ガラリアさん好き好き病ブログ版

ここは、聖戦士ダンバインのガラリア・ニャムヒーさんを 好きで好きでたまらない、不治の病にかかった管理人、 日本一のガラリア・マニア、略してガラマニのサイトです。2019年7月、元サイトから厳選した記事を当ブログに移転しました。聖戦士ダンバイン以外の記事は、リンク「新ガラマニ日誌」にあります。

第17章 バイストン・ウェルとはなにか

朝 7:00

 ガラリア・ニャムヒーの起床時刻。規則正しい生活をしている彼女は、毎朝、この時刻になると、自然に目が覚める。白いふとんにくるまるガラリアは、白いキャミソールとパンティー、これが彼女の寝巻きであった。長い睫毛の幕が上がり、モス・グリーンの宝石が、現れた。ガラリアは、上体を起こし、跳ね上がった寝癖髪を掻きながら、

「今日は、新入り聖戦士のための、様々な業務が目白押しだ。気を引き締めていかねば。」

素足を、白いムートンのスリッパに差し入れ、立ち上がり、洗面室へ。

 白い固形せっけんで、洗顔。洗い上がりの素肌に、蓮華水をたっぷり、染み込ませると、ひんやりして、朝の気合いが入る。蓮華水(れんげすい)は、薄紅色が透き通った化粧水で、丸いガラス瓶が可愛らしい、彼女のお気に入りだ。

 寝巻きを脱ぎ捨て、洗いたての、今朝はピンク色のパンティーと、ブラをつける。洗面室の、上半身が映る鏡で、ガラリアは、ブラをつけた自分の体をじっと見てみた。

「最近、ブラがきついのだ。太ったのかな…いやだ、ただでさえ、もう若くないのに、でぶになったら余計、醜くなってしまう。バーンはリムルのような、華奢な少女が好きなのだ。ぐすん、私なんか、もう21で、おばさんで、胸は無駄にでかくて、そのうち垂れてくるのだ。もうだめだ。私はでぶでブヨブヨのおばさん…うぅ…」

筆者は、ガラリアに往復ビンタを喰らわしたい。ブラがきついのは、少女から大人への、まだ成長途上にある乳房が、ふくらんできたからであって、ガラリアは、実際にはEカップに近いDカップであるにも関わらず、Cカップ用ブラをつけているから、きついだけなんである。誰か、ガラリアに、いいかげんちゃんとサイズに合うブラをしなさいと言ってやれ。

 洗面室の横に、クローゼット室がある。いつものオレンジ色の戦闘服と、ピンク色の制服は、各々5着ずつ、同じデザインのものが、ハンガーにかけてある。今や、ドレイク軍副団長となったガラリアの月給は、日本円で手取り50万円であり、制服のスペアなど、いくらでも購入できるのだ。

 今朝は、戦闘服の方を身に着けて、ガラリアは、洗面室から出た。

ドレイク軍では、その日の行事によって、朝から戦闘服の日と、制服の日がある。今日は全兵士戦闘服の日だ。

寝室に戻り、窓際にある、チェストの前へ立つ。これは、引き出しが4段ある、腰丈の棚の上に、大きな鏡が備え付けてあるもので、ガラリアの化粧台であった。

 この棚は、ガラリアの宝物置き場であった。母、アメリアと、赤子の自分が描かれたミニアチュールは、この部屋に住み始めてずっとここに置いてある。ミニアチュールの横にある、木彫り紋様の大きな宝石箱を開けると、赤いビロード地に、入れてあるものは、アトラスがくれた、口紅。円筒形の金細工である。そして、同じ日にもらった、香水瓶。白い磨りガラスの瓶に、蓋は、銀が花形に鋳造された高級品である。

 17の誕生日にもらった、この2品を、ガラリアはその日から、毎日、毎日、つけ続けてきた。そして、もうとっくに、2つともからっぽになっている。大きめの宝石箱の中には、初代・アトラス口紅エーンド香水瓶と別に、2代目、3代目の、同じ銘柄の口紅と香水瓶が、並べて入れてあるのだ。

「アトラスが、くれた物だもの。私は、ずっと同じ物を、使うのだ。口紅は、同じ銘柄、クの国の高級化粧品ブランド、ク・オーレ化粧品のライン。色違いのを、5色取り寄せたら、送料無料だったし、特典で、これがついてきた。」

これとは、マットな口紅の上に塗る、透明なリップグロスである。蓋の口径が広い、小瓶入り。

「真紅の紅をひいて、と。その上から、これを、指でのせると、くちびるがツヤツヤ輝いて、きれいなのだ。更に!これを塗ると、コーヒーカップに口紅がつかない、色落ちしないスグレモノなのだ!」

次に、3代目香水を、うなじと手首につけた。ガラリアの、デイリーのお化粧は、これだけ。

そして、ガラリアが<戦闘態勢>に入る、最後の仕上げである。同じ宝石箱に、入れてあるピアスを、両耳に装着。

「彼が、これをくれた日。私の18の誕生日…あの日が、彼に会った最後だった…アトラス、お前以外の男を、私は永遠に愛さないと誓ったのだよ。お前への愛の証しのために、これを毎日つけることにしたのだ。でも、アトラス。私、お前に出会う前に、恋をしていたのだ。初恋を…アトラスは言った。わかっていたのだ。私がバーンを好きだったことを。そしてアトラスは逝ってしまい…今日も、まだ、私は初恋を追っている。」

 


7:30

 戦闘服に、耳飾りをきらめかせ、ガラリアは、軍靴をならして、副団長専用食堂へ。ガラリアの召使いたちは、全員が、中年の平民女である。

「朝食はキチンと食べないとな。以前、寝坊して、朝礼に遅刻しそうだった日、朝食抜きで行ったら、その日に限って、いつもは朝礼に出ないドレイク様が来て、長々とありがたいお話しをして下さったものだから、私は貧血を起こしそうになったのだ。あの日、なぜドレイク様は、朝礼に出たのか。それは、ゼットが作った新しい機械、マイクを使ってみたかったからなのだ!まったく、新し物好きなのだから、あの御方は。」

 女召使いたちが、ガラリア好みの朝食を給仕する。熱いコーヒーに、バタートースト、目玉焼き、チーズにサラダ。

 朝食を済ますと、ガラリアは、厨房に入り、皿洗いをしている平民女らと肩を並べて、歯磨きをする。歯磨き粉を、たっぷりつけた歯ブラシを口に突っ込み、ガラリアは口もとをアワだらけにして、召使いたちのお喋りに答えるのだ。厨房頭のおばさんは、洗い場で並ぶガラリアに、気さくに話し掛ける。

「ガラリア様、あたしゃ、いつも思うんですがねぇ。」

「ファンファ。」

「そうやって、歯磨きされると、せっかく塗った口紅がぜんぶ、とれっちまいますでしょう。」

「フォーダナ。」

「そいでまた、口紅を塗りなおしされますでしょう。2度手間じゃないですか。」

「フェツニ、ニファイニュルノファイイフォダ。フィンヒフファラフォフォニフルマヘニ、フェイフェイファチファイフフォフォロフォフォールシファー。」

召使いたちは、この、ガラリアの歯磨き語を、正確に翻訳する特殊才能を、身につけていた。上記は、

「別に、2回塗るのはいいのだ。寝室からここに来るまでに、衛兵たちがいる所を通るしなあ。」

の意である。そうして、ガラリアは、食堂に戻り、窓際のソファーに腰掛け、ニカのポシェットに入れて来た、今日の口紅とグロスを塗りなおし、いざ、出陣!

 


8:00

 朝礼の前に、ガラリアはいつも、配下である守備隊の兵舎に赴く。兵舎の玄関には、ユリアや、ハンカチ君や、おなじみの部下たちが、三々五々居並んでおり、隊長ガラリアを待っている。この兵舎は、隊でも高位の、下士官の住まいであり、ユリアは、この兵舎の2階の女子寮に住んでいた。

 ドレイク軍は、騎士団長バーン・バニングスを長とし、副団長がガラリアであるが、一方で、警備隊と守備隊という2大隊に別れている。

 バーンの配下、警備隊は、むくつけきおのこ、猛者揃い。バーンは意識して、部下にはつわものなる男たちを集めていたが、猛者というものは、個々人のプライドも高いものである。彼ら警備隊員に、言う事を聞かせるために、隊長バーンは、力でもって制するやり方をしており、それが唯一の指導法と、彼は信じて疑わなかった。

 一方こちら、守備隊の朝の風景は。

「ガラリアさまーっ、おはよう御座います!ね、昨夜の聖戦士は、いつ紹介されますの?朝礼には、来るのですか?」

ユリアの黄色い声が、ガラリアの頬に明るさをもたらしてくれる。隊長ガラリアは、友人である部下らが、今朝も元気で揃っているかと、見渡し、話す。

「地上人たちは、9時からのガイダンスで、やっとお目覚めさ。朝礼はいつも通りだ。ガイダンスは、バーンが行うから、我々は今夕の園遊会に備えて、ドロを点検、予行運転する。おや、どうした、お前。」

 ガラリアの古い友人、先輩であるハンカチの青年が、元気がないようだ。彼は、愛しいガラリアが気にかけてくれて、嬉しく、なんでもないよと、笑って見せたが、顔色は悪いままだった。彼はおとなしい性格ではあるが、気さくな人なのに、今朝は沈んでいるな?ガラリアは、

「今日から、新入り、地上人が我が軍に入るのだぞ。我々、バイストン・ウェル騎士の気概を見せてやらねばならぬ。皆、気を引き締めてかかれ。」

 ガラリアの号令一下、守備隊下士官たちは、朝礼が行われる広場へと歩いた。歩きながら、ガラリアは、そっとハンカチの青年に近寄り、

「どうしたのだ…おかしいぞ、お前。具合でも、悪いのか?」

と問うた。青年は、黒い髪の、前髪で目を隠すようにうつむきながら、

「ガラリア。予定では、明日、いよいよだね。俺、今からそれを考えるとさ…」

こう言われて、ガラリアは、彼の不調の意味がわかった。前方を向くガラリアは、長い睫毛を悲しげに震わせ、真紅の濡れた唇で笑みを作って、声を低く話した。

「私も、初めての実戦だ。明日がな。お館様は、ダンバインの試運転と称して、イヌチャン・マウンテンの領空を侵犯し、我が軍の新兵器、聖戦士ダンバインをギブンに示威するおつもりだ。その先陣を切るのは、我ら守備隊のドロ隊。ギブンは、ゼラーナもダーナ・オシーも有している。ふふ…ダンバインの捨て石に、もはや旧式のドロを使うのは、至極、合理的だな。」

ハンカチの青年は、こう自嘲して見せる彼女の、まだ21歳と言うのに、戦法の無情を達観している事に、驚きを隠せなかった。

「ガラリア、君は、わかっていて、それで、いいのかい?だって、明日の作戦には、バーン殿は出ないんだろう。本来、前線は警備隊の管轄なのに。」

「それはな。ダンバインは、領内で試運転していました、領内だから守備隊が一緒でしたと。たまたま、操縦に慣れない地上人が、境界線を知らずに飛び出してしまいましたと…そういう筋書きなんだ。ふん、バーンのドラムロは、新型だから、明日の作戦に使うのは勿体無いとさ。これが、私の初陣なのだ。こんなことで、」

静かに話していたガラリアの、薄緑色の瞳が、カッと開き、長い睫毛が天を向いて、まなざしは闘志に燃え光った。

「こんなことで、くじけてたまるか!むしろ好機とすればよい。よいか、ドロ隊で、ギブンの輩を蹴散らし、ダーナ・オシーを落として見せるのだ。私の、お前の、守備隊の初陣に、花咲かせようぞ!」

 


8:30 朝礼

 壇上の、マイクで話すバーン・バニングスの声は、いつにも増して、朗々と響き、朝の光りが長髪に反射し、その男ぶりは、下っ端の兵士らに、畏敬の念を抱かせた。バーン団長は、騎士の鑑だと、尊敬のまなざしで見上げる若い騎士たち。

それを見渡すガラリアは、

(アトラスはもっと、威厳にあふれ、美しく優しく、完璧な騎士だった。完璧な男だったのだ)

今、自分の心を揺り動かす<眼前の男>に、即ち自分の恋に、<昔の男>でもって抵抗していた。

 バーンはと言えば、自分が読み上げている本日の業務連絡に、武者震いが止まらなかった。

「本日、9時より、第1会議室にて、地上人への新入ガイダンス。騎士団長が、指導教官を務める。11時、地上人、機械の館見学。昼食後、地上人ガイダンス、午後の部の教官は、ミズル・ズロム殿。警備隊、守備隊は、夕刻よりの園遊会の準備に万全を規せよ。園遊会は、18時開始であるから、17時には円形競技場の準備を完了させること。園遊会において、騎士団長は、新型オーラ・バトラー、ドラムロを使用し、強獣ガッダーと対戦…」

 喋りながら、騎士団長は、熱き闘志を燃やしていた。夜のガッダーとの闘いの方ではなく、午前中の方に、である。

 この後、あいつら、バカ地上人に、バイストン・ウェルの説明をするのだ、このわたしが。おとなしく言う事を聞けばよいが、連中は、一応、客人扱い。わたしは礼儀正しく、騎士道の手本を示して見せる。特に、あの男。トッド・ギネスには、性根から叩き込んでやらねばならぬ。女性への礼節をな!

 朝礼中、ガラリアは、バーンの隣りで、騎士団長を見つめる兵士を見渡し、ずっとブツブツ、

(バーンなんか、バーンなんかよりもっと、アトラスの方が。この、バカ兵士どもめ、そんなキラキラした目でこいつを見るでないわ。)

と思っていた。

整列する、ドレイク軍の全兵士、下士官の並ぶ、後ろに、下級兵が並んでいる。

前列、下士官の中には、今年、士官学校を卒業して入隊した、ユリアもいる。ユリア・オストークは、下士官の中でも新卒者で、平民であり、身分としては高くないが、副団長ガラリアの命で、最前列に並んでいた。

隊列の最後尾、下級兵の中でも最下層の列に並ぶのは、新入りの下級兵。ルフト家付属士官学校の卒業生は、入隊して即、下士官の位が与えられ、ユリアもその口である。一方、士官学校には通ったが、落第し、卒業証書がもらえないままタイムオーバーになった者と、士官学校自体に通っていなかった騎士は、下級兵の位である。

この大規模な隊列の、最後列に並ぶ下級兵たちは、マイクで話す騎士団長からは、豆粒大にしか見えない。バーンもガラリアも、数千人規模の全軍中にあって、下級兵の、名前も顔も、覚えきれるわけがなかったし、知る必要もなかった。団長・副団長が把握しているのは、各部隊長クラスの下士官の頭数と、その部隊長の配下に、各々何名の人員が配置されているか、までであった。

最後列にいる新入り下級兵たちは、入隊式以降の3ヶ月間、軍内の各部署の仕事を、順繰りに研修してきて、数日前に、正式の所属が決定したばかりであった。研修期間中の仕事は、厩舎の修繕や馬の世話、機械の館で荷物運び、各オーラ・マシンの清掃など、雑用ばかりである。

ドレイク軍の兵士は、皆、揃いのヘルメットを被るのだが、朝礼時は、脱いで片手に持つのが規則である。上官の訓示を聞いているのだから、被り物は取るのが当然である。

さて、軍内最下層の、最後尾に、1人の男が、立っていた。この男は、ガラリアの言う<キラキラした目>では、バーン・バニングスを見ていなかった。騎士団長様!だからかっこいい、という感想は、抱いておらず、この男の視点は、別な方向へ向けられていたらしい。そして、この男、規則を無視して、1人、ヘルメットを被ったままなのである。

 壇上のバーンは、ブツブツ、

(トッドのやつに、礼節を教える、礼儀、規則、これは騎士として基本的なわきまえであり当然の…ンン?!なんだ、あれは。最後列の、新兵の分際で、被り物をしたままの、ふとどき者がおるではないか!)

「そこの者!きさま、ヘルメットをとれ!朝礼に臨んで、その態度は何事であるか!」

騎士団長のマイクの剣幕に、一同はビックリして、衆目が、最後列のヘルメットへ注がれた。ガラリアも、こしゃくな新兵だ、と憤慨し、手前の、下士官の列に向かい、

「直属の上官は、誰か!列を離れるを許可する。行って、制裁を与えよ。」

言ったガラリアは、2度、ビックリさせられた。オドオドと、後列の方へと走り出した下士官は、なんと、さっき話していたハンカチ君だったのである。つまりあの無礼な新兵は、守備隊員、自分の配下だったのだ。

バーンは、鬼の首を取ったように、ガラリアを叱り付けた。(バーンの態度は、昨夜、トッドに口説かれて、ちょっと嬉しそうだったガラリアへの嫉妬からである)

「守備隊は、こんな躾も出来ていないのか。ふん、我が警備隊には、あのようなバカ者は1人もおらぬわ。」

と、バーンは直属の部下たちを振り返り、笑って見せたので、警備隊下士官らも、いい気になって、駆け足が、緊張でもたついているハンカチ君を指さし、嘲り笑ったのである。

ガラリアは、憤怒で、顔を真っ赤にした。すぐ、自分と、ハンカチ君に恥をかかせた新兵に、自ら制裁しようと、行こうとした。そのガラリアの手首をギュッと掴み、止めた者が。ユリアである。

「いけません。ガラリア様、隊長が行かれては。彼の(ハンカチ君の)面子が、余計、潰れてしまいます。彼に一任するのが、良ですわ」

 ユリアに言われて、ガラリアは、そうか、そうだな、彼に任せるべきだとわかった。

 ハンカチ君は、焦って、最後列に辿り着いた。問題の新兵は、なんと、まだヘルメットをとっていないのである。下士官ハンカチ君は、部下を怒鳴りつけるのが、苦手だったし、彼が、怒鳴らなければならないようなバカ部下も、かつていなかった。ハンカチ君は、震える声で叱ってみた。

「セザル!どうしたんだ、昨日まではちゃんとしていたじゃないか。早くヘルメットを、とるんだ。」

「あ、ハイ、すみませんでした。つい、うっかりしてたさ。」

と、言って、セザルと呼ばれた下級兵は、ようやく被り物をとったのである。

 ガラリアやバーンや、最前列からは、遠くの問題児が、ようやくヘルメットを脱いだらしい事は、見えた。バーンは、ふん、とまた鼻息を鳴らして、朝礼を進行させ、ガラリアは、後であの新兵は往復ビンタの刑にしようと考えていた。

 


9:00 

 バーンが、ガイダンス時刻なので、宮殿へと去ったのを確認したガラリアは、早速、ハンカチ君を呼び出し、

「さっきの、あれ。なんなのだ、新入りの指導は、地上人でいっぱいいっぱいな日に限って。お前、あの新兵に、制裁は、ちゃんと加えたのであろうな?」

「制裁…殴るとか?いや、それは、してない…口では、言っておいたけど。」

ガラリアと、並んで立つユリアは、あーあーあー!と、女性特有の非難口調で、ハンカチ君を責め立てた。ユリアが、

「それはいけないと思いますわ。あなたは上官ですもの、けじめをつけないと。ガラリア様は、あなたの顔を立てて、朝礼中には、自ら動かずにいらしたのよ。」

ユリアは、それが自分の知恵だとは、決して吹聴しない。ガラリアが、刑の執行を命じた。

「ここに連れて来い、そやつを!」

 ハンカチ君は、問題の新兵、今また、ヘルメットを被ったままの下級兵を、守備隊長ガラリア・ニャムヒーと、腹心の部下、ユリア・オストークの前に連れて来た。鬼の形相の、女2人。芝生の青々と茂るラース・ワウの庭に、燃え立つ青い髪と、黄緑色の髪。この女性騎士の前に、新入りのこわっぱが連行されれば、大概、ビビっているものである。

コワイおねいさん2人の前に立たされた下級兵は、フルフェイスのヘルメットから、しらっととぼけた目線を、空に向けている。気をつけもせず、両腕をだらしなく背中で組んだままだ。

 ガラリアは、なんだこいつは、突っ込み所満載だ、列挙して叱らねばならぬと、まくしたてた。

「その方!上官と対峙するとき、姿勢は気をつけい!私が呼びつけたのだ、即、被り物はとる!話しをするときは相手の目を見よ!それから、そ…」

 怒り猛っていた、ガラリアと、ユリアは、2人とも、息が止まった。

声も出ない。女2人は、口を、アホの子のようにパカーと開けたままの状態で、停止してしまった。

その下級兵が、ゆっくりヘルメットをとったからである。

「・・・・・・・・・・・・」

 呆けた、クチ、パカーな女2人を見たハンカチ君、ガラリアにぞっこん惚れて幾年月の青年は、

(だから、こいつを彼女たちに、引き合わせるのは、イヤだったんだ)

と嘆いた。ハンカチ君は、自分の部下を含む3人に、くるっと背を向け、ガックリうなだれてしまった。

 下級兵が、ヘルメットをぬぐと、彼は、長い長い髪の毛を、被り物の中にたばねて隠していた事が、判明した。栗色のつややかなロングヘアーが、ファッサァーっと、彼の肩へ、胸元へ広がり、その長さは、背中の真ん中までぐらい、バーンと同じぐらいの長さだが、彼の髪にはもっとボリュームがあり、ゆるやかなウェーブがかかっている。額や耳にかかる髪が、駿馬のたてがみのように、ふさふさと風になびく。

 背丈は、ガラリアが見上げるほどだ。バーンより高いんじゃないか。

 彼は、もったいぶってヘルメットをとる際、その首を左右にふって見せ、栗色の長髪は彼の顔に、ショールのように巻きつき、そして離れた。シャンプーのコマーシャル技。柔らかく光沢する栗色の波の中に、現れたその顔は。

(こっ…こんな美少年、見たことがない…)

前章で、ガラリアは、年下には興味ゼロパーセントであると言っていた。それは本当である。しかし、眼前に出現した、おそらく17、8歳とおぼしき、少年は…

青く青く澄んだ瞳を、切れ長の下まぶたにのせ、いたずらっぽい微笑みを投げかける。男にしては、やや細めの眉も栗色、眉の形は、弓で闘いを挑む戦士の持ち物。勇ましく雄々しく、弾かれた弓形の栗色。鼻筋は高く真っ直ぐに、その頬に陰影を落とし、あたかも風光明媚な渓谷が如き。頬は小麦色、秋の午後に、地平線まで続く、一面の小麦畑のようにつややかにきらめく。口元は男らしく涼やかに結ばれているが、あどけなく、危なっかしい幼さをたたえる。唇は天然の桃色に、もぎたての果実のように、甘く、口づけをせがんでいる。

 ユリアも、ガラリアも、硬派の守備隊女コンビは、さきほどまでのヒスは、どこへやら、呆然と美少年に見惚れた。

 この世に、こんなきれいな男がいたのか。

 年齢は、下だけど、でも、背はかなり高いし、よく見れば、体格はがっちり、胸板は分厚く、二の腕はたくましく。なによりその顔が。女顔なのではない、至極男っぽい美しさなのだ。青い目は、さほど大きくはない、流麗な切れ長で、睫毛は長すぎず、凛々しさの中に甘さがある。今、この年齢で、これほど美しいのならば、将来、どれほどの美青年になるのか、想像しただけで、あぁ、花が濡れてしまう。

 すっかり、アホの子と化したガラリアを、美少年は、しっとり笑い、しどけなく見つめた。首を傾けて、うふっと息をもらし、しなを作る仕草が、殺したいほど、悩ましいのだ。桃色の吐息が、2メートル離れた私にまで、すいつくように、からみとられるように、芳しく漂い、誘う。あぁん…あそこが…ヒクヒクしちゃってもう…

 ハッ。いかん。だめだ、私は何を考えているのだ、か、下級兵だぞ、ガキだぞ、そうだ、このきれいな男を呼びつけた目的は。ええい、私をみとれさすとは、ちょこざいな小僧め!

「そ、その方…名は?名を、名を名乗れ。」

「セザル。」

声がまた、イイではないか。声変わりしたての幼さに、大人らしさが、丁度良くミックス混交された、透き通るような美声だ。ユリアときたら、頬を真っ赤にして、

「かわいぃーッ」

なんて言って、小躍りしている。わ、私は隊長だ、キチンと詰問しなければ。

「なんだ、その、返答は。姓、名、供に名乗り、所属を言うのが規則であろう。」

すると、微笑んでいた美少年は、急に、弓形の眉を、悲しげにしゅんと寄せた。ただそれだけで、あん~あ、それだけで。ガラリア・ニャムヒーともあろう者が、この子を泣かしちゃったらどうしよう、かわいそうだ!と、焦ってしまったのである。

「いやいやいや、そう、落ち込むでない、その方とは、わわわ私は初めて話すから、初対面だからなのだ、名前を、みょみょみょ苗字も、聞きたいのだ。お、教えてほしいのだあー」

この場にバーン・バニングスがいたならば、嫉妬のあまり発狂するだろう。ハンカチ君の脳裏には、アの国の自殺の名所が、走馬灯のように浮かんでは消えていた。

 美少年の、花の唇が、開かれた。

「僕、苗字は名乗っちゃだめなんです。パパが、勘当息子には、我が家の姓は名乗らせないって、怒ったんです。」

勘当?ガラリアは、ますますセザルという美少年に、興味をそそられた。

「セザル、と言ったな。お前は、騎士階級であろう?父上に、勘当されたのか。差し障りが無ければ、どういう次第なのか、聞きたいが。」

セザルは、小麦色のまぶたを閉じ、両手指を、胸の前でもじもじ合わせながら、首をかしげて、さかんにしなを作り、

「ガラリアさまに、ゆうの、僕、恥ずかしいさ。」

その仕草を見たユリアが、また、

「かわいぃぃいーッ」

と、ここでブチ切れたのが、セザルの上官、ハンカチ君であった。

(いいかげんにしろこいつ、1人でモテまくりやがって、新入りのガキのくせに、朝礼で俺に恥をかかせやがって、俺が20代半ば過ぎでまだ素人童貞だからって、なめんなよくそ、素人童貞だって人間なんだ、素人童貞にも人権はあるんだ!)

「セザル!ガラリア隊長に向かって、生意気だぞ、きさまー!隊長には、ちゃんと報告すべきだろう。ほら、言えって!」

ガラリアもユリアも、ハンカチ君がこんなに怒った声を聞いたのは、初めてだったが、アウトオブ眼中だった。それでも、ハンカチ君は、素人童貞のひがみ、いや、意地を見せた。

「あのね、ガラリア、こいつね。…ガラリアってば!(俺の方、見てない…)セザルは、あの、」

ハンカチ君は、セザルの秘密を知っているらしいとだけ、耳で認知したガラリアは、セザルの唇が開かれたのに、また、クチ、パカーで見惚れてしまっていた。そして、ラース・ワウに、ガラリアの前に突如として出現した、類稀な美しい少年は、こう言ったのである。

「僕の姓は、ズロム。そう、ミズル・ズロムは、父です。ガラリア様、僕、セザル・ズロムは、貴女の部下になりたくって、守備隊を志願しました!」

 


同時刻、こちらは、第1会議室である。

大きなマホガニーのテーブルに、着席していない、地上人3人。3人とも、昨夜着ていたままの服、地上の服装である。書類鞄を小脇に抱えて、入室したバーン・バニングスへ、窓際から振り向いたトカマク・ロブスキーは、

「おおっと、えらいさんらしいぜ。事情を説明してもらおうじゃん。」

 トカマクのそば、やはり窓辺に立っていた、プラチナ・ブロンドの青年、トッド・ギネスは、バーンを見るや、瞬時に視線をはずし背を向け、会議室の隅に、離れて立ちつくしていた、黒髪の少年の方に歩んで、

「ジャップー。ほら、こっち来いよ。こっからは庭が見渡せるんだ。この城は、相当広いみたいだぜ。」

 バーンは、この男は、また、わたしをわざと無視した!と、怒りを憶えたが、意識して優しく、

「地上の方々、昨夜よりの、この世界、バイストン・ウェルの居心地は、いかがかな。」

と問い掛けた。すると、窓辺のトッドは、窓の外を見ながら、つまりバーンの眼を見ないまま、つまらなそうに口をきいた。

「あまりよくないねェ。俺の寝室、バスルームが廊下の向こうにあって、ドアんとこに見張り番が立ってやがって。風呂上りによぉ、男に裸見られるのは、気持ちイイもんじゃぁねぇなぁ。女の子なら、大歓迎だけどな。」

トカマクが呼応して、

「トッド、あんた風呂に入ったのか?よくそんな余裕、あるな。俺なんて、夜勤の最中、いねむりしてたんだよ。そいで、目が覚めたと思ったら、ここは、ハリコフの工場じゃねえじゃねえか。なんだお城だ、変なヨロイつけた連中ばっかいるって、さっきまでパニックよ。あんたら、俺と同じ地上、ちじょうびと?に会って話すまでさ、幻覚見てるとしか、思えなくってさあ。」

 バーン・バニングスは、よく喋るトカマクとトッドから、1人離れ、うつむいて黙っている、黒髪の少年に、興味を持った。と言うより、バーンは、

(トカマクは受け口のブサイク。ガラリアら、女たちには、顔が不評。トッドは、いくらショット様の肝いりがあったとて、このわたしが、気に入らぬ。残るは、この少年のみ。ガキだが、他の2人よりは、まだマシ。)

という認識で、3人目の地上人に歩み寄り、鞄からメモ帳を取り出した。テーブルには、羽ペンとインク壷が設置してある。バーンはペンをとり、しとやかに話し掛けた。

「君。おはよう、気分はどうだね。昨夜はよく話せなかったな。君だけ、名前を聞いていない。氏名を教えてくれたまえ。」

黒髪の少年は、ようやく視線を上げ、バーンの顔を見た。しげしげと、見つめた。そして、こう言った。

「あんた…すごいケツあごだね。」

トッドの噴き出す声が、会議室にいる者の耳をついた。本編において、かつて筆者が一度も言及しなかった、バーン・バニングスの稀有な容貌、それはケツあご、素晴らしき二重顎。

バーンは、ややマシだと思った3人目までこれか。地上人は、どいつもこいつも、礼儀のレの字も知らんのか!と怒りを抑えるのに必死であった。そこへ、笑うのをやめたトッドが、寄って来て、

「おいおい、でもジャップ、初対面のにいさんに、いきなりそれは御挨拶だぜ。こちらさん、この城じゃぁ、リーダーなんだ。身分の高い人だぜ。その上、俺たち、よそ者の世話係りときた。さぞかしたいへんだろうよ。もうちょっと行儀よくしてやろうぜ、な。」

と言い聞かせ、少年の肩をたたいた。そして、昨夜の初対面以来、初めてバーンの眼を見て、声のトーンを低くして、まじめな面持ちに変えて、話した。

「すまねぇな。こいつ、寝ぼけてんだよ。俺が見聞きした事は、だいぶ説明してやったんだが、まだ現実だとは、わからないらしいんだ。子供だし、な、許してやってくれ。すまん、このとおりだ。」

神妙に言い、トッドは、頭をぺこりと下げたのである。一番無礼と思っていた男が見せた、低姿勢に、バーンはひどく拍子抜けし、そして少し、嬉しかった。トッド・ギネス、それほど悪い男ではないのかもしれぬ…。

 地上人3人は、テーブルの席に付いた。バーンは、この日のために、ゼット・ライトに書いてもらった英語のレジュメを配布し、自分は黒板の前に立った。アメリカ人トッドは、書類を手にとり、ふむふむと黙読したが、トカマクは、

「ロシア語版は、ないのかい?俺ぁー、英語なんてさっぱり…つーかさ、みんなロシア語喋ってんじゃん?なんでこの紙きれだけ、英語なんだよぉ?」

黒髪の少年が、重い口を開き、同じ疑問を口にした。

「みんな日本語喋ってるじゃないか…トッドも、洋画の吹き替えみたいな日本語喋ってる…だからこれは、俺の夢なんだよ、きっと…」

バーンが、重々しく、解説を始めた。

「そう、その点も説明しよう。では、地上の方々、バイストン・ウェルへようこそ。これより、新入ガイダンスを始める。わたしは、この城、ラース・ワウの騎士団長、バーン・バニングスである。」

トッドが、レジュメを手にしながら、明るくバーンに質問した。

「バーンさんか。よろしくな。バーン、さんって呼んでいいのかい?団長殿、とか、言うべき?」

「いや、よい。あなた方は、客人であるから、わたしには、対等でいい。ただ、この城の城主である、ドレイク・ルフト様に対しては、必ずドレイク閣下、と尊称で、最高敬語で話していただく。よいかな。」

トカマクが、ドレイクさんって誰だよ、と言うので、トッドが、俺は昨夜見たよ、一番えらい殿様だ、と小声で説明した。バーンが続けた。

「では、次に、各々方、自己紹介を1人ずつお願いしたい。まず、君から。名前さえ、まだ聞かせてもらってないからな。」

指された、黒髪の少年は、

(高校1年の、入学式の日みたいだ)

と思いながら、反射的にズルズル椅子を引き、起立した。バーンは、

(指名されたらまず、立つという儀礼は、わきまえている子だ)

と思い、メモ帳にペン先をあてた。

「名前…俺は、座間祥。」

座間祥は、ぶっきらぼうに答えた。青い長髪のバーンの、ペン先が戸惑い、聞き返す。

「ザマ、ショウ?姓が、なんだね?」

まだ夢見心地の座間祥は、入学式の日に、教室で言った通りに言ってみた。

「ザは座るってゆう字、まはあいだのマ、しょうは、カタカナのネにぃ、ひつじって書く祥でーす。」

この発言、会議室にいる、全員に意味不明であった。さもありなん。トカマクは「ネニー羊?ってどんな羊?」と首をかしげている。バーンの知りたい点を、逸早く理解していたトッドが、助け舟を出した。

「ジャップ、苗字と名前、英語で名乗る時みたいに、言ってくれってよ。バーンさんは、そこがわかんねぇんだよ。」

「あ?うん、そうか…ええと、アイ、アム、ショウ・ザマ。マイ、ネーム、イズ、ショウ・ザマ。」

この発言、バーンの耳には、

「ええと、わたしは、ショウ・ザマと申します。わたしの名前は、ショウ・ザマです。」

という、極めてキチンとした挨拶言葉に聞こえてしまうので、バーンは、

(なんと、えらい子ではないか!ショウ・ザマ君、実に立派な言葉遣いである!)

というウルトラ勘違いをしてしまった。すっかり機嫌の良くなったバーンは、バイストン・ウェル文字を筆記しながら、矢継ぎ早に質問した。

「ショウ・ザマ君か。ショウ君、年齢は、おいくつかな。」

「18…」

バーンもトッドも、もっと幼いと思っていたので、ややビックリ。

 こうして、バーンのメモ帳に、地上人のデータが書き込まれていった。

『氏名、ショウ・ザマ。年齢、18歳。

地上の国はニホン。家族構成、両親あり。高等学校を途中退学し、ホンダダの乗り手になるべく修行中であった。武術の心得は、学校のブカツドーで習ったカラーテ。カラーテという武道には段位があり、その初級に当たるクロオービを取得済み。

追記1:ブカツドーとは、課外授業の意。

追記2:昨夜、ショット様たちが言っていた、ホンダソウイチロウとは、ホンダダを作った技術者で、ニホンでは立志伝中の人物であると、ショウ君談。』

『氏名、トッド・ギネス。年齢、23歳。わたしと同い年だ。

ショット様、ゼット様と同じアメリカ人。家族は、母君のみ。父君も兵士であったが、べとなむ戦争にて戦死とのこと。ご冥福をお祈りする。はいすくーる卒業後、空軍の士官候補生となった。空を飛ぶ兵器の操縦は、充分心得ているとは、本人談。軍隊の予備役にて、各種訓練済み。はいすくーるのブカツドーは、多種の体育競技を掛け持ち。対抗試合にて、婦女子の応援団、ちあがーるが来る日だけ参加、いいとこ取りでモテまくりとは、本人談。この男、やはり、少々気にいらぬ面一部あり。』

『氏名、トカマク・ロブスキー。年齢、25歳。見えない。老けている。

祖国はソビエト連邦。家族、両親あり、弟妹多数で長男。徴兵により、陸軍にて兵役を4年務めた後、実家、ハリコフの精密機械工場に就職。陸軍では雑役がほとんどで、兵士らしい仕事はしていないとは本人談。定収入の見込める工場に入ったが、祖国では軍人の地位が高いため、軍に戻る事も検討していた。

追記1:トッドの国、アメリカと、ソビエト連邦とは、軍事的・思想的に対立する、地上の2大強国らしい。

追記2:ショウの国、ニホンは、アメリカ側に同盟している。地上も、政治軍略のひしめく世界らしく、ここバイストン・ウェルと変わらない。』

 地上人の自己紹介が済むと、バーンは、自分で書いてきた、バイストン・ウェルの説明文を片手に、黒板に白墨で、図を書き、解説し始めた。

「あなた方、地上人の住む世界が、ここにあるとする。(バーン、楕円形を描く)地上界には、海と陸があるであろう。(楕円形に直径線をひき、片方を斜線で塗りつぶす)こっちが陸、こっちが海とする。ここ、バイストン・ウェルとは、この海と陸の狭間にある、人の魂が生まれ変わる場所なのである。(楕円の中心に、円錐形の頂点を合わせて描き、円錐の底辺に、バイストン・ウェル、と文字で書いてしまったとき。)」

生徒3名が、バーン先生に向かって同時に「ええーッ」と言った。なんだ、わたしの説明の、なにがわからんのだ。

トカマクが言う。

「なんだい、その字?何語?バーンさんは、流暢なロシア語、話してるくせにさ、なんで急に読めない字になるんだよう。」

トッドとショウも、口々に、読めない、知らない字だと言う。バーンは、

「あ、ああ、そうか。うっかり字を書いてしまった。あのだな。これはバイストン・ウェルの文字で、えー、バイストン・ウェル、と書いてあるのだ。あなた方地上人の耳には、わたしの言葉は、あなた方自身の母国語に翻訳されて聞こえているらしいが、わたしには、この文字で書く言葉、バイストン・ウェル語で、あなた方の言葉が翻訳されて聞こえているのである。」

この言語学の講義、実はゼット・ライトのレジュメの受け売りであって、バーンはゼットに教えてもらうまで、この事実を知らなかった。トッド・ギネスが、

「どおりでなぁ。日本人だって言うこいつの、英語が上手すぎるのは、日本語も、自動的に英語に翻訳されるからか。しかし、それはなんでなのかって理由が、知りたいな、バーンさん。」

バーン先生は、こほんと咳をし、アンチョコを見て、続けた。

「それはつまり、地上で死した、全ての人の魂は、バイストン・ウェルで生まれ変わり、また人生を送る。そしてバイストン・ウェルでの生涯を終えると、また地上で生まれ変わる…からなのだ。」

すっかり、教室モードになったショウ・ザマが、先生に質問すべく、挙手し、

「ハイ、ハーイ!あの、生まれ変わるのは、わかったけど、言葉が自動的に翻訳できちゃうのは、なんでなんだ。」

バーン先生、アンチョコ見てから、生徒ショウを見て、

「それはつまり、バイストン・ウェルとは、地上界の、全ての人間の、あー、観念が、物体として現れる場所だからであって、えー、心の中の、うーん、共通の、そう、共通の観念は、全ての人間が、共通だからで…あるからなのだ。」

東京の私立高校では、劣等生だったショウでも、バーンの論理の破綻を突く事が出来た。

「共通の観念って?ヘンだよ、そんなの。英語の先生が言ってたけど、言葉は文化だから、考え方の違う言葉は、簡単に通じるもんじゃないって。直訳だけじゃ、意味が通じない事が多いじゃないか。なのにさ、ニュアンスとか、なんで簡単に翻訳出来ちゃうんだ?さっき、バーンさんは<部活動>がわかんなかったじゃないか。なのに<課外授業>はわかるんだろ。おかしいよ、言ってる事、矛盾してるよ。だからこんなの、俺の夢なんだと思う。現実だってんなら、わかるように説明してくれよ。」

「それは…」

トッドも挙手し、たたみかけた。

「じゃぁさぁ、地上の人生が終わってない俺たちが、ここで死んだら、次はどっちで生まれ変わるんだい?それにさ、それって輪廻転生思想だろ?わりぃけど、おれっちプロテスタント福音派だから聖書原理主義までいかないけどさ、魂の生まれ変わりは、認めてないんだよなぁ。それって仏教だよ。ショウの国の方。こぉんな、中世ヨーロッパ風建築のお城でさ、バーンさんはブリティッシュ・イングリッシュでさ、そんな東洋思想説かれても、全然説得力ないわけよ。ナイトがいて、ニンフがいて、それで黄泉の国ですってか?なんかさ、西洋と東洋のカッコイイとこだけ、色々合体させただけじゃねぇか、バイストン・ウェルって。蓋然性に欠けるんだよなァ。そこんとこ、どうよ。」

焦るバーン、トッド・ギネスめ、見かけによらず、結構物知りではないか、が、がいぜんせいってなんだ、ええと、アンチョコを見、腕組みし、早くも、

(わたしには、教職は向いていないのだ!あぁ、ミズル先生っ、助けて…午前の講師をミズル先生に頼んで、午後がわたしにすべきだった…)

第1会議室の黒板前、バーン・バニングス先生は、いやな汗をダクダクにかきながら、講義を続けなければならなかった。

<※ニンフ:トッドは、昨夜目撃したシルキー・マウを、ギリシア神話に登場する、人間の乙女の姿をした、植物の精霊、ニンフに模してこう表現した。>

<※黄泉の国:日本神話で、死後の世界のこと。黄泉の国では、現世の魂の、精神面が現れた姿となって、生まれ変わるため、現世で罪の深かった人間は、黄泉の国では悪鬼の姿となる。この点、バイストン・ウェルの世界観によく似ている。黄泉の国と現世を結ぶ、黄泉比良坂(よもつひらさか)を、行き来する伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は、オーラ・ロードを行き来する聖戦士を彷彿とさせる。>

<※共通の観念:ショウとトッドに補足。言語とは、観念が先に存在し、それに名前をつけているのではない。名前がつく事によって初めて、事象は概念化されるのである。

例1:このドラムロは赤いです→盲人に、色彩は概念化されない

例2:ガラリアの声はソプラノです→聾唖者に、音域は概念化されない

このように、「赤い」「ソプラノ」といった、ありふれた言葉ですら、ア・プリオリ(=共通の観念)ではないのである。そも、人間のみが悟性を保有し、再度人間にのみ生まれ変わるという思想は、仏陀の説く輪廻転生思想に大きくはずれる。盲人や聾唖者といった隣人にすら、悟性の差異を慮らない者の発想である。

例3:ラース・ワウは美しいお城である

ラース・ワウ城の、石塀に住む蟻は、地面としか認識していないので、蟻には翻訳不可能

「美しい」も、当然、共通の観念足りえない。「人間の悟性のみ」を、「観念」と呼ぶ前提からして、バイストン・ウェル脳内翻訳設定は、破綻しているのである。

仏陀は、蟻も人間も、命は平等である故、全ての命は結びつき輪廻し、全宇宙が生成する、と説いた。人間と、他の生き物とを、別物と捉えていては(=啓典思想)、そもそも輪廻(=仏教思想)が成立しないのである。

啓典思想:キリスト教ユダヤ教イスラム教を指す。啓典の民にとって、人間は唯一神に創造された、選ばれた存在である。

さて悟性とは、各人の母国語によって構築されている。脳=言語=論理性である。バーンの言う、人には共通の観念が在る故に、バイストン・ウェルでは脳内翻訳が可能、という理論は、事実上も論理上も、ありえないのである。所詮、マンガお伽話の設定である。

例題:バーンはちょーすいとる。ほんでなにー、服がこうといでかん。ちゃっとまわししといて、まっとかんこうせんとかんわ。

これを、瞬時に脳内翻訳できる者は、筆者と同郷で、盲人でないダンバインファンだけであろう。>

 


10:30 機械の館

 ゼット・ライトは、ICの製作室に入るため、青い制服の上に、白衣を着ていた。もうすぐ、ここへ地上のお仲間がやって来る。オーラ・マシンの製作工程を見学させる用意をしておこう。職工たちに、作業の指示していると、ゼットは、遠来から、愛しの君が、瑠璃色の鈴がころがるような声をたて、近付いて来るのがわかった。

「ガラリアたんだ。なんだろう、やけに、はしゃいでる様子だ。あの声は、ユリアも一緒だな。ガラリアは、普段、お口をヘの字に結んで、ムッとしている顔が多いけど、だ・か・ら、たまーに、ああして笑うと、心臓、鷲掴みにされちゃう、かわいさなんだよな。」

彼女が楽しいと、俺も楽しい。ウキウキして、ガラリアたちが来た、館の玄関へと向かったゼットは、瞬間、地獄へ突き落とされた。

 1人のオソロシイ美少年を、ガラリアとユリアが、寄り添い歩き、美少年の腕を両側から2人がかりで引き合い…ゼットの愛する瑠璃色の鈴は、

「セザル、なぁ、お前は、オーラ・マシンの操縦は、まだだよな。してみるか?ううん?ドロの操縦は、どうだ。ううん?したい?したぁい?そうか、シタイのだな。おい、ゼット、この子に操縦を教えるから、すぐドロを一機、準備してくれ。なぁセザルぅ、私が同乗して教えるからな。」

「ガラリア様ったら、ずるーい!セザルの指導は、わたくしがしますのよ。隊長は、下級兵と同乗なんて、しなくってよいのです。わたくし、下士官ユリアの仕事ですのよ。ね、セザル、わたくしが教えるから、いいわね。ゼット様、というわけなので、ドロ、準備頼みます。さあセザル、こちらよ。来てっ。」

「ガラリアさまぁ、ユリアさま。ケンカしないでほしいさ。僕、お2人と一緒に、乗りたいさ。」

 機械の館のあるじは…玄関の扉の陰に、うつむき立つ、同志を見つけた。死んだ魚顔のハンカチ君の、両肩を揺さぶり、

「おい、なんなんだ、あれは!おい、名無しのハンカチの青年!なんだい、あの小僧はッ?」

キャハキャハ笑いながら、ドロに乗り込む、男1人に女2人を見送りながら、ハンカチ君は、うつろな目で、ボソッと、

「ゼット・ライト様…いい、滝が、あるんですよ。」

ゼットは、同志の両肩に両手を置いたまま、

「滝?」

「ケ・ゴーンの滝と言いましてね。アの国の観光名所でして。フラオン王の直轄地、ニッ・コーにあります…高くて険しい、キレイな滝なんです。」

「なにを、言ってるんだ、あんた。」

「ケ・ゴーンの滝に、行きたい。俺は、もう。」

「おおい、しっかりしろ!目ぇ覚ませ!」往復ビンタ

 


11:00  ルフト領上空、ドロ機内

 操縦桿を握るセザル・ズロムは、左座席にガラリア、右にユリアを従えて、ゆうゆうとドロを飛ばしていた。青い髪の女は、恩人ミズルの嫡男へ、質問したいばかりであった。

「しかしぃ、ミズル殿は、何故にお前を勘当されたのか。1人息子であろう。大事な、後継ではないか。」

栗色の髪と、青い瞳が、父親譲りである美少年は、今はノーヘルで髪をたなびかせ、穏やかに笑いながら、

「僕、出来が悪いんです。小さい頃から、パパに叱られてばっかりだったさ。」

言いながら、初めてのオーラ・マシンの操縦を、難無くこなしている。指揮官を務めてきたガラリアには、彼の能力の高さが、充分すぎるほどわかった。ガラリアたちが、口々に、

「これが操縦桿で、こうすると上昇、降下はこうで」

と教えるとすぐ、

「じゃあ左右旋回はこうですね?あ、やっぱり。わあー、できたできた。」

機械の仕組みを、寸時に見抜いてしまう。飲み込みの早さと言い、コクピットの窓から、領内を見渡す視線の配り方と言い、並の者ではない。だのに本人は、自分を、出来が悪いのだと言う。

セザルは、しなを作りつつ、本編の主人公に、こう説明した。

士官学校には、少し通ったんです。でも、授業について行けないし、パパは、厳しいし。毎日辛くって、僕には、戦士は向いてないって思って、家出したんです。でもぅ、旅先でも結局、辛くって。お金なくなっちゃうし。それで、おうちに帰ったら、パパは許してくれないのさ。ズロムの子とは、公称させないって言われて。だから、僕とパパは、話しもしないしさ。パパ、おうちにも入れてくれないしさ。しょうがないから、正規軍に就職したって感じ、かな。」

ユリアには、驚きと供に、やや反感を抱く経歴でもあった。黄緑色の髪は、口には出さず、自分の学校時代を振り返った。

 わたくしは、平民で初めての、士官学校生だったから…騎士階級の子弟から、平民のくせにと、さんざんいじめられた。それを、この子は、領内きっての名家なのに。その恵まれた身分を捨てただなんて。わたくしとは、まるで正反対ですわ。騎士の家に生まれていたらと、悔しがってきたわたくし、辛い訓練にも、見返してやりたい気概で耐えてきたわたくしには、少し…贅沢だわ!セザルって!
 ユリアの感想は、等しくガラリアのそれであった。ガラリアは、幼い頃、ミズルが実の父であったらと、おじさんの実子を羨んだ記憶は、幾度となくあったからである。守備隊長は、よく見れば、ミズルに面差しの似た、少年になおも問うた。質問というより、言い聞かせたかった。

「セザル、それでお前は、この先、当然、父上に許して頂けるように、戦功を上げる意気でいるのであろうな。」

「うん?なんですか、戦功って。」

「なにって、戦役を評価され、出世する事に決まっておろう!戦士となったからには、名を上げるが目標で、しかるべきであろうが。」

するとセザル・ズロムは、ガラリアが、かつて考えた事も聞いた事もない、言葉を口にしたのだ。

「好きで戦士になったんじゃないです。騎士階級の、男の就職先は、軍隊しかないから、仕方なくさ。教師や医者になるには、僕は専門の勉強、してないし。若い男は、入隊しか道がないみたいに言われる世の中でしょ。ママがやれって言うからイヤイヤですよぅ。運良く死なずに、俸給で食えればいいです。出世なんてどうでもいいさ。」

 ガラリアは…愕然と、我が身を顧みるを、強いられたのだった。

 なんという男だろうか?こんな考え方の騎士に、初めて出会った。

 ガラリアが見てきた「男」とは、バーンやアトラスや、騎士然と武勇を競う者、でしかなかった。戦士ではないゼット・ライトら技術者とて、「男らしく」軍のために、働く意欲に満ちている。平民の男だとて、ご領主様のためにと「男らしく」農業や召使いの仕事に励んでいるというに。

 女性の私だとて、名誉を上げたい、強くなりたいと願ってきた。特に、私は、ニャムヒー家の威信を、背中に背負っている。戦功を上げる以外に…恋に破れた私には…生きる謂われが、無いからなのに?

 セザルの言う事は、まるで、私の生き方に、

なんのために戦うのか?

と、問い掛けているかのようだ。私は、騎士の家の子だから、騎士の父親が、罪人だったから、いじめられた。それが悔しくて、自分も騎士を目指した…。

私が戦士と成ったのは、何故か!

ガラリアの、この自分への問い、これこそ、彼女が、今まで一度も、自分に突きつけなかった、自己の存在証明そのものであった。彼女は、あどけなく笑うセザルに、学校を中退したセザルに、初運転のドロを、もう急旋回させて、はしゃいでいるセザルに、

越えられないなにか

を感じた。ガラリアが、ドロの初搭乗時、上手く操縦出来なかった。機械を使う事すら初めてだったのだ。これでは、新時代の戦士失格だと思うと、悔しくて悔しくて。夜なべして説明書を読み、ゼットに頼み込んで何度も練習した。全ては出世のため、オーラ・マシンの会得も、名の知れた戦士に成るためと思い、努力してきた。

ところが、セザルは、それを一見で解し、

「これ、すっごく楽しいですね。遠くの山々が、きれいに見えるさ!このまま、外国に旅行に行きたいさ。」

まるで玩具のように扱っている。旅行だと?風景がきれいだと?

(考え方一つ、違うだけで、世の中そのものまで、違ってしまうものなのか。この子の目には、世界は、私が見ている世界とは、まるで違うものに、映っているのだ)

そして、ガラリアは、セザルに対して、もやもやと薄暗い、羨望を覚えた。

ズロム家の嫡男。美しい容姿。学校を辞めたのは、彼の才能が、学校以上にあったからだ。授業について行けなかったと言うのは、ほぼ嘘だ。実際のところ、彼には、学校がつまらなかったのであろうな…これら、騎士ならば、誰もが羨む賜物を、いくつも持ちながら、それにまるで執着しない。彼の目は、私や、ユリアやバーンとは、全然異なった方を、見ている。

だが、彼に対して、私は、この焦りとも怒りともつかない感情を、ぶつける事が、出来ぬ。

言われてみれば、バイストン・ウェルの乱世にあって、敢えて戦士を目指したのではない、と言うセザルの言い分が、悪いと言える根拠が、私には見つからない。

彼を軽蔑するは、たやすい。騎士らしくない、男らしくないと責めるは、容易い。バーン・バニングスならば簡単に、

「意気地無しの、やさ男め」

と一蹴するだけだろう。だが、ガラリアは、違った。何故なら、彼女は、考え始めていたからだった。父と恋人を戦争で失った彼女には…私はなぜ、戦士の道を歩むのか…人は、なぜ、生きるのか、と…

 操縦席のセザルは、下界を見下ろし、

「あ、聖戦士たちが、機械の館に来たみたい!降下しますね、僕、地上人と話してみたい。地上には、階級が無いっていうでしょう。僕、それを詳しく知りたいさ。」

 階級…私は、騎士階級。だから戦士に成ったのか?

「セザル。もう一つ、聞いてよいか。」

「はぁーい、なんですか、ガラリア様。」

「私の部下になりたくて、守備隊を志願したと言ったな。それは何故か。」

「だってさ、機械の館の勤務は、前線に出ないから比較的、安全だけど、僕、機械油や、重い物持つの、苦手だし。警備隊は、おっさんばっかで、むさくるしいから、イヤさ。その点、ガラリア様の、守備隊!副官、ユリア様もいて、きれいな人ばっかりさ。だからですよ。うふ。」

 ユリアもガラリアも、また、セザルの甘え声に、かわいいしなに、クチ、パカーになってしまい、この子は憎めないと…つまり、まんまとセザルの術中に、落ちていた。

 


11:30 再び、機械の館

 バーン・バニングスは、3人の地上人を引き連れ、白衣のゼット・ライトを、改めて紹介していた。トッド・ギネスは、褐色の肌の、同郷人をハグし、

「こぉんなところでスプリング・フィールドの人に会えるとはなァ!嬉しいぜ、俺はボストンだ、よろしく!」

明るく挨拶してくれるトッドに、紳士ゼット・ライトは、すぐ打ち解けて、2人のアメリカ男は、抱き合い肩を叩き、次いで力強く握手をしている。バーンは、彼らをジト目で見やり、先生の傍から離れないショウに、

「地上には、あのように、男同士で抱き合う習慣が、あるのかね?」

と尋ねた。ショウは、

アメリカ人だからだよ。俺の国ではあんな事しないよ。だからさ、挨拶ひとつとったって、文化が違うんだから、言葉の違いはなおさら、」

「その話しは、もうよい。では、ゼット様、彼らにオーラ・マシンの説明をお願い致す。」

バーンとゼット、3人の聖戦士は、ぞろぞろと館内を歩いた。トッドは、ゼットと並び、バーンが先に行くのを見てから、先生には聞こえないように、同郷人にささやいた。

「さっきさ、お城で、英語の説明書、読んだんだけど、あれを書いたのは、あんただよね?文の言い回しが、昨夜会った、ショット・ウェポンじゃぁない感じ。」

「ああ、俺が書いたものだよ、トッド。」

すると金髪の男は、青い瞳孔を垂れ目に転がして、いたずらっぽく笑い、

「あのバーンさんがよ、バイストン・ウェルの説明してくれたんだけど、全然、わからねぇんだ。あんたのプリントを黙って読んでた方が、ずっとよく理解出来たよ。助かったぜ、ありがとう。しかしきれいな字だね、ゼット・ライト。まとめ方も上手だし。エンジニアで、あれだけの名文を書けるインテリときたら。ひょっとして大学は?」

「ああ、一応、マサチューセッツ工科大。」

「どおりでなァ!俺、受験したかったんだけど、無理だったんだよ。」

バーン・バニングスの背後で、アメリカ人同士は、意気投合、わたしの傍らには口答えの多い生徒、ショウ・ザマ。前方に、オーラマルスの製作所を眺め、受け口で「へぇ」を連打しているトカマク。

 バーンは、午前中の業務で、もうかなり疲弊していた。精神疲れだ。授業なんてやるのではなかった。

わたしの本領発揮は、今夜のガッダーとの対戦だ。見て驚け、わたしは口で説明するより、行動で示すタイプだ。

そうして、聖戦士3人は、先輩地上人、ゼット・ライトの引率で、オーラ・マシンの仕組みを学び、ダンバインの見学現場に移動。生命エネルギー、オーラ力で動く機械の説明は、全てゼットが話し、バーンは、さも自分の代わりにゼットに話させているのだ、な顔をしながら、

(そうだったのか。体調が悪い状態で、操縦すると、それがオーラ力に反映して、機械の威力も減少してしまうのか…知らなかった…二日酔いや睡眠不足には気をつけねばな。ふむ?通信に使っている、相手の顔が映る機械は、もにたーと言うのか。知らなかった。ほう、小型のかめらが、もにたーの横についていたのか。知らなかった。それでお互いの顔が投射されていたのか。わたしはてっきり、もにたー部分が、鏡か、窓ガラスのように透けて映っているのかと思っていた。)

本日、バーン・バニングスは、ゼット先生のお蔭で、たくさん学習する事が出来た。

 


12:00 ダンバイン置き場

 緑のまばゆい野原、3体の色違いダンバインコクピットを覗き込むバーンが、学習成果をブツブツ反芻していると、上空に浮かぶドロを指して、トッド・ギネスが、

「あれは?俺たちが乗るのは、このダンバインだけなのかい?あれもオーラで飛んでるのかい。」

バーンが答えようとしたら、ゼット先生が先に説明してしまったので、今ごろになって、お株を取られたと、青い長髪は、機嫌が悪くなった。

「ゼット様、お疲れ様でありました。昼食に戻られて下さい。後はわたしが案内する」

ゼットは、上空のドロを見上げ、

(あれはさっき、ガラリアが美少年を乗せて行った機体だ。ダンバインの横に降下するつもりだな?)

機械の館のあるじは、そそくさとその場を去ったので、バーンはこほんと咳払いし、

「では、各々方。我々も城に戻るとしよう。」

すると、ドロが1機、近くに着陸したので、地上人たちは、あれも見せてくれよ、と騒いだ。バーンは眉をしかめた。

(誰だ、こんな所に降下する事は、許可しておらんぞ。)

直径13メートルの円形のドロは、1人乗りのダンバインと違い、数名の搭乗が可能である。昇降口は、部屋のドアと同じぐらいの大きさ、単なるドアである。

 ドアが開かれ、現れた者を見るや、トッドが、

「彼女じゃんか!会いたかったぜ。オッ、今日の服もいかすよ。軍服か、ハァー、かっこいいぜ。禁欲的な服装に、グラマーときた、君って最高。」

バーンは、またしてもこやつは!トッドに、女性への礼節を教えるのをすっかり忘れていた、ショウが余計な質問をするからだ、そしてガラリアはどうしてここに来たのだ、トッドには、なるべく会わせたくないのに、と、全て他人のせいにしてムカついた。

 ガラリアは、ユリアを従え、つかつかと歩み寄り、

「バーン、我々、守備隊にも、聖戦士殿を紹介してほしい。そうだ、尋ねたいのだ。聖戦士殿は、所属としてはどの隊に入るのだ?」

ショウ・ザマは、青い髪のおねいさんと、黄緑色の髪の、若い方の子と、その後ろに、ヘルメットを被った、背の高い男がいるのを見つけて、彼と目が合った。目が…

(なんだろ?あいつ、俺ばかり、ジロジロ見てる。なんだよ、ずっと目が合いっぱなしだ。なんでそんなに、見るんだ。地上人だから珍しいのかな。だったら、トッドやトカマクも見ればいいじゃないか?)

 バーン・バニングスは、ガラリアと向き合い、脇の下に、照れくささと緊張と、熱い汗を感じながら、

「聖戦士殿は、剣客であるから、所属部隊は、無い。独立した傭兵部隊として、動く事になるだろう。それより、ガラリア、なぜここに来た。許可した覚えはないぞ。」

「ドロの点検、兼、試運転だ。私がどこに着陸しようと、お前に指図される覚えこそ、ないぞ。」

 ガラリアは、チラチラ、トッドの視線を感じて横を向き、頬を紅潮させながら、バーンには、殊更、引き締めた顔をして見せようとした。その表情の変化は、ガラリアにしてみれば、

(バーンに、私の恋心を悟られたくない、でも、トッドが、ヘンな事言うのだ、あれは、口説こうとしているのだろうか、ああもう、そういう事言うの、やめてくれ、気持ちが揺らぐから)

という戸惑いが、自然に顕れたものなのだが、バーンから見ると、

(ガラリアめ、トッドを見る時は、艶っぽい顔をするくせに、わたしには、つまらなそうな顔だ!)

になり、両者の関係は、他者が介在する事により、よりややこしくなるのだった。

 部下2名を引き連れたガラリアは、意識して勇ましい声で、

「バーン、午後のガイダンスの教官は、ミズル・ズロム殿であろう。それで、お前に、私からも紹介したい者がいる。セザル、これへ。」

ショウ・ザマは、さっきから俺ばかり見つめるヘルメットの男が、自分たちの前に、歩み出たので、なにか、無性に怖くなり、後ずさりした。

ヘルメットの下級兵は、相変わらず、被り物をしたまま、騎士団長の前に立つ。それを、ガラリアとユリアは、注意もせず、女同士で目配せし、笑っているではないか?バーンは、

(わたしを中心に、後方に地上人3人、前に守備隊員、3人。内、わたしの好きな子は、言う事を聞かないし、トッドはトカマクに、ひそひそと、)

「あっちの、小柄な子も、可愛いな。トカマクはどっちがタイプだ?」

「俺ァ、ちっちゃい方の子!トッドは青い髪の方か。彼女も捨てがたい美人だなあ。」

「青い髪の子は、昨夜から、もう俺が目ぇ―つけてるんだからな。手ぇ出すなよ。」

あぁ゛――――ッ、ただでさえ午前の授業で疲れているのに、この、無礼なニューキャラ軍団め!イライラする!そしてなんだこの、ヘルメットは。

「その方!騎士団長の前である。被り物をとらぬか!下級兵の分際で、その態度はなんだ。聖戦士殿に、バイストン・ウェル騎士の礼節を、お見せしろ。敬礼、脱帽!」

 すると彼は、気をつけはしたが、またもや、もったいぶってヘルメットをとったのだった。

 

 

<次回予告>

BGM ♪ちゃらららっ ちゃららららっ♪

やっほう、セザル・ズロムでーす。
この次回予告コーナー、今まで喋ってたのが、僕だったって、
わかってくれたかな、読者の皆さんさ!
一日の出来事を、時刻を追って書くつもりが、
ガラマニ日誌みたく、長くなっちゃってさ、
お昼ご飯になったところで、以下、次号さ!
さぁて、次回の月下の花は。
午後のガイダンスで、パパがトッドと対峙さ。
第16章で、パパは、トッドの顔見てブルってたのは、どうしてなのかな?うふ。
そいで、夜は、ドレイク様が演説する園遊会さ。
そこへ襲撃してくる、ゼラーナ隊さ!お待ちかね、ドンパチさ!
筆者は全然、お待ちかねじゃないんだけどさ、
そろそろ、非童貞のニー・ギブンも出てこないとさ、
リムル姫が寂しがるじゃん?そうそう、童貞といえば、
僕の上官、素人童貞の、名無しのハンカチさん。筆者、今ごろになって、
ハンカチさんに名前つけとけばよかったって、後悔してるけど、遅いさ!
じゃっ、またねぃ。

 

2004年5月29日