第25章 ギブンの館、ショウの苦難
ガラリアは、ショウと連れ立って、中庭に出た。ロムン・ギブンが、しばし、ご自由にくつろがれよと言い、退室したからだ。バーンは、ギブンの館の正門前に整列させたままの、警備隊部下の所へ向かい、居間に随行していた他の部下らを、三々五々、散らせた。敵方の様子見のためである。そして、ガラリアについて行こうとするショウ・ザマに、バーンは、
「ショウ・ザマ。あれの見張りを、頼む。またケンカ騒ぎを起こされては、たまらぬからな。」
と言った。それを、ガラリアが聞いていたから、さあたいへん。
「あれは、マーベルが!」
カッとなって口が出たが、マーベルの、なにが気に入らなかったのか、バーンには言えないことに、言い出してから気がつくガラリアは、実に彼女らしい。
「マーベル殿が、どうしたと?」
「どうって…うぅ、あんな女に、どの、など付けずともよい!」
「瑣末(さまつ)なことに、こだわるな。ガラリア、それより、作戦を忘れるなよ。」
そう言って、騎士団長は、スタスタと正門の方へ行ってしまった。
2人のやり取りを見ていたショウは、この男女の、絆の深さが、身に染みた。バーンに、ガラリアが喰ってかかるのは、自分の方を、振り向いてほしいからだ。バーンが、ガラリアと、素っ気無く接しようとしているのは、作戦が大事な時に、心情をかき乱されたくないからだ。その上で、彼女を守ってくれと、
(俺に、頼むって言った。バーンさんって、器のでっかい人だな…ガラリアさんを、すごく大事にしてる…ガラリアさんは、気がついてないみたいだけど、俺には、わかってきた。だって俺も、彼女を。だから…)
中庭を歩く、青い髪の女と、黒髪の少年。上手い具合に、こいつらが2人きりでいる。女狐マーベル・フローズンは、キーン・キッスを引き連れ、しゃなりしゃなりと、歩み寄ってきた。ギブン家の女戦士2名の、作り笑顔が、余計にしゃくに障る。ガラリアは、やぶ睨みに、にらんだ。
白壁と白壁に囲まれた、長方形の中庭、中央には、レンガで囲んだ、細長い花壇があった。丹精し育てたとわかる、色とりどりのダリアが、そこに咲き乱れている。赤色や、黄色や、白や。マーベルは、ひときわ赤く、大輪のダリアを一輪、手折った。キーンは、黄色い小ぶりのダリアを、手にとった。2人は、花を持ち、顔を向け合い、また笑っている。
花壇をはさみ、こちらには、軍服のガラリアと、同じくドレイク軍の軍服の、ショウ。花々のあちらには、普段着をまとった、マーベルとキーン。4名は、なにも口に出さず。ガラリアは、押し黙り、敵方の女どもの出方を、待とうと思った。なにか話し掛けてきたなら、どう答えてやろう。口喧嘩ならば、してもよかろう。きゃつらがなにを言っても、私は言説の剣で、切り裂いてやる。と、ガラリアは、大激論に備え、虎視眈々としていたのだが、ところが。
キーン・キッスが、ゆっくり歩いて、花壇のこちら側に来た。ガラリアは、反射的に、
(彼女は、左利きだ。)
と、キーンの右わきに下がっている、さきほどの一尺刀を見た。と、ところが…
にっこり笑って、キーンは、ショウ・ザマに、
「聖戦士ショウどの。はい、これ。あたしの。受け取って。」
と言って、は、花を…黄色いダリアを、差し出したのだ!
「キィヤァア な、なにをするかぁッ!!」
ガラリアさんが、なんで怒鳴ったのか、わかんない。ショウは、敵方とは言え、小柄な、眉の太い女の子が、愛想よく、お花をくれただけじゃないかと思い、受け取ろうとした。紅茶なら、毒が入ってるかもしれないけど、これは、今、折ったばかりのお花だろ?
ガラリアは、
「受け取ってはならぬ!だめだ、ショウ殿、いやそれより、キーン・キッス!その方、いくつだ。なにを考えておるか!その方のお父上は、承知しておるのかッ!」
まったく意味がわかんないーん、ショウをはさんで、キーンはきっぱりと答えた。
「お花を渡すのに、お父様は関係ないわ。あたし、もう16よ。ね、ショウ・ザマどの。あたしの、初めてのお花、受け取ってくださるでしょう?」
青い髪のガラリアは、予想だにしなかった、敵の<攻撃>に、顔を真っ赤にして抗弁した。いやもう、わめき散らすだけっす。
「だめだっだめだっだめだっ!昼間っから、なんだこれは!そうか、おまえたち、ショウ殿を、たぶらかすつもりだな。この卑怯者ども!許さぬぞ、よくも、私の目の前で、ヌケヌケと!」
もうまったく意味がわかんないショウ。花壇の向こうに立つマーベルが、初めて口を開いた。彼女の手には、真っ赤なダリアが一輪、揺れている。
「卑怯って言うけど、ガラリアさん。これは個人的なことだわ。決めるのは、キーンと、ショウさんよ。あなたが、許すも許さないも、ないんじゃなくって?それとも、ショウさんは、あなたのものだってこと?それなら、わかるけど。」
自分をめぐって、女たちが言い争いを始めた。ショウは、
「え?え?あの、どういうこと?」
助けを求めて、21歳のガラリアを見上げたが、ショウの意中の女性は、ダリアより顔を赤くして、泡を食っている。中庭にいる4人の中で、最年長のガラリアは、<花>という単語を口にすることすら、恥ずかしくて言えないでいたのだ。好対照な、19歳のマーベルが、ショウに説明してしまった。
「あのね、ショウさん。バイストン・ウェルで、女性が、お花を手にとって、男性に、はいどうぞって、手渡すのはね、」
「黙れ黙れ黙れ!この、すべたが!」
「あたしのお花を差し上げますっていう意味でね、」
「キィーイーイァーイアァ 言うな!ショウ殿、聞くでない!」
「あたしとセックスしましょうって言っているのよ。」
ドレイク陣営の方、21歳、元カレ2名、うち1人目とはCまで、2人目とはBまでなガラリアと、正真正銘の真性童貞、座間祥くん18歳は、卒倒しかけた。
お構いなしに、キーンは、目から星マークを発しているショウに、ほらお花、ほら受け取ってと詰め寄るし、マーベルは、花壇の向こうから、赤いダリアを振りながら、
「2人きりにさせてあげましょう、ガラリアさん。」
「ふざけるな!マーベル、その方が、けしかけたのだな。」
すると今度はキーンが、ガラリアをにらみつけて、
「失礼ね。あたしはショウ殿にお願いしてるのよ。でもあなたが一緒にいたから、頼んでマーベルについて来てもらっただけだわ。あなたって、すぐ抜刀するんだもの。それとも、なぁに?ショウ殿は、ガラリア殿の彼氏なの?だったらあたし、あきらめる。」
ここを突くのが、ギブン側の作戦であった。この場で、最も、痛く痛く、心臓を突かれているのは、いやさ、心の臓を、えぐられているのは、そう、ショウ・ザマなのだ。
彼はもう、泣き出したかった。セックスとかセックスとかセックスとか、そんなモロ単語を、美人のアメリカねーちゃんに言われ、けっこう可愛い、年下の少女に、「やりましょう。16歳の処女です。どうぞ。」などと言われ、そして、本命のガラリアは、彼女らの問いに、どう答えるのか、
(そんなの、わかりきってるじゃないか。わからせないでくれよ!うわーん!)
ところが、アの国一番の鈍感ムスメこと、本編の主人公には、真性童貞の泣きたい気持ちなど、わかろうはずがなかった。彼女は、こういう事に関しては、バカの上に超がつくバカであるから。ガラリアは、バカ正直に、宣言してしまったのだ。
「ショウ・ザマ殿は、私の、そういう人ではない。ショウ殿にあられても、私と、そういう仲だと、皆に思われては、ご迷惑であろうと思う。」
「彼も迷惑だろう」という言い方をする場合、それは「私が迷惑なんじゃい!」という意味である。と、いう、本意が読み取れないショウにとっても、これだけでもう、核弾頭級の破壊力であるのに、畳み掛けてマーベルが、優しげを装って、
「あら。でも、この先は?ショウさんが、ガラリアさんの彼氏になる可能性は、あるでしょう?」
死にかけていたショウは、コドモなので、ホントに可能性があるかも、と思ってしまった。それがマーベルの思う壷である。またも、ガラリアは、正直ぃ~に答えてしまった。
「可能性は、ない。」
わざと不思議そうに、マーベルが尋ねる。
「あら、なぁぜ?」
「…それは、ご本人の前では、言えぬ。」←バカなりに考えたらしい。遅いが。
すると、どうせ死ぬなら、ひと思いに死なせてほしいと思ったショウ・ザマは、震える声で、告げたのだ。
「どうして…ガラリアさん、俺は、なんで、ダメなの…なんでなの…」
この時、キーン・キッスだけが、良心を痛めていた。
(ショウ、そんなに、ガラリアが好きなのね。あんまり、かわいそうだわ。あんなに震えて。泣いてるじゃない。男の人を、騙して、こんなに追い詰めるなんて、あたし、いけないことを、しちゃったわ。)
恋愛事における天然バカ、ガラリア・ニャムヒーは、彼にこう言われて、
(ショウ・ザマは、私に、気があるのか。)
と、ようやく気がついた。気がついたが、自分にとって、そういう興味、ゼロパーセントな男の気持ちに、配慮出来る人材ならば、彼女は筆者に、バカ呼ばわりはされない。
黄色いダリアを、花壇に投げ捨て、キーン・キッスは、黙ってショウから離れ、マーベルに、あっちへ行こうと促した。ギブン家の良心は、立ち去りながら、ギブン家の女狐に耳打ちした。やりすぎよ。ショウを味方につけたいのに、こんなにいじめちゃいけないわ、と。
マーベルも、作戦第1段<ショウ・ザマ、ガラリアにふられる>の成功を見て、ここは引き揚げることにした。…彼女の手には、赤いダリアが、まだある…
中庭に残された、ドレイク陣営の、男女は、向き合い、突っ立っていた。ガラリアは、彼女なりに、困りはてていた。
そうか、ショウ・ザマは、私を。えーと、断る。だが、彼は、男泣きしておるし。なぜダメなのかと聞かれても、困るなー。ダメなもんはダメだからなー。どう言えば、彼は、納得するであろうかぁ。
ショウは、黒い瞳を、涙で潤ませて、肩をぶるぶる震わせた。男が一旦、口にしてしまった告白を、引き下げるわけにはいかない。ガラリアさん、俺、真剣なんだ。
「教えて、ください。ガラリアさん、どうして、俺とは…付き合う可能性が、ないんですか。はっきり、言ってください…そしたら、俺、おれ…あきらめもつくから。」
少年は、嗚咽した。バーンさんが、好きだから、なんだよね、ガラリアさん。ショウは、彼女は、「好きな人がいるからだ」と、言うだろうと想像していた。辛いことに変わりはないが、彼女がバーン・バニングスを愛していることは、もうわかっていたから、改めて突きつけられても仕方が無いと、そんな風に、ショウは<甘く>考えていたのだ。
ところが、ガラリア・ニャムヒーは、バーンへの想いを、誰にも教える気はなかったし、彼女がショウを、可能性ゼロと認定しているのは、バーンじゃないから、なんかではないのだ!
第19章で、ガラリアが、アリな男と、ナシな男を選別していた事を思い出してほしい。ガラリアは、ショウに、ナシな理由を、言ってしまうのだろうか。ガラリア、それを言っちゃあ、おしめぇよ。
「えーと、ショウどの。」
「はい…」
「つかぬ事を、お尋ねするが、よろしいか。」
「はい、な、なんでも聞いてください!なんでも、答えます、おれ!」
コドモな座間君は、質問への解答によっては、可能性が出てくるかも!などと、考えたらしい。希望を抱いて、彼の表情が明るくなった。天然ガラリアは、あの単語を、あれを…本人に突きつけるつもりなのだろうか。
おずおずと
「ショウどのは…」
元気よく
「はい!」
「童貞であられるな?」
…あーあー、ゆっちゃったよ…
ショウは、バイストン・ウェルに落ちた夜を思い出した。あれは、奈落に落ちた感覚だった。やっぱりそうか、ここは地獄だったんだ。死にたい。いやもう、俺は死んだ。
ショウが返答しないので(そりゃ、しないでしょうねぇ)、ガラリアは、自分で続きを喋った。
「えーと。たいへん申し訳ないが、童貞であられる男性は、対象外、とさせていただいており。すまぬ。」
ぺこりと頭を下げられた。
座間祥君、18歳は、脱兎が如く、走り去った。
どこをどう走ったのか、覚えていない。ただただ、泣きながら、ショウは走った。風圧で、涙がちぎれ、疾走して来た童貞、いや道程に、しずくをまき散らしながら。走るショウは、泣き叫んだ。この時の、彼の号泣こそ、<号泣>と呼ぶにふさわしい、男、一生一代の、号泣、であった。
「童貞なのが、そんなに悪いのか!好きで、童貞に生まれてきたんじゃないんだ!
うわぁぁぁああああん ひどい ひどい ひどいやぁーーーッ!!」
◆挿入歌「童貞の詩」◆
作詞:ショウさん
作曲:映画「二百三高地」の主題歌で歌うとなんとか合います
♪教えて くだぁーさいー
この世に 生きとし 生けるものの
すべての 男は 童貞で 生まれてくるぅー
なのに ダメですか
今日は ダメですか
明日も ダメですか
生まれつき ダメですか
…ヤリチンが…いいんですか…
<次回予告>
BGM ♪ちゃららら ちゃらららららっ
ひゃっほぅ、セザルでぇーす。
あ、14歳で童貞は卒業してる、超ぉ美少年の、セザルでぇーす。
てなわけでぇ、ギブンの館編、3つの章を一挙に更新しました今回、
エンディングがこれまった~、どんな締めだよ!な終わり方なのがさ、
僕はお気に入りさ!
あぁ、悲しいさ、ショウ君。完膚無きまでにふられちゃったさ、ガラリア嬢に。
ガラリア嬢の天然にも困ったもんだけど、マーベル嬢の悪だくみも、スゴイさ。
さぁて、次回の、月下の花は。
赤いダリアを手にしたマーベル嬢、バーンに急接近!
ガラリア嬢が、それ知ったら、どうなるんだっつー、非常事態になりそうさ。
バーンは、マーベル嬢の花なんて、受け取らないと思う?
だいたい、ニー・ギブンが、黙って許すかしら?
ギブン家とドレイク陣営の、かけ引きはどうなるのかな?
あ、ツオウは出てこないから、ツオウファンな読者さんには、ごめんなさいさ。
筆者、ツオウがトラウマでさ。(参考:ニー・ギブンさんについて)
この小説ではさ、ミ・フェラリオの存在を、ほぼ無視する方針で書いてるからさ、
つーかアレをするためには、サイズがすべてな世界だからさ、
ミ・フェラリオファンの読者さん、ごめんなさいさ。
見・フェラ○オファンの読者さんは、今後にご期待下さいさ!
ガンガン、見・フェラるさ。じゃっ、またねぃ。
2005年9月25日