたびの戦争相手、ミの国だ。そして、ルフト領の北東に国境を接しており、ミの国とは東西に国境をはさんでいる軍事大国こそ、ビショット・ハッタ王の、クの国である。

バイストン・ウェル文字を、習いはじめたばかりのトッド・ギネスだったが、その優秀な頭脳は、地図に記された地名ぐらい、難なく読めるようになっていた。

「なぁるほどぉ…。こうして見ると、ドレイク閣下が、何年もかけて、クの国と同盟関係を構築してきた理由が、よくわかるぜ。」

ガラリアは、トッドの知的好奇心が旺盛なことや、もう文字が読めるようになっていたのかと、その頭脳には、感心した。

だがそんなことより、彼女の関心事は、ミの国戦役に行かせてもらえない、我が身の辛さだ。しかもその理由が、ゼット・ライトと起こした問題のせいだと?そう考えると、なおのこと、いまもなお彼女の膣内を支配していた男への欲情が、狂おしく、彼女を悩ませた。無理もない。ゼットに告白した真昼の出来事は、たった3日前なのだもの。彼の胸板に抱きついた感触が、現在も彼女の乳房に、じんじんとしみわたっている。

地平線上に見える、ミの国へ向かう大隊ををながめ、ブル・ベガーはあそこだとわかると、それだけで、陰部に蜜液があふれた。ああ!あの船に、ゼット・ライトが乗っている…いっしょに行きたい…私、まだ、こんなにも、ゼットに惹かれてる。28歳の彼、7つ年上の彼、私と仲良しだった彼。妻帯者だとわかって、だからつきあえないと拒絶されて、なおさら…!ああ、あのひとには、妻がいたのだ。だから、あんなにも包容力があって、大人の男性で…

地図を注視し、軍略に熱心だったトッドは、ふと顔をあげて、かたわらにいた女の横顔を見た。彼女は、ミの国のほうをみつめ、瞳をうるませている。

ガラリア・ニャムヒーは、青い髪、赤い唇、白い肌。そして彼女の、モス・グリーンの瞳、は、どこを見ているのか?

たしか、この瞬間が、はじまりだったと思う。トッド・ギネスの心に、それが、生まれた。

痛みだった。胸のなかほどを、太い針のような凶器で、突きさされたような、急激な、痛みだった。ぐっと、彼は息を殺して、痛みに耐えなければならなかった。あれっ、俺、どうしたんだろう?なにか悪いもんでも、食ったかな?

ここからが、ひじょうに珍しいのだ。トッド・ギネスは、そのとき、自分の心に生まれた、その感情の、名前を知らなかったのだ。生まれてはじめて、だったのだ!彼の年齢と経験で!彼のような、優れた知性でありながら!この瞬間まで、その感情を知らなかった!

このときを境に、トッド・ギネスの心に生まれた、この新しい感情は、日に日に、その痛み、重み、激しさを、増してゆき、いずれ、知性的な彼は、その感情の、名前にゆきあたる。

その感情の、名前にゆきあたった彼は、ほんとうの幸福を知り、同時に、ほんとうの絶望を知る。


だから 俺をみつめてくれ
俺の笑顔を みつめてくれ
きみはわかってくれるかな 傷ついてることを
きみだけさ ほしいひとは

 

 

2013年7月23日