ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第66章 トッド・ギネスの告白

ラース・ワウに帰還して3日目の夜。ピンク色の普段着を着こんだガラリア・ニャムヒーは、ウキウキして、お城の西隅、客間が並んでいる西棟へ行くために、庭を歩んでいた。4階建ての4階の、はじっこの客間が、機械の館を失ったゼット・ライトの、仮宿(かりやど)だ。

そこで、はじめて、ゼット・ライトに抱かれたのが、おとといの夜だった。今夜は、彼に抱かれるのは、2度め…!昨夜は、彼が忙しくて、独り寝で過ごさなければならなかった。それだけでガラリアは、ビヤ樽がひっくりかえって、ドクドクと、なかみの酒が流れ出るほどに、涙と、愛液とを、流し出した。ガラリアは自分の部屋で、独りで寝る苦しみに、悲鳴をあげて、オナニーに狂ったのだ。

「いやーっ!ゼット、抱いて、抱いて、抱いてっ!私を、独りにしないでっ!」

昨夜は、苦しんだ。でも大丈夫、今夜は、抱いてもらえるのだ。21歳の肉体は、さらなる快感への期待に充満し、歩くお尻が、ふりふり、おどっていた。

私が先に寝室を用意するのだ。そこへゼットは、やって来るのだ。待つのだ。お風呂を入れておいて、ベッドを整えて…そうして、夜のお化粧をする。今夜も、おとといの夜みたいに、ゼットは、私の体を…!

私から誘ったのだ、一夜妻にしてくれと。だけど、だめ。ああ、あんなに気持ちのいいことを、どうして、たった一夜で、やめることなど、できただろう?

「ゼット・ライト、あの褐色の肌に、今夜も、私は抱かれる。妻のいる、あのひとに…。うしろめたさを、私は感じている。でも、だめ、もう、だめ。だって、私は知ってしまったのだ。あの、めくるめく快感を…!」

暗い庭を選んで、ガラリアは、それとなく、客間へ向かう自分を見られないように、歩いていた。そこへ、まったく慮外の人物が、顔を出した。ガラリアが着ている服と同じデザインだが、色がちがう、黄色い制服を着た人物が、前方からこちらへ、やって来る。黄色い制服を着ることのできる、城内でただ1人の人物、それは、客分の聖戦士、トッド・ギネスである。彼の頭髪も、黄色だった。夜陰に、プラチナ・ブロンドは、光沢なく、沈んで見えた。

「ガラリアか?そこにいるのは。トッド・ギネス、ただいま参上。ひとつ話しがあるんだ。聞いてくれよ。」

まったくとんとん拍子に、まったく屈託なく、立ち話しをはじめたトッド。

「なんだ、トッド?」

すっかり夜はふけており、明かりの届かないその庭は、真っ暗だった。紅色の、つつじの花が、庭木に咲き乱れているのがわかる。蜜のにおいが、たちこめている。

草花の香りよりも、目の前にいる女の香りで、むせかえっているトッド・ギネスは、ふだんどおり、陽気にふるまおうとしたが、発すべき言葉の重さに、身構えてしまい、表情がこわばった。だが、彼の表情の変化は、庭が暗すぎて、ガラリアには見えなかった。

だから、ガラリアは、職業上の相棒が、ふだんしゃべっているのと同じ声音で、その言葉を、耳にしたのだった。

「ガラリア、俺はおまえに、正式に婚約を申し込みたい。おまえの後見人は、養父のミズル・ズロム閣下だと聞いた。俺は今から、キロン城に飛び、ミズル閣下にお会いして、婚約を申し出てくる。」

その刹那、電気が、サーチライトがひとすじ、ガラリアとトッド・ギネスのいる場所を、照らした。瞬間、こうこうと照らされた庭に、意外なものを発見したのは、トッド・ギネスのほうだった。婚約を申し込みたいという、男、一世一代の告白を受けたガラリア・ニャムヒーは、

暗いから、自分の顔は相手に見えないと、タカをくくっていたのだった。彼女は、驚きもせず、困惑もせず、照れもせず、

馬鹿にしたように、くすり、と口元だけで、笑っていたのだ。

プラチナ・ブロンドの男性は、ひじょうに勘のいいひとだったので、女の不遜な笑みを、見るやいなや、すべてを見抜いてしまった。

「なにが、おかしいんだ…。そうか、ガラリア、おまえは…、知ってたなッ!俺の気持ちに、気がついていたんだ。そうだな!」

トッドは、かつてこんなにも、女にたいして、怒りをぶつけたことが、なかった。

しまった、と、ガラリアは、失敗したと、それだけを悔やんだ。彼女は、トッドの告白を受けて、自分の性的魅力に、ますます自信を感じ、ふふふ、この男も、私に夢中なのだと、高慢な薄笑いをもらしたのだった。そこへたまたま、明かりがさしたのだ。

男の悲しみが、暴発した。

「おまえは、とうに、気がついていたんだ。俺の、俺のおまえへの、真剣な気持ちを…知ってて!それなのに、あの野郎と…!おかしいかよ。そんなに俺は、滑稽かよ!お、おおお!」

トッド・ギネスは、咆吼した。文字通り、「おおお!」と叫んだ。彼の時間は、停止した。人生には、たとえようのない悲しみが起こりえることを、彼はこのとき、肌身で知った。耳はつんざき、いっさいの音は、聞えなくなった。鼻孔が、つんと痛んだ。涙腺と鼻孔が、涙で、つながった。瞳から、鼻の穴から、ぐしゃぐしゃに液体をほとばしらせて、男は、初恋の女性に告白したのに、嘲笑された、彼女の目の前で、泣きじゃくった。うわあ、うわあ、と、声を上げて、泣いた。

泣いたり、叫んだりしたら、みっともないと、自制がきくような悲しみは、本当の悲しみではないのだ。本当に悲しいとき、人は、他者との対話の中ではなくて、自己との対話の中に、その原因を見つけるからだ。トッド・ギネスの場合、彼は、人生ではじめて、心から愛する女に、出会えた喜びを知り、そして、その女に、純愛を踏みにじられる悲しみに、自分の心の中で出会ったのだった。

雄牛の吠えるような、ぐおう、ぐおう、という嗚咽をもらし、地面を向いて涙を落としたかと思うと、天をふりあおいで、神を呪った。両手の握りこぶしを、ぶるぶる震わせた。こぶしを見ていた。ガラリア・ニャムヒーの、とぼけた顔面を、殴りつけたかった。厚いツラの骨が、砕けるように。

ガラリアはというと、厄介な出来事に、つかまってしまった、早く恋人の胸に逃げ込みたいと、そんなふうに感じており、言い訳をしようと考えた。

「あのな、トッド・ギネス。おまえが、なにを言っているのか、よくわからない。私の態度が、そんなに気にさわったのならば、謝る。私は、ただ、嬉しかっただけだよ、トッド。そんなふうに思ってもらったら、嬉しいよ。なにを、そのように、怒っているのだ?…だけど、いきなり婚約と言われても、私だって、困る。…すまぬ、今夜は、用事がある。私…もう、行くから…。すまぬな…。」

戦闘員の勘なのか、女の勘なのか、ガラリアは、トッド・ギネスに殴られる予感がしたので、そそくさと、逃げ出そうとした。正面で泣いている男の、右横にあった、つつじの植木を迂回して、西棟へ向かおうとしたら、こんどこそ、心臓が止まるほどガラリアは驚いた。男が、眼前に移動していて、両肩をわしづかみにされたからだ。

「待てよ…。行かせない…。」

男の人相は、すっかり変わってしまっていた。泣いていたのに今は、うすぼんやり、笑っている。トッドの、桃色だった頬は、蒼白になり、瞳からおつる涙は、ちっとも温かくなくて、氷がつたってゆくようだった。その変貌ぶりは、さながら、発狂した堕天使だ。すっかりおびえきっているガラリアの上半身を、逃がすまいと抱きしめた。ガラリアの脳裏は混乱し、身動きできなかったが、口答えは、できた。

「は、はなせ。トッド、私に触るな!」

トッドは、目を閉じて、自らの心の声に耳をすませた。殺したいほどに狂おしい、恋の相手を抱きしめて、彼女の乳房のかたちを肋骨に感じ、彼女の肌の香りを深くかぎ、ようやく、皮膚呼吸に熱を取り戻した。彼女の耳飾りに彼の唇が触れそうな近さで、息の熱気をお互いが感じていた。男は低い声で、しかしきっぱりと、

「はなすもんか。ガラリア、怒鳴って悪かったよ。俺の気持ちを、わかってくれてたんなら、話しが早い。嬉しいって、言ってくれたよな?ガラリア、ああ!頼む、俺と、付き合ってくれ。愛してくれとは、言わない!ただ、せめて…婚約してほしい。」

ガラリアの心臓も高鳴り、頭の奥が、ぼうっと熱くなった。婚約したいとトッドに告白されて、嬉しかったのは、本当であった。そんなにも、真剣だったのか。しかし、どうしたものだろう?彼に抱きしめられながら、彼女は、口に出しては言いにくい抗弁をこころみた。たどたどしい声が、もれ聞えた。

「だって、だって、トッド…私には、もう、お慕いする殿方が…。」

すると、断罪するようにトッドは言いきかせた。

「ゼット・ライトは、おまえを侮辱したんだぞ。おまえよりも、妻を愛してると言われたことを、忘れたのか。そんなやつと付き合って、自分の品格を下げるべきじゃない。第一、不倫の関係じゃないか!人の道にはずれるおこないだぞ。ダフィーの気持ちを考えてみろ。ダフィー・ホープ・ライト、やつのかみさんだ。俺たちバイストン・ウェルに落ちた人間は、警察が、失踪者として処理しているはずだ。家出したとか、誘拐されて殺されたとか、そういう扱いをされるんだぜ。愛する夫が、とつぜん行方知れずになって、ダフィーがどんなに悲しんでいると思う?そんな彼女をあざむき、彼女の夫を、おまえは奪っているんだぞ?」

これは、ガラリアの罪悪感をゆさぶり、トッド・ギネスに有利となる言い分であった。そして、なにより、正論であった。不倫と言われると…親友のユリア・オストークも、ガラリアに、同じ意味のことを言い、やんわりと釘をさしていた。ガラリアの耳は、その事実を理解することを拒否していたが、ガラリアの理性は、わかってはいた。ゼットと自分が、なにをしているかは…先のない、刹那的な色事に、浮遊しているだけの関係なのだと。

ガラリアの胸中がゆらぎはじめ、そこへ、トッド・ギネスの堅い決意が、口走った。もう躊躇しなかった。出来なかった。彼は、たぶんこれから一生涯、唱え続けるっであろう、その言葉を、このとき初めて、彼女に告げた。

「愛してるんだ。ガラリア、俺はおまえを、愛している!」

ところが、抱きしめられていた女の視線は、トッドの背中のうしろ、数メートルの位置に、やってきていた、別の男性の存在に、注視させられてしまった。それに気づいていないトッド・ギネスが、ガラリアの耳元に熱い息をはきかけながら、語り続けた。

「今から、俺といっしょに、ミズル閣下のおられる、キロン城に行こう。婚約のお許しをいただこう。…あの黒人野郎には、指一本、触れさせない。今までのことは、許してやる。だが、もう、ニガーと、仲良くするのは、許さない。」

つつじの花咲く庭に、ハスキーボイスが、響き渡った。

「…狂ってる。おい!トッド・ギネス。彼女から離れろ!」

ゼット・ライトは、学者だが、学生時代に、ラグビーで鍛えた、たくましい腕力を持っていた。ヒスパニック系とアフリカ系の混血ならではの、筋肉質な肉体を駆使し、トッドの腕を、むんずとつかんだ。自分の女にへばりついてる若造をひきはがし、顔面一発ぶん殴って、地面に投げつけた。すぐに立ち上がった白人男性は、黒人男性におどりかかった。

骨と肉をたたく、にぶい音。激しい殴り合いが、ラース・ワウの庭で勃発し、「ケンカだ、ケンカだ!」たちまち、野次馬が集まってきた。ガラリア・ニャムヒーは、早々に姿を消していた。

地上人の旦那同士で、殴り合いになってるってよ。なんで、ケンカになったんだい?女のとりあいらしいぜ?平民の下男どもが、そんな噂をとばし、現場に、セザル・ズロムが駆けつけたときには、もう手遅れだった。

トッド・ギネスとゼット・ライトは、2人とも、相当な怪我を負っており、それでもまだ、殴り合う手を、休めていなかった。金髪碧眼の若いほうは、美しかった顔面を、牡蠣貝のようなでこぼこにされ、血を吐きながら、大柄な黒人に、すがりついて、殴りつけていた。群衆をかきわけて出たセザルは、その光景を見て、ぞっとして、高い声で訴えた。

「やめてください!暴力は、だめさ!みんなも見物してないで、お2人を、とめるのさ、早く!」

セザルは、トッドを背中からつかみ、守備隊の兵士たちがわらわら手伝って、ゼットと引き離しにかかった。

「はなせよ、この野郎!セザル、はなせ。」

トッド・ギネスは、疲弊し、よろよろだった。対するゼット・ライトは、背筋をぴんとのばし、血の混ざったつばきを、地面にぺっとはき捨て、

「まだ、終わっちゃいねえぜ!」

啖呵をきり、拳でかまえを見せる。そこへ、バーン・バニングスがやって来て、

「これは、何事だ?!ええい、やめい、やめい。」

騎士団長の一喝で、兵士たちが、本格的にケンカを仲裁し、2人の負傷兵は、別々の部屋に、連れて行かれた。セザルは、トッド・ギネスにつきそって行った。

ゼット・ライトが、かつぎこまれた医務室に入り、バーン・バニングスが、脱脂綿を手わたしながら、語りかけた。

「いったい、どうしたのです、ゼット・ライト。ケンカなぞ、まったく、あなたらしくもない。技術者の、いちばん大事な腕に、そのように怪我をされて。」

バーンは、心配といらだちを隠さなかった。なぐさめるように、そして叱りつけるように、問いただした。ぜいぜい息をはき、ソファに横になった怪我人は、衛生兵数人による、手当てを受けながら、

「バーン殿、めんぼくない。戦時に、仲間うちで、ケンカ騒ぎなど、言語道断ですな。あいてて…。いや、なに、トッド・ギネスとね、口論になりまして…。あいつがね、差別用語を、使ったんですよ。おれのことを、肌が黒い人種を、侮蔑する言葉で、呼んだから。それだけです。カッとなって、殴ったのは、俺が先でした。」

自分の女に手を出されたのに、それでもゼット・ライトは、こんなふうに説明していた。

いっぽう、別室のトッド・ギネスは、血をはきながら、医者も衛生兵も、誰も俺のそばによるなと、わめきたてた。セザル・ズロムだけが、彼のベッドに座ることを許可され、セザルが薬草をぬりつけ、包帯を巻いた。

「ひっどいケガさ。歯は欠けちゃってるし、片目も陥没してる。顔じゅう、あざだらけさ。うわっ、肋骨も折れてるさ。トッド・ギネス、なんてことをしたんです!どんな理由があっても、暴力にうったえては、いけない!」

「あの黒んぼが、先に殴ってきやがったんだぜ。ふん、これでも、手加減してやったんだい。そうだ、こうしちゃいられない。キロン城に行かなければ。セザル、おまえの親父さんに会うんだ。婚約を、申し出に、行かなければ。」

セザル・ズロムがどんなに制止しても、無駄だった。負傷した聖戦士は、青いドラムロに乗りこんだ。セザルの最善策は、バラウに乗って、つきそって行くことだった。青いドラムロは、セザルのバラウにドッキングし、全速力で、飛んで行った。いっさんに、キロン城へと。

キロン城には、ミズル・ズロムがいる。かつて、ガラリアの父親と決闘したミズルが。ガラリアの母親を、そんなにまで、愛していたミズルが…。

 

2015年2月5日