ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第22章 ギブンの館

 ラース・ワウは軍事要塞であると同時に、大規模な居住空間でもある。標高200メートルほどの山麓にそびえる、この山城には、領主家族を護衛する軍属が、大勢暮らしている。軍属以外の、様々な職業の男女も、多く住む。ここは、多種多様な人々の我が家であり、ふるさとであった。

 騎士階級より下位である、平民階級も多く、召使いとして従事しており、ミ・フェラリオもたくさんいて、彼ら妖精は、騎士や召使いの間を飛びまわり、噂話に興じている。

 さて、古い城砦の一角に、人目をはばかるように設えられた棟があった。3階建ての石造り、その中には、不自然に華美に装った女だけが、ひどくおおぜい、住んでいて、彼女らは、昼過ぎに寝床から這い出て、風呂に入り、夕刻までに、お化粧という名の<戦闘準備>をする。

そう、この棟に住む女たちとは、城付きの娼婦。ここはラース・ワウ城内フーゾク施設、娼館なのである。

娼婦は、お客のお好みに応じれるよう、年齢・容姿等、多種多様な女が揃っており、みな、その道のスペシャリストで、階級は平民である。彼女たちが、なぜ娼婦になったのかは、くどく説明する必要はないだろう。

娼館のあるじ、娼婦長は、50がらみの太った女で、元・現役。現在は、城内の男たちからの<ご指名>を受け付け、配下の女たちに<出撃>を命ずる任務に就いていた。

浅黒い肌を、脂肪でたるませたおばさんは、ドレスの袖をたくしあげ、1階のフロアを行ったり来たり、いらいらして階上を見上げている。なにやら煩悶している彼女の手には、何十枚もの「ご指名申し込み書」が。

『申込者:○○部隊長
指名嬢:A子ちゃん
時間:夕食から朝まで
場所:申込者の個室』

この注文だと、A子ちゃんは一昼夜、○○部隊長につきっきりになるので、このフーゾク店では、最も高い料金。更にA子ちゃんは、店のナンバーワンであるから、他の子よりも高い指名料が取れる。つまり、おばさんにとって、○○部隊長は、上客なのだ。が、しかし。

「おおい、A子!なにやってんだい、早く降りといで。いつもの部隊長さんが、ご指名だよ。オールのお客さんだよ!」

2階にいるらしい、A子ちゃんは、ヒステリックに叫んだ。

「いやよ!あたし、トッド・ギネス様以外の客は、もう、絶対いや。トッド様からの指名は、ないの?今夜の、彼のお相手は誰なの。またB子なの?ちきしょう、なにさ!」

すると、A子ちゃんの隣室にいるらしい、B子ちゃんも、階上で叫び出した。

「トッド様は、あたしのものよっ!A子、あんたなんかに、彼を渡すもんですか!」

「黙れ、ガキ!」

「うるさい、死ねババァ!」

キィーッと2人の娼婦は、取っ組み合いのケンカを始めたらしい。おばさんの頭上、天井が、どすん、ばたん、と暴れる女の足音で振動した。

これが、一昨日来の、娼婦長の悩みだった。店の稼ぎ頭が、唯一夜、トッド・ギネスのお相手を務めて帰ると、
「トッド・ギネス様以外の男なんて、イヤ。彼にしか抱かれたくない!」

と言うのである。おとといの晩はA子ちゃんで、昨夜はB子ちゃんが、トッドと…おばさんは、きつく叱った。

「いいかげんにおし、あんたたち!いいかい、あたしらは、業務上やむをえず、男と寝てやってる職業人なんだよ。この業界に入った時から、わかってんだろう。カスどもに、気に入られるよう仕向けてなんぼなんだ。こっちから、いい男、選べる立場じゃないんだよ!」

しかし、A子ちゃん20歳も、B子ちゃん18歳も、ああトッド様、トッドさま、と泣き暮らし、他の客はイヤだと言い張る。ナンバーワンとナンバーツーがこの有り様では、娼館の商売は上がったりだ。

娼婦長は、泣いてイヤがる2人の襟首を、引きずりながら、思っていた。

(たまに、いるんだよね。こういう女殺しの男がさ。褥が職業の、娼婦の心でさえ、とろとろに、とろかしてしまう床上手が…しかもあの男、ウチの一番いい子を2人も出してやったのに…)

「なぁおい。もっと若い子は、いねぇのかよ。10代の、素人の少女は、いくらなんだ?」

トッドにこう言われたおばさんは、あんたのお勘定は、ショット・ウェポン様持ちだからいいものの、これ以上、「トッド様でなくちゃイヤ」な部下を、自分の店から出したくはないと思っていた。

 


 同城内、第1会議室。ドレイク・ルフト一下、軍幹部が列席する議場、ソプラノの声が、天井と、男たちの鼓膜をつんざいていた。

「私は反対であります!ギブンと交渉ですと?!今更なんの話し合いか!きゃつらは、我らが領民を大量虐殺した!そして一昨日、私の部下がダーナ・オシーに撃たれた!かようなやつばら、全軍を投入し、殲滅あるのみ!」

着席男性中、彼女のソプラノに、最も弱い鼓膜を持つ男が、低い声でいさめた。

「ガラリア。交渉とは、表向きだ。わたしがギブンの館に赴くのは、敵状視察、兼、競技場襲撃の意図を問い質し…」

バーンが言い終わらない内に、興奮して席から立ち上がっているガラリアは、居並ぶミズル・ズロムとゼット・ライトを、(私の味方をして。)と、すがる目で見ながら、同時に(私に反対するなら、あなた方も嫌いだ!)と威嚇し、

同軍の敵、バーン・バニングスへ向けて、なお甲高い声を尖らせた。

「なまぬるい!目には目を、歯には歯を、である。ギブンの館を爆撃し、ダーナ・オシーを、マーベル・フローズンを、抹殺すべきである!」

ここでショット・ウェポンが、嘲笑しながら何か、言おうとしたが、ドレイクが話し出したので、口をつぐんだ仕草を、ゼットだけが見てとっていた。

「ガラリア・ニャムヒー。」

「ハッ、お館様。」

「我が民人を殺された。これへの示し、わしが忘るるとでも、思うてか。あの宵、わしは宣言したであろう。ロムンの命運は、あれで尽きたのだ。バーンを行かせるのは、この大目標が為の、策である。よいな。」

青いガラリアは、極めて静かな口調でこう言ったドレイクに、ホッ、と安堵し、猛っていた表情をすぐ、和らげて、頬を恥じらいで染めた。その感情=表情の豹変は、まったくもって、幼い少女だ。ピンク色の制服に身を包む彼女は、激情の波に漂う、小船か、木の葉か。両足の谷間の剣で、そう感じているのは、バーンとゼットの2人。

続けてドレイク・ルフトは、騎士団長バーン・バニングスに、明朝、騎馬隊でギブンの館に向かうように、ミズル・ズロムには、後方より、気付かれぬよう、ブル・ベガーで陣を敷けと命令した。聞いたガラリアは、

(そうか、馬で行くバーンは、囮で、ミズル殿のオーラ・シップが攻撃を!さすがだ、お館様!)

と、単純な喜びを隠さない顔になった。本人には、隠す・隠さないの自覚は、まるでないのだが。

すると、ずっと黙っていた、すまし顔のショット・ウェポンが、ガラリアにとって、非常に意外な事を言い出した。

「バーン殿。あなたの騎馬隊に、聖戦士トッド・ギネス殿をお連れ願いたい。」

「なんのためです?!」

と、同時に言ってしまった、青い髪の男女。そして、それを恥じ、お互いの顔を見、

(なんで同時に言うのだ、おまえは!)

と、ガンをとばし合う男女。それに感じる、ジェラシーを、ひた隠す男の名は、ゼット・ライト。くぼんだまぶたを、更にくぼませている。

バーンが、先に口を出そうとする、ガラリアに負けまいと、

「ショット様、聖戦士などは、所詮は、傭兵。政治的駆け引きの場になど、同行は必要ないと思われますが、いかに?」

畳み掛けてガラリアが、

「ショット・ウェポン殿!トッド・ギネスなど、軽佻浮薄、且つ、戦意を著しく欠く者。もしも聖戦士をと、言われるならば、私は、ショウ・ザマ殿を推挙いたす!」

おや、副団長ガラリア・ニャムヒーは、トッドを随分、お嫌いで、若輩のショウを、ことほど左様にお気に入りらしいな、と、思ったのは、第1会議室にいる全員である。ショットは、とくとくと説明した。

「ならば両名を。バーン殿、現在、地上界では、長年に渡り、大規模な戦争は起こっておりません。これを冷戦と呼んでいます。そのような世界にいた地上人には、我らが戦況、いかに予断を許さぬか、わからぬのも、仕方なきこと。ならば目下の敵に、直に会わせ…しかる後、あなたが、ドレイク様の策を成功させて見せますれば、そう、ガラリア殿の言われる、戦意に欠く者にも、否応なく、聖戦士たる自覚を促せるかと。このように考えるのですが、いかがですかな。」

バーンとガラリア、そしてミズルは、ショットのこの説明で、合点がゆき、聖戦士を2人とも、ギブンの館へ連れて行く案に同意した。

 ゼット・ライトだけが、金髪碧眼の、自称アメリカ人を、疑念の目で見ていた。

(ショットめ、何を考えている?…お前は、いったい、何の目的で、どうやって、バイストン・ウェルにやって来たんだ?俺が、愚直なふりをしているのはな、ショット。お前の、真の目的を、見定めるためだ!せいぜい油断してるがいいさ、この白豪主義者め!)

 

 

 トッド・ギネスと、ショウ・ザマは、あるじ不在の機械の館で、自分用ダンバインの整備を、させられていた。工兵と同じ、灰色のツナギを着用し、顔をすすだらけにしている。

作業しながらショウは、さかんに、トッドに話しかけていた。

「なあ、トッド。ダーナ・オシーの、マ…マーベルっていうアメリカ人がさ、俺に向かってさ、原爆は、ソ連を抑制するために、仕方がなかったって言ったんだよ。どうなんだよ。アメリカ人って、みんなそういう意見?」

マサチューセッツ州出身のトッド・ギネスは、東京出身者の問いに、丁寧に、答えてやっている。

「そんなことはないッ!すまん、ジャップ。いや、ショウ。そいつ、相当な田舎もんだよ。何州だろ?あのなァ、アメリカは、州によって、教育程度が、かなり違っててな。ド田舎に行くと、第二次世界大戦が、あったって事実すら、知らない奴がゴロゴロいたりするんだよ。いやすまん。原爆のことを、そんな風に、ヌケヌケと言う女なんざ、単なるパー。俺、同国人として、恥ずかしいったらねえぜ。」

「そうか。それ聞いて、少し安心した。トッド、俺、あんた見直した。」

18歳のショウ・ザマは、屈託なく笑い、プラチナ・ブロンドのトッドは、

「俺の方こそ、すまん。その、マーベルの事といい、おとといの戦闘で、助けてやれなかったことも、本当にすまんと思ってる。」

「マーブ…マーベルのことは、トッドのせいじゃないよ。そっちこそ、気にするなよ。俺だってさ、初戦闘で、なにがなんだか、わかんなかったし。」

ダンバイン整備場で、ほがらかに話していた2人へ、全く足音を立てずに、接近してきた、薄茶色の軍装、下級兵が1人。

 ショウは、伏臥させたダンバインの真下に寝転んでいて、自分の顔の、わきに立った軍靴を見るなり、

(また、あいつだ!)

あわてて逃げようとして、ダンバインの装甲に、もろに頭をぶつけてしまった。

「痛てぇッ!」

並べた、別カラー・ダンバインの下にいた、トッド・ギネスが、

「どうしたショウ?大丈夫か。」

と言うより早く、セザル・ズロムは、もうショウのいるダンバイン下にもぐりこみ、

「ショウ君、ショウ君。どこを打ったのさ、ここ?ほうら、痛くない、痛くないさ。僕が、なでなでしてあげるさ。」

逃げ場の無い、寝転んだダンバインの真下、肩を掴まれ、頭をなでまわされて、ショウはもがいた。今日はノーヘルのセザルの、栗色の長髪が、重みを持ちサワサワと、ショウの首にからみつく。

「やめろッ、はなせよぉッ!」

「いやさ、いやさ。ショウ君、おでこ痛いの、治さなきゃ。あ、こぶになっちゃってるさ。かわいそうさ!」

言いながらセザルは、その長身を、狭い場所で器用にくねらせ、足で足を組み伏せて、逃げようとするショウを離さない。

座間君は、こいつ、ふざけるのもいいかげんにしろ、と思い、金髪の隣人に救助を求めた。

「トッド、こいつ、なんとかしてくれよ!」

既に、ダンバイン下の、男2人の様子を、覗き込んでいたトッド・ギネスは(彼はこの時点で、セザルの一挙手一投足に注視させられていたが、まずは、)子供を叱り付ける言い方で、

「おい、おまえ。そんな場所で遊ぶんじゃないよ。こちとら仕事中なんだ。ほら、とっとと出ろ!」

23歳のおにいさんに、<いかにも>叱られました、という顔でセザルは、トッドの足元から、<すごすごと>はいずり出てきて、ショウ・ザマは、反対側からようやく逃げ出す事が出来た。

ダンバインの向こうで、ショウは、おでこに手を当てたり、ツナギのすすをぱんぱん叩いたり、セザルに触れられた部分が、かゆいような、こそばゆいような、妙な感覚を振り払おうとして、

(あれ?額の、打った所が…けっこう、きつく打ったと思ったのに、そんなに痛くなくなってる。)

と、気が付いたが、すぐ忘れた。

 トッドの目前に立ったセザルは、いつもの、ウヒャウヒャ笑いで、

「すみません、聖戦士どの。ちょっと、ふざけちゃったさ。あは!」

とだけ言い、去ろうとして、背中でトッドの声を聞き、

「おまえ…」

ひた、と立ち止まった。

「確か、名前は Caeserだったな。」

金髪の地上人のその声は、セザルにだけ聞こえるように、気を使った声量であると、セザルにだけ、わかった。セザルは、振り返らず、トッドにだけ聞こえる声で

「あ、はい。Cesarです。」

「Caeser、おまえ…あんまり無茶すんなよ。」

背中を向けた、栗色の長髪は、毛先まで一本も微動だにせず、かっきり2秒間、動作を止めた。そして、髪の束がひるがえり、顔がこちらを向いた。その顔は、いつもの子供っぽい笑顔。にこ、と笑った、その刹那。セザルの、濃い青い瞳は、トッドの、淡い青い瞳を、瞬間、韃靼人の矢が如く、射ぬいた。

と同時に、きびすを返し、セザルは、やけにゆっくりと、去っていった。トッドがもう、自分の方を見ていない事を知っていたが、後ろ姿のセザルは、髪の毛だけが、天然の風にたなびいて、背筋は、まだ、緊張を保ったままだった。

今、この2人の男は、たったこれだけのやり取りで、お互いが「ただ者ではない」事を、理解した。

トッドはセザルを、

(あんまり、お友達には、なりたくないタイプ!だが、兵隊としては、この軍で一番上等な男だ。それがなぜ、下級兵の位に甘んじているのか…?)

と思い、

セザルはトッドを、

(…あの人は、敵に回すべきじゃない。)

と、この時、悟った…栗色の髪の騎士は、後年、そう語った。

 

※韃靼人(だったんじん):16世紀、現・モンゴル周辺一帯を制覇した騎馬民族。「韃靼人の矢が如く」とは、彼らの騎馬より放たれる弓矢の、速さ、的を射る正確さ、一撃でもって瞬殺する強力さを表す慣用句。

 

 

 翌朝、ラース・ワウ正門。ガラリアは、ギブンの館へ出立しようとする、バーンの騎馬隊を、ユリアと供に見送りに来ていた。のではない。自分が行きたいのに、置いてきぼりにするなと、バーンに言いに来たのを、ユリアがなだめていたのだった。

黄緑色の髪、漆黒の瞳のユリアは、行く気満々で軍服を着込んでいるガラリアを、屈託ない笑顔のまま、いさめている。

「ガラリアさまってば。そんなに、お行きになりたいんでしたら、昨日の軍議で主張なされば、宜しかったのに。」

にこにこしながら言うユリアと好対照、青い眉を三角にして興奮し、甲冑の肩あてが、ガチャガチャ鳴るほどに、上半身を振り回しながら、ガラリアは、

「昨日は、お館様が、お優しげだったから、言うのを忘れたのだっ!いや、ショットが、地上のれいせんがどうのと、ごたくを並べたから、言いそびれたのだっ!私が行かねばなんとする。ユリア、名無しのハンカチのかたき、マーベルの顔を、この目で見、しかる後、仇討ちいたす!なんでこの役がバーンなのだ。いくら原作はそうだからと言って、この小説は私が主人公だ!筆者は、何を考えておるのだ。重要イベントの場に主人公がおらずに、何がオリジナリティー重視であるかぁっ」

ミズルさん、お願いします。発進準備中のブル・ベガーから、紫色の服、ミズル・ズロムが駆け下りて来て、一喝。

「ガラリア。原作とか、オリジナリティーとか、そういう軽挙な言動は、かぎかっこ内では、つつしむようにと、何度も言っておるだろう。あいや、わかった。それがしの一存で、ガラリア、そなたも同行するを、許可する。」

と、いうわけで、ガラリア・ニャムヒーは乗馬で、バーンの騎馬隊に随行し、ショウ・ザマは、ホンダダに乗り、ガラリアが脇に寄り添った。ただ、トッドは、

「俺ァ、乗馬はいまいち。ミズル艦長とご一緒させてもらって、艦で待機する。ガラリアさん、後ろから見守ってんからさ、前線は、宜しくな。ショウ、ガラリアさんの言う事、よく聞くんだぜ、いいな。」

バーン・バニングスは、自分が言いたいセリフ「見守ってる」を、トッドに奪われ、ショウ・ザマのお守り役を、ガラリアに奪われ、

(遠足か。お弁当持って、遠足か。原作では、わたしが一番かっこいい回だったはずなのに…)

まるかっこ内で、愚痴をこぼしていた。

 

 

 ギブン家へは、本日訪問すると、書状で連絡済みである。騎馬隊一行は、イヌチャン・マウンテンの尾根づたいに、わだちのある馬車道を進んだ。この道は、2年前に、シルキー・マウを捕獲するため、侵攻したのと同じ道である。ガラリアは、ホンダダのショウと、ずっとお喋りながら、馬を歩ませていた。

「だからね、ガラリアさん。ホンダダじゃなくて、ホンダ。」

「ほ、ほんだ。」

「そう、本田宗一郎さんが作った会社だから、ホンダっていうの。それで、このバイクは、アスペンケード。」

「あ、アルペンガイド。」

「いや、アスペンケード。」

「あすぺ…言いにくい名称であるなあ。ホンダダはホンダダで、よいではないか。」

「だめ。本田さんは、本田さんって呼ばなきゃ、失礼だよ。本田宗一郎さんは、立派な人だから、俺、尊敬してるんだ。本田宗一郎さんはね、静岡県生まれでね。」

自分の後ろで、本田宗一郎談義に花を咲かせている男女を、無視するフリで耳ダンボなバーンは、山岳地帯を抜け、平野が開けた所に至ると、

「よし、休憩。ここらで、昼食にするとしよう。(ホントに遠足だな…)」

引率者の指示に従い、ガラリアとショウは、一本の樹木の下に尻をついた。ガラリアは、持参した竹かごのランチバッグを取り出した。

二人が並んで座っている大木の、太い幹の反対側に、バーン・バニングスは、独り、背中を向け、座った。ガラリアとショウを、べったりさせたくないのだが、かといって、隣りに座り込むまでは、出来ない。木の幹にもたれ、バーンは、召使いに作らせたサンドイッチを、正しく、砂(サンド)を噛む思いで、ひとくち、噛んだ、その時。ショウ・ザマの大声が。

「ええー、これぜんぶ、ガラリアさんが作ったの?!」

バーンは、口にしていた、砂イッチを、ぽろんと地面に落とした。

「そうだ。絶対、ギブンの館に行くつもりで、今朝は5時に起きた。私の召使いもまだ、厨房に出てきていない時刻であるからな、自分で作ってきたのだ。ショウ殿の分もある。味の保証はせぬが、さあ、召し上がるがよい。」

「あ、ありがとう、ガラリアさん!俺、お袋にだって、お弁当、作ってもらったことなくて…うあ、うまい!この卵焼き、甘くて、すっごくおいしいよ。これなに?あっすげー、ホットサンドだ。サンドイッチじゃなくって、ちゃんと両面焼いてある、すげーや。」

はぐはぐと、食べるショウに、自分もホットサンドを食べながら、ガラリアは、

「別に、すごくはない。具を挟んで、オリーブオイルを香り付けにして、フライパンであぶっただけだ。簡単だ。」

「ううん、すごい、美味しいよ、ガラリアさん!パンの間で、ハムに、チーズが溶けてて、きゅうりもしなっとしてて、味付けも丁度良くて。俺、こんな美味いホットサンド、初めて食べたよ!」

「飲み物はいかがか、ショウ殿。水筒に、りんご紅茶を入れてきた。さあ、杯を取られよ。」

「あ、ガラリアさん、そんな、注いでくれなくても…あぁ、ありがとう…あー、これも、うめー!マジうめー!酸味と甘味がほどよくブレンドされて、喉ごしさわやかだね!のど、カラカラだったから、この甘味が、ホントいい。」

「そうか。よかった。適当に、紅玉りんごを煮出した湯で、アール・グレイを入れて、れんげの蜂蜜と、あと、あんずジャムを一さじ入れてみただけだが。お気に召して、幸いだ。」


…バーン・バニングスは…

(いつからこの小説は「美味しんぼ」になったのだ!お前ら、東西新聞社の者か!
…いや、だって…ガ、ガラリアの手料理なぞ、わたしは、ただの一度も…いいや、女性が、手ずから作ってくれた料理なぞ、母上にしか…ガラリアの手料理が、かくも美味いものだと、今まで知らず、もらえず、くださいなどと、口が裂けても言えるわけがなく…

…うぅ…く、悔しい!なぜだ。ガラリア、なぜ、ショウ・ザマなどに、弁当を作ってやるのだ!わたしは、あぁ、わたしは…わたしは食べたい!わたしはガラリアに紅茶を注いでもらいたい!わたしは副主人公だったはずだー!)

木の幹の陰で、膝を両手で抱え、うなだれているバーンを見つけたショウ・ザマが、まるで無邪気に、

「バーンさん?どしたの。あ、もしかしてガラリアさんのお弁当、食べたいの?ね、ガラリアさん、バーンさんにもこれ、あげていい?」

ガラリアが口を、ホットサンドから離すより早く

「いらぬわ!そのようなもの!」

怒鳴ってバーンは立ち去ってしまった。彼のいた場所には、ひとくちだけ噛んだ、サンドイッチが、砂に汚れて残された。

 ガラリアはと言うと、お弁当は、自分用に作る分量を、ついでに多めに作っただけで、たまたまショウと同行するハメになったので、礼儀として「どうぞ」と差し出しただけだった。自分は料理が得意だとも思っておらず、料理が好きなわけでもない。ホントーにテキトーに作ったものが、なぜだか好評を得るという、どこかの筆者のような女であった。だが。

(ショウ・ザマは、おいしいおいしいと言って食べてくれたものを、バーンは!あんな、言い方しなくとも…ひどい。そんなに、そんなに、私の事を…私が作った料理など、汚いものだと思っているのだ!…それほどまでに、彼は、私を嫌いなのだ!)

感情がすぐ顔に出るのが、ガラリアである。赤い唇をぶるぶる震わせ、垂れ目を潤ませたガラリアが、ひどくショックを受けたと、すぐわかったショウ・ザマが(誰でもわかるのだが)、

「き、気にすることないよ、ガラリアさん。バーンさんは、きっと、会談の事を考えて、イライラしてるんだよ。ね、俺でよかったら、お弁当、もっといただくからさ。」

遠くへ、部下の警備隊兵士の方へ、立ち去ったバーンを見つめたまま、食が進まなくなってしまったガラリアを、傍らで見つめるショウ・ザマも、この時、ひどくショックを受けたのだった。

(そっか。ガラリアさんは、バーンさんが、好きなんだ…なんだ、そっか…
…美人で、仕事に厳しいのに、人には優しくて…戦った時には、俺のこと、すごく誉めてくれて。今日は、俺のために、お弁当まで、作ってくれたと思って…

 おれ、勘違いしてたんだな。

…好きに、なりかけてたんだ。ガラリアさんのこと…おれ…)

ショウの黒い瞳も、涙で、潤んだ。

 

 

 ギブンの館。白壁に群青色の瓦屋根の、流麗な屋敷である。この城の中、奥つまった一部屋が、マーベル・フローズンの個室であった。彼女の部屋は、外から見られないよう、ガラス窓は、表面が鏡になっており、出入り口の鍵は、マーベル自身と、館の若旦那様、ニー・ギブンだけが保持していた。

 真昼間であるのに、今、この部屋は、カーテンが閉められ、ドアは、内側から鍵がかけられ、個室のぬしは、全裸で、ベッドの中にいた。若旦那様と供に。

「ねえ、ニー。今日来る、ドレイクの使者は、騎士団長のバーン・バニングス、だけ?」

言いながらマーベルは、うつ伏せに寝ている、ニー・ギブンの裸体、背筋に、肩に、濡れた唇をあてがい、チュ、チュ、と音をたてて吸い、

「よせよ、もう。」

と言う彼が、好きだと知っている体の部分、首筋、耳の付け根をチュウチュウ吸い、同時に、自分の乳首を、彼のひんやりした背中に押し付けて、

「ぁあ…ねえ、ニー。あたしが話した、ルフトの聖戦士。まだ子供なの。まるで何も知らない、男の子。こんなことも…」

今朝から、既に3回、マーベルの腹上でイッた、若旦那さまの剣を、19歳のアメリカ女は、手指でもてあそび、またニーの剣が、性懲りも無く、硬くなっていくので、亜麻色の長髪を、もう振り乱し、息を荒くして、マーベルは、

「はぁあ…ニー!あたし、あの子をギブン家のものにしたいわ。あと1人、アメリカ人もいるんですって。その人も、ギブン家のものに。あなたのためによ、ニー!」

うつ伏せだったニーは、もう、仰向けになっており、もう、マーベルは、彼の上にまたがって、もう、彼の剣を、自分で、自分の中に、差し込んで、

「アア、ああッ!いい、いいでしょ、ニー、あなたのものに、するの、あたしが…しても、いい?アァッ、いいわ、ニー!」

馴染んだ女の体が、騎乗位で、上下に振動しているのを、下から見上げて、口元をにやつかせたニーは、自分の腰も上下させ、乱れる彼女を、なお突き上げ感じさせて、

「そいつらの上に、乗るのか。こんな風に?マーベル、君は本当に、俺にとって、なくてはならない人だよ!」

ギブンの聖戦士の、こういう時の声が、けして外へもれないように、この部屋は、防音壁で厳重に囲まれているのだった。

 マーベルとニーは、本日4回目のイクを済ませ、軽くシャワーをあび、そそくさと着替えをしていた。まだ、甘い声で、女の方が、

「…バーンには、ダメなのよね?あたしを…そういう使い方はしたくないの。あなたは。どうしてよ?」

どうしてなのか、充分わかっているくせに、マーベルは意地悪く尋ねた。愛人の口から、それを言わせたくて。イッた後に、そういう話題を振られると、男はイライラするものだ。それすら、わかっていて、マーベル・フローズンは、ニー・ギブンに返答を要求した。

 ムス、として、ニー・ギブンは、洋服の襟を正し、あさっての方向に目をやり、

「バーン・バニングスには、金を積む。そういう手はずだ。」

「そう。でも、バーンが、お金で動かなかったら?」

「いい加減にしないか!」

ギブンの若旦那様は、マーベルの部屋の鍵を、ポケットに突っ込み、乱暴にドアを閉めて、出て行ってしまった。そんな彼を、もう見るのはやめて、亜麻色の髪にブラシをかけながら、女は、鏡を、自分の美貌を見ていた。そして、彼女は、<バーン・バニングスのために>念入りな化粧を始めた。

「ふふ、ニーったら。あたしが、ダーナ・オシーで、バーンのドラムロと剣を交えて帰った時…装甲を通して聞こえた、彼の声の、野太く澄んでいたこと…男の色気が匂うような、あの声に…あたしが、しびれてしまった、ルフトの騎士団長、バーン・バニングスは、アの国一の美男子だと評判ですもの、どれほどの器量の男かしらって、言ってやったら、ニーったら!ふふふっ、楽しみだわ。これから、そのバーンに会えるんですもの!」

 

 

 ギブン家の居間には、バーン・バニングスと、護衛のための警備隊兵士数名だけが、通された。そこには、当主ロムン・ギブンが1人、迎え出て、敵方の騎士団長に、紅茶を勧めた。ロムンの家臣は、居間に入らず、周辺の廊下に散らばり、敵の訪問団を監視していた。

 ガラリアはというと、別の、控えの間に、ショウと供に残るよう、年若い家臣に言われ、彼はドアを閉めて出て行った。(彼の名は、ドワ・グロウ。)

「バーンだけ通して、我らが控えの間とは。ショウ殿、あんな若造の言いなりになる事はない。鍵はかかってないようだ。出て行って、見て参ろうではないか。」

彼女にこう言われて、ショウ・ザマが思ったことは。

(さっきの男の人、俺よりだいぶ、年上じゃないか。20代ぐらいの…それを、ガラリアさんは、若造って言うんだな。てことは、ガラリアさんから見たら、俺なんて…3つも年下で、童貞で…全然、そういう目では、見てくれないんだ…)

ショウのそんな傷心に、まるで気付いていないガラリアは、彼の手をぐいっと掴み、さあ行こう、と言う。彼女に手を握られたショウは、カァッと赤くなり、

(ああ、やめてよ!俺、今、貴女にそんな事されたら、おかしくなりそうなんだ!)

でも、熱い手を振りほどけない。ショウは引っ張られて、廊下に出た。そこには、キーン・キッスと、飛んでるチャム・ファウが。

 キーンは、ドアを堂々と開け、出てきた、青い髪の女戦士を見るなり、ビクつきながらも、気丈に、

「か、勝手に出ないで下さい、ガラリア殿。あなた方は、控えの間にいてもらうよう、あたしはニーに言いつかっているんですッ」

チャムは飛び回り、キーンの口真似をする。

「そうよそうよ、ニーがここにいさせろって言ったもん!」

子供と、ミ・フェラリオなど、ドレイク軍副団長、ガラリアの敵ではない。

「どけいッ。私は、聖戦士殿をお連れし参った派遣団の代表である。ロムン・ギブン殿のおわす部屋に通すがよい。その方たち、客人に対する礼節もないのか!」

こう言ったガラリアは、もうショウの手を離していた。ショウは、

(あぁッ、ガラリアさんに触れられた所が…熱い。熱い!)

そして彼女の、毅然とした態度、高らかに響くソプラノに、ショウは改めて魅了された。

(だめだ、俺は、やっぱり、好きだ。好きなんだ。ガラリアさん、貴女が…)

ガラリアはバーンを好きである、と知ったからこそ、募ってしまった自分の気持ちに、戸惑い、触れられた手首から股間へと、男の情熱が充血するのを、ショウは感じた。

 そこへ。かつかつと靴音を鳴らして、表れたのは。ニー・ギブンであった。若旦那様は、いたってにこやかに、顔なじみのガラリアに会釈し、

「失礼した、ガラリア・ニャムヒー殿。そうですね、あなたの仰る通り…おや、そちらは?」

逸早く答えたのは、チャムである。

「ニー、こいつ、地上人!あたしが、ラース・ワウで会ったやつ。」

自分が皆に注視された。ショウは、ガラリアの随行として、恥にならないようにしなきゃ、彼女に、俺の態度を、立派だと思ってもらいたい、という一心で、戸惑いを振り払い、敵方のリーダーとおぼしき青年に挨拶した。

「お、俺は、ショウ・ザマ。日本人、いや地上人だ。ガラリアさんのお供で、お邪魔してる。ガ、ガラリアさんの言う通り、俺たちも、ちゃんと、会談の席に入らせてもらいたい。」

一生懸命、理路整然と言ったつもりだが、緊張のあまり目線が泳いでいる少年を一瞥し、ニーは、鼻で笑いたくなるのを、こらえた。

(なるほど。マーベルの言う通り、まるで、おぼこい子供だな。)

思いながら、ニーは、ガラリアとショウを、居間へと招き入れた。

先にドアを開け、うやうやしく「どうぞ」と頭を下げるニー・ギブンに、「うむ」と言い、部屋に入って、ガラリアが見たものは。


 女だ。


ひとめで、ガラリアはわかった。その女は、テーブルで対座する、白髪の紳士(これがロムン・ギブンだという事もすぐわかった、だがそんな事より)と、バーンとの間に、紅茶ポットを手にした女が…

召使い女ではない。浅黄色の、肌の露出の多いパンツスーツを着こなし、亜麻色の長髪のつややかさを、自慢げに肩から胸元に垂らし、袖なしの二の腕を、むちむちと見せびらかし、紅茶を、バーンに、

 私のバーンに、

注いでやる素振りをしながら、その女は、量の多い睫毛に、マスカラをたっぷりつけ、口紅は濡れて光る真珠色を、たっぷり塗り…美貌に自信のある女が、更に化粧をほどこしていること、紅茶を注ぎながら、男に色気を振りまいていること、バーン・バニングスに対して、その女が、しなを作り、秋波を送っていること!

そして、

その女が、マーベル・フローズンであることが!

恋する女である、ガラリア・ニャムヒーには、ひとめで全てが、わかったのだ!

(あの女ぁッ…マーベル!マーベルめ、私のバーンに、なんたる!なんたる!)

 


<次回予告>

BGM ♪ちゃらららっ ちゃらららららっ

やっほぅ、セザル・ズロムでーす。
今回のサブタイ、ギブンの館、ってさ、原作の第2話とおんなじだからさ、
別のタイトルにしよーかとも、思ったんだけどさ、
やっぱ、この小説を購読してくれてる読者さんて、
原作「聖戦士ダンバイン」見てる人なんだよね。
プラース、新規の読者さんも、入りやすいようにってことでぇ、
原作の第何話に相当するかってのが、わかりやすい方がいいかなって思って、
まー、あと、正直思いつかなかったんでー、こうしてみたさ。

さぁて、次回の月下の花は。

ついに、ガラリア嬢とマーベル嬢、直接対決!
童貞ショウ君は、かぁーいそーに、ガラリア嬢を好きになっちゃってさ、
一方、ニーと出来ちゃってるマーベル嬢は、
フツーに面食いなんだろうね?なんとバーンに夢中ときたさ。
これ、何角関係なんだっつー状態だねー。どうなるんだろねー?

まー、僕に言わせたら、全員が全員と、とっととやっちゃって、
ビバヒル状態になればいいじゃん、なんだけどさ、
1人、どうしょうもなく真性童貞が混ざってるからさ、いくら声が同じでも、
月下の花は、ビバヒル状態には、ならないんだなーこれがー。

え?ビバヒル状態ってなんだって?

中原茂さんが、吹き替え出演されていた、
米国製TV映画「ビバリーヒルズ青春白書」な状態を指す言葉さ!
続きものでさ、1回でも見逃すと、
もうカップリングが変わっちゃってて、話しが読めなくなるほど、
全員が全員とやっちゃうお話しさ。なんつって、筆者はさ、
あまりの展開の早さに、ついて行けなくなって、途中で見るのやめちゃって、
熱狂的中原茂マニアの友達に「非国民」呼ばわりされたのさ。
まー、そんなこともあったさって話しー。

じゃっ、またねぃ。

 

2005年5月8日